行間四:忍び寄る不和
『覗き見』から返って来た銀髪の少女は、今回の『レオ帝国』での騒動の顛末に対して浅く息を吐いた。
しかし、人間らしい動作を見せたのは一瞬だけだった。すぐにいつもの機械のような無機質な佇まいに戻る。
「……これも全て、あなたの思い通りですか?」
この部屋に誰かがいる訳ではない。ただ青白いホログラム映像で現された、とある人物に向かって話しかけているだけだ。
彼女は、どこか嬉しそうな声音で答える。
『ええ、今回の一件でヘルト・ハイラントへの対策はほぼ完了しました。次手で準備が整う。まずはアーサー・レンフィールド、彼を世界から弾き出す。長い準備期間でしたが、ようやくここまで至れました。少し気が早いですが感慨深いですね』
「……利用するのは、やはり『キャンサー帝国』のアンソニー・ウォード=キャンサーですね」
『ええ、彼は「協定」に対して最も積極的ですから。それ以上に何かを企んでいるという事だろうけど……私には関係ない。せいぜいヘルト・ハイラントを殺すために利用させて貰いますよ』
自信満々に言い切って、彼女は一方的に通信を切った。
彼女はただの人間で、直接対峙すればヘルトどころかアーサーに傷一つ負わせる事はできないだろう。だが自身を弱者だと理解しているからこそ、彼女はここまで準備を整えてきたのだ。
(……彼女の復讐が成功しようと失敗しようと構いません。どう転ぼうと私の『計画』に変わりはないのですから)
だが復讐心に取り憑かれている彼女の気持ちが分からない訳ではない。
だからこそ、同時に思う。
(まあ、成功した方が『計画』が捗るので成功は祈りますが。……祈るだけ、ですけど)