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村人Aでも勇者を超えられる。  作者: 日向日影
第一六章 始まりの地にて集うは英雄達 Bullet_of_World_Revolution.
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331 群れるだけの集団

 四人は一斉に駆け出したが、先頭は自然とアーサーになっていた。クロウの不死身も使えない以上、盾を持つアーサーが一番その位置に向いていたのだ。

 彼らがその陣形を取ったのは計画的ではなかったが、結果的には最良の陣形だった。盾を持っているということ以上に、無意識の戦闘勘で視認できないほど高速で撃ち出される触手を盾で防いで確実に距離を詰めていく。


「頼む、みんな!!」


 アーサーの呼びかけに応じ、三人が一斉に背後から躍り出た。

 まずはクロウが煙幕代わりに鎌を振るいながら広範囲に蒼炎を撒き散らし、紛れながら紬とフィリアが突っ込む。


「全力全開―――『光凰剣(ガラティーン)()瞬閃光(オーバーレイ)』!!」


 短刀を延長するように光の刀身がどこまでも伸び、紬はそれを横薙ぎに振るってヨグ=ソトースを斬る。両断とは行かなかったが、それでも切り口はできた。すかさずフィリアはそこに目掛けて手榴弾を投げ込み、その爆発で傷口を広げた。


『それだけでは届かん』

「―――いいや、そこは射程圏内だ! 突き穿て―――『皓々と輝く神殺しの聖(ロンゴミニアド)槍』ッ!!」


 最後に蒼炎の中から飛び出てきたのはアーサーだった。白く光り輝く右手を引き絞り、傷口目掛けて真っ直ぐ撃ち込む。光はヨグ=ソトースの体を貫通し、体内魔力を強制的に体外へと排出させる。

 だが魔力に依存しない『この世のモノではない力』には無意味だった。元々傷つける技でもないので、ロクなダメージも通っていない。


『神殺しの槍、か……。それこそ、私には効かないぞ』

「ああそうかよ、ならとっておきだ。休憩はもう良いだろ? 集まれ―――『ディッパーズ』!!」


 まるで、彼の言葉に呼応したようだった。

 ドッッッ!!!!!! という衝撃がアーサーの目の前、ヨグ=ソトースの頭上から襲いかかった。

 その光の正体は、放った時にはすでに当たっている因果反転の魔法の矢。シャルル・ファリエールの『先端ヨリ出ル(アルナスル・)不可避ノ星矢(スナイプメテオ)』だ。

 衝撃で近くにいたアーサーまでも吹き飛んだが、その顔には笑みが浮かべられていた。吹き飛ばされている最中、彼は続けざまに叫ぶ。


「アンナ!! カヴァスッ!!」

「ええ―――『滅炎の(スローター・)金獅子(エンブレオ)』!!」

「ああ―――『天狼雷波(シリウス)』!!」


 こちらも唐突に現れた二人が金色の炎と眩い稲妻でヨグ=ソトースを追撃する。

 そして、吹き飛ばされて地面に激突しそうになっていたアーサーをニックが受け止めた。


「よう。呼びかけが『ディッパーズ』だけってのはどうなんだ?」

「別にチーム名ってだけで叫んだ訳じゃないんだよ」


 ニックに降ろされて地面に足を着けたアーサーは辺りをぐるりと見渡した。

『ディッパーズ』『オンブラ』『ナイトメア』『ラウンドナイツ』。そしてどこにも属していない協力者たち。

 チーム名だけを並べるなら四チーム二〇人。プラス四人の合計二四人。


 絶望に抗い続ける者。

 希望を絶やさない者。

 前へ進み続ける者。

 そういった者達を、人は時にヒーローと呼ぶ。


 レイナはローグがそう言っていたとアーサーに伝えた。決して好きな訳でもないし、父親だと言われてもピンと来ない。でも彼がやって来たことや、伝えてくれた言葉を全て否定する気にはなれなかった。


「俺達七人だけじゃない。ここにいるみんなが……目の前の絶望に立ち向かう全員が『ディッパーズ』なんだ」


 アーサー・S・(スプリング)レンフィールド。

 近衛(このえ)結祈(ゆき)

 サラ・テトラーゼ=スコーピオン。

 ラプラス。

 レミニア・アインザーム。

 アンナ・シルヴェスター。

 シャルル・ファリエール。

 ネミリア=N。

 アリシア・グレイティス=タウロス。

 ニック。

 ミランダ。

 レナート。

 マルコ。

 メア・イェーガー。

 ユキノ・トリガー。

 ミリアム・ハント。

 リリアナ・ストライダー。

 クロウ・サーティーン。

 レイナ・ブラッドクロス。

 フィリア・フェイルノート。

 穂鷹(ほだか)(つむぎ)

 エリナ・アロンダイト。

 カヴァス・S・(スプリング)ゴルラゴン。

 ソラ。


 ……正直、よくもまあここまで物好きが集まったものだと思う。見返りの保証なんて何も無いし、それどころか命の危険だって付きまとう。成功する保障も無いし、成功したとして自分の中の何かを擦り減らしていくような戦いの連続だ。


(でも……だけど、守りたいと思ったんだ。顔も知らない誰かだろうと、偽善だらけの感情だろうとどうでも良い。それでも誰かを助けたいっていう思いが、間違いのはずがないんだから)


 目を閉じて、全員の顔を思い浮かべると変化はすぐにあった。


「これは……」


 一番傍にいたニックが最初に変化に気づいた。

 アーサーの全身を青白い燐光が包み込み、それがまるで伝播するように二四人全員の体から発光したのだ。



「―――『桜花絢爛(クロス・リンク)』」



 その力の名を、アーサーは呼んだ。

 まるで祝詞のように優し気な声音で。この力の本来の使い手で、実の母親であるサクラ・S・(スプリング)ユスティーツの事を想いながら。

 この力をアーサーは気に入っている。他者と繋がる事に特化したこの力は、とても温かいのだ。ビビが繋いでくれた自然魔力を使って戦うアーサーは(周りにはそう思われていないかもしれないが)常に一人で戦っているとは思っていない。だけどこの力は、目に見えて周りの仲間達と力を合わせて戦えている。それがとても心地良いのだ。


「……闇雲な『消滅』の力じゃお前には届かないって学習したからな。『魔装騎兵』を破壊した時みたいに、みんなの力で対抗させて貰う」


 笑みを浮かべて彼は言う。

 ぞろぞろと、ヨグ=ソトースの周りを取り囲むようにみんなが集まって来た。

 戦うための力を纏って心地良いと感じられる少年は、どこか壊れているのかもしれない。強大な敵を前に死ぬかもしれないというのに、笑みを浮かべられる少年はやはり狂っているのかもしれない。


「覚悟は良いか? 孤独を突き詰めた最強かわいそうなひとりぼっち


 それでもここが自分の居場所だと自覚しているから。

『担ぎし者』。そんな呪いが無くても、世界に溢れる理不尽を一つでも無くす事ができるなら。世界のどこかで孤独に流れる涙の意味を変えられるのなら。

 それで、良い。

 どこにでもいるごく普通の少年は、そう思ってしまえるのだ。


「お前が馬鹿にした、群れるだけの集団(にんげんのちから)を見せてやる!!」


 そして少年は多くの仲間と共に。

 かけがえのない祈りを胸に、何度目かになる闘争へと身を投じていく。

ありがとうございます。

次回、ヨグ=ソトース戦決着です!

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