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村人Aでも勇者を超えられる。  作者: 日向日影
第一六章 始まりの地にて集うは英雄達 Bullet_of_World_Revolution.
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317 『ディッパーズ』と『ナイトメア』と『オンブラ』

 三人にネミリアが加わった一行は、移動を再開して再びの格納庫まで辿り着いた。ヨグ=ソトースの気配は無いが、大きな変化がそこにはあった。


「……一機、減ってるわね」

「厳密に言うならヨグ=ソトースが乗って来たのも含めて二機減っています。どちらも場所を移動したんでしょうか?」


 サラの漏らした声にレミニアは反応しながら、新たな疑問を溢した。

 三機あったはずの『魔装騎兵(まそうきへい)』だが、赤い機体が無くなっている。どうやらヨグ=ソトースも馬鹿では無いらしい。再び誰かがここに戻って来る可能性を考慮して、別の場所へと移ったのだろう。ここでいきなり戦闘にならなかったのは嬉しいが、向こうが『魔装騎兵』を二機所持しているというのは問題だった。せめてこの灰と蒼の二機を動かせれば良いのだが、試しに灰の機体に触れてみるがうんともすんとも言わない。視界の端でネミリアも同じように蒼の機体に触れているが、やはり何も起きていなかった。


(これを生身で二機も相手にするのは骨が折れますね……いえ、注視するポイントがズレている? 問題なのは赤い機体が無くなった事ではなく、どうして灰と蒼を置いて行ったのか、という事でしょうか……)


 一人で二機操れるなら、四機全てを操った方が戦力は上がる。それが出来なかったのは二機が限界なのか、あるいは別の要因なのか。『魔装騎兵(まそうきへい)』について詳しい情報を所持していないラプラスには判断できなかった。


「……ねえ、みんな。先に謝っておきたい事があるんだけど。まあ前提としてあたしの第六感(シックスセンス)ってあくまで感覚だから結祈ほど万能じゃないのよねえ……」

「……待って下さい。不穏な気配しかしませんが、何を言いたいんですか……?」


 レミニアの不安が的中したように、彼女達の中心に何かが投げ込まれた。球体のそれが何かを判断する前に、それは破裂と共に衝撃波を生み出して四人を後ろに吹き飛ばした。


「これが言いたかったのよ!!」


 足のブーツの裏からジェットを噴き出し、持ち前の運動神経で空中で体勢を整えたサラは、四人の中で唯一まともに着地した。そして警戒を呼び掛ける事が遅れた責任からか、真っ先に球体の飛んで来た方を睨んでバイザーを下ろす。サーモグラフィーのモードになっていたそこには二つの熱源が表示されていた。サラは自分の感覚でも周囲をしっかりと探ってから声を張り上げる。


「敵は二人! 備えて、撃って来る!!」


 言いながらサラも手のひらを向けてブラスター銃を放つ。自分自身の能力では近接戦しかできないため、この中距離射撃の武装はかなり助かる。とはいえ射撃に関しては素人だ。結局至近距離でしか当てられない事実に直面する。


「この射撃は素人だから問題無い。リリィ、予定通りに動いて!!」


 群青ポニーテールの少女、ユキノは指示を飛ばしながら銃を構えた。そしてサラのエネルギー弾を気にせず銃弾を放つ。それはレミニアを狙ったものだったが、彼女は掌に『転移魔法』の魔法陣を構えていたのでそれで防いでいた。


「えっ、な……ッ!?」


 しかしそこで妙な事が起きる。『転移魔法』の魔法陣で攻撃を防いでいたはずのレミニアの体に突然ワイヤーが絡まり、ぐるぐる巻きにされた彼女はその場に転倒してしまったのだ。

 さらに状況を支配しているのは『ナイトメア』の方だ。銀髪ポニーテールのリリアナが腰を低く落とし、刀へと手を伸ばしていたのだ。


「『雲耀(うんよう)―――」

「ッ、全員伏せてくだs

「―――一閃(いっせん)』!!」


 目には見えぬ斬撃で全てを斬り裂く一閃。それを予見したラプラスは警告を飛ばすが、言い終えるよりも前にリリアナの方が先に動いた。が、それよりもさらに早くネミリアの方が動いていた。彼女の『念動力』は生物を対象にする場合触れる必要があるが、リリアナの刀は生物ではない。そこで抜き放たれる前の刀を止める事で間接的に攻撃を止めたのだ。


「くぅ……長くは持ちません!」

「十分です!」


 叫びながらラプラスは銃を抜いてユキノに向ける。だが彼女がその行動を終わらせるよりも早く行動を起こしている者達がいた。

 ユキノはリリアナが気を引いている間に倒れているレミニアの顔に銃口を向けて人質にする。これで圧倒的に優位に立つのは『ナイトメア』の方かと思われた。

 しかし同時に動いていたのは『ディッパーズ』のサラだ。彼女は何もない空間に向かって蹴りを放つ。するとその足に何かを蹴り飛ばした重みがかかり、次の瞬間蹴り飛ばされて行くミリアムの姿が現れた。


「隠れても感知してるのよ!!」


 魔術は使えないが『半身機械化兵』の武装以外に鍛錬による常人以上の戦闘能力を持つユキノや、身体能力強化の魔術しか使わないが剣の腕が凄まじいリリアナとは違い、平均より少し上の戦闘能力しか持たないミリアムは魔術に偏った暗殺をしていた。

身体変化(メタモルフォーゼ)』。自身の体を全く別のものへ変化させる『無』の魔術。別の人間だけでなく、動物のように体の大きさが違うものにも変化できる他、さらには自分の体を魔力感知や科学系の探知にも引っ掛からない完全なステルス状態にする事もできる『無』の魔術ならではの魔法に等しい力。

 しかし、動物の超感覚までは誤魔化せないようだった。

 最初、『オルトリンデ』のバイザーには確かに二人しか映し出されていなかったが、サラの感覚は三人目の存在を鋭敏に感じ取っていた。その上で敵を油断させるためにあえて敵は二人と叫んでいたのだ。

 サラは自身が蹴り飛ばしたミリアムに向かって跳ぶと、足でお腹の辺りを踏みつけて動きを封じてからブラスター銃にエネルギーを溜めて掌を向けた。

 そこで丁度、ネミリアがリリアナを抑え込む限界が訪れた。しかし状況は数秒前とは打って変わっている。お互いが人質を取り合って硬直状態に突入していたのだ。

 この状況下で、まず最初に言葉を発したのはレミニアを拘束しているユキノだった。


「全員、戦闘を止めて動かないで。指一本でも動かしたら即座に引き金を引いてこの子の頭を吹き飛ばす」

「やれるものならやってみなさいよ。その瞬間、あんたの仲間の顔も吹っ飛ぶわよ。さあ、ほら!」


 応じるように叫んだサラの掌の輝きが増す。それを向けられているミリアムは視線は動かさず絞り出すような声を発する。


「……私には構わねぇで下さい、ユキノ」

「構うに決まっています! どうしますかユキノ? 今すぐ全員斬りますか!?」


 珍しく焦りの色を見せるリリアナだが、対してユキノの方は冷静さを保ったままだった。レミニアに向けた銃を握る手に力を込めながら静かに口を開く。


「……動かないで、リリィ。ミリアムもじっとしてて」


 そうして視線は自分に銃口を向けているラプラスの方に注ぐ。


「こっちの質問は一つ。あなた達はこの地下で何をやってるの?」

「逆に聞きたいんですが、そちらこそここで何をやっているんですか? ヨグ=ソトースが生み出したにしては触手っぽくないですし、魔族でも無いですよね?」

「ヨグ=ソトース? それって外に這い出てきた『人型の触手』の事?」


 お互いに銃口の位置は変えず、口だけしか動かしていない。しかし両者には疑念の色が浮かんでいた。


「……どうにも話が噛み合いませんね。あなた達はヨグ=ソトースの手下か何かじゃないんですか?」

「手下? そんな訳、私達は『W.A.N.D.(ワンド)』の……というかあなた達の方こそ一体何者なの?」

「……わたし達は『ディッパーズ』です」


 当惑したユキノの質問に慎重に答えたのは、彼女の一番傍にいて抑え込まれているレミニアだった。

 彼女の言葉で張り詰めていた場の空気が弛緩する。ユキノは自分の勘違いが分かり溜め息をつきながらレミニアから銃口を外した。サラとラプラスもその行動に合わせるように武器を仕舞う。


「ユキノ……もしかするとこの人達、さっき会ったクロウって人が言ってた人達じゃねぇですか?」

「えっ……クロウさんを知っているんですか!?」


 ミリアムが立ち上がりながら言うと、その人物名に強い反応を示したのはラプラスだった。その問いにユキノは雑に頷きながら、


「ええ、つい先程。何でもアーサー・レンフィールドに話があるとか」

「……彼は今、どこにいますか?」

「分からない。あっという間にどこかへ消えたから。私達からしても信用に足るほどの根拠が無かったし、殺せない以上は見過ごすのが一番得策だったから」

「まあ、妥当な判断でしょうね。今回は裏目に出たようですが」


 クロウの実力は『ピスケス王国』で嫌というほど知っている。あの不死身と死神の力が味方に付けば最高だったのだが、物事はそう上手く運ばないようだった。とはいえ結界の外に出られないのは同じなので、いずれ出会える事に期待して今は保留する。


「ところで、そっちにアーサー・レンフィールドはいないの? 『ディッパーズ』を名乗るならボスの彼がいるはずだよね?」

「……今はここにいません。別行動中です」

「じゃあどこに……」

「それは……」


 現在の状況を言うべきか少し迷ったが、『W.A.N.D.』という言葉を漏らしていたし、レミニアをすぐに解放した事もある。そこでラプラスは彼女達を信頼して全てを話す事にした。





    ◇◇◇◇◇◇◇





 地下で様々な出会いがあった頃、地上の方でも動きがあった。

 避難所を目指して『人型の触手』を倒しながら進んでいた結祈(ゆき)、アンナ、シャルルの三人は無事に目的地へと辿り着けていた。

 アリシアが郊外と言っていたように結構離れた場所にそれはあった。方角が『ポラリス王国』方面にあるのも、やはり魔族の侵攻を想定してだろうか。今回はその備えが効果を発揮したようで、ざっと見ただけでも多くの住人の避難が完了していた。


「あっ、ミランダさん!」


 避難誘導をしている人員の中に見覚えのある女性がいたので、結祈は声を上げながら近づいていった。すると彼女もこちらに気づき、作業を別の人に任せて歩いて来た。


「『ディッパーズ』だな。アリシア様の方はどうなっているか分かるか?」

「今はニックって人が付いてて、城の方に戻ったはずだよ。でも『オンブラ』は『人型の触手』にやられて戦力は無い。ここは安全そうだし、ワタシ達も城の方に戻るつもりだけど何人か付いてきてくれない? 今のままだとアリシアを護る人員が少なすぎる」

「ならニックとの行動に慣れたマルコとレナート、それに私も同行しよう。『ディッパーズ』もいるなら私達だけで十分だ。それに国民の安全を考えると、これ以上の人員を割く訳にもいかないからな」


 そう言って二人に声を掛けに行ったミランダを見送り、姿が見えなくなった所で結祈はふっと疲れた息を吐いた。それを見落とさなかったアンナが彼女に声をかける。


「大丈夫なの? 移動中、ずっと魔力感知を使ってたんでしょ? 少しはここで休んで行ったら?」

「……心配ありがとう。でもそういう訳にはいかないよ。アーサーがいない分はワタシが頑張らないと……ここにいるみんなを守るためにも」

「まあ、頑張るのは止めないけど、ボク達もいるんだから少しは頼ってよね」

「うん、分かってる。頼りにしてるよ、二人とも」


 とはいえ、現状『人型の触手』を感知できるのは結祈だけだ。どこに敵がいるのか分からない危険を冒せない以上、移動には常に自然魔力感知を使う事になる。

 だけど、頼れる仲間が近くにいるだけで疲労の度合いは変わって来る。アンナとシャルルの言葉を受けて、改めてそう思う結祈だった。

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