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村人Aでも勇者を超えられる。  作者: 日向日影
第一六章 始まりの地にて集うは英雄達 Bullet_of_World_Revolution.
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313 リーダー不在の『ディッパーズ』

 慌ただしく走り続けた彼らは背後からのプレッシャーが収まったのを感じてようやく足を止めた。とはいえ決して油断はできない。念のため結祈(ゆき)が自然魔力感知を使って様子を伺い、その結果を述べる。


「……どうやら、逃げ切れたみたいだね」


 結祈が呟くと同時に全員が安堵の息をついた。

 正直、誰も生きた心地がしていなかった。なにせあの触手や化け物からは一切魔力を感じ取れていなかったのだ。結祈の確認だって自然魔力で動く輪郭を索敵しているに過ぎない。ついでに言うなら魔法でもないのに物理法則を完全にぶっちぎっているせいで『未来観測(ラプラス)』も正常に働かない。まさしく相性最悪だった。

 と、そこで思い出したように結祈がラプラスに問う。


「それで、ラプラスはアーサーを倒したあの力を知ってたみたいだけど何なの?」

「……触手の方は知りません。ただマスターの攻撃が通らなかった種は、私やクロノ、レミニアさんやリーヴァさんの核と同じ物です」

「え、それってつまり……」


 さっさと答えに辿り着いたレミニアの呟きにラプラスは頷きながら、


「『魔神石』です。『大地』のガイア。アレがある限りこちらの攻撃はほぼ通りません。何か方法を考えないと……」

「方法というなら一度城に戻りたい。嬢ちゃんが心配だ」


 この場でたった一人の男となってしまったニックの提案は自分勝手のように見えるが、セオリーで考えるならおかしくはない。彼はアリシアを護る『オンブラ』のリーダーで、今は行動を共にしているが『ディッパーズ』とはそもそも目的が違う。それに地上に戻ること自体は悪くない。ヨグ=ソトースは脅威だが所詮は独りだ。アリシアに報告して『タウロス王国』の全勢力を回して貰えれば打倒するチャンスがあるかもしれない。


「あたし達は一度転移で『スコーピオン帝国』に戻って、みんなを連れてまた戻って来るっていうのは? お姉ちゃんはああ言ってたけど、流石にこれは全員いた方が良いと思うわよ。アーサーだって回収しないといけないし」


 ニックに続くようにサラは『ディッパーズ』側としての意見を発言した。

 ラプラスは顎に手を置いて少し思考する。ハッキリ言えばラプラスの立ち位置はデータベースのような役割だ。『未来』や情報をアーサーに伝え、アーサーがそれらを踏まえて策を出力する。それがベストであり、こうしてラプラス自身が今後の動きについて考えているのは自分でも最適だとは思っていない。もしここにアレックスやセラがいればまた状況は違ったのだろうが、無いものねだりをしても仕方がない。ラプラスはアーサーの代わりを務めるために必死に頭を回す。

 サラの意見は正直、アリだ。というか迷っている間にもレミニアに転移を使って貰って移動するべきだろう。こうしている間にもヨグ=ソトースは動いているのだろうから。

 一度、地上に転移してニックにアリシアへの説明を任せ、『ディッパーズ』は『スコーピオン帝国』に戻って応援を呼ぶ。その道筋がラプラスの頭の中で完成する。


「……それが無難ですね。レミニアさん、彼を地上へ送って下さい」

「わかりました」


 言われてすぐにレミニアはニックの足元に魔法陣を展開し、彼一人だけを地上へと送った。その後すぐにラプラスは『スコーピオン帝国』への転移を頼む。

 しかし、


「はい、少し待ってくだ……? ……ッ!?」


 転移の準備を始めた所ですぐにレミニアの様子が変わる。手だけは前に出しているのに魔法陣が浮かび上がらない。その様子に彼女自身が一番うろたえていた。そうして数秒ほど何かと格闘した後にレミニアは唇を噛みしめながら白状する。


「……ダメです。この上以外、どこへも繋げられません! 『スコーピオン帝国』に帰れません!! これじゃあ……っ」


 慌てるレミニアだったが、その現象に覚えのあるラプラスは大して焦っておらず、安心させるように努めた口調でレミニアに伝える。


「おそらく『大地(ガイア)』の結界でしょう。外部と内部で魔力が遮断されましたね。マナフォンも通じないはずです」


 その言葉を傍で聞いていたサラがすぐにセラに連絡を取ろうとするが、ラプラスの言った通りそれが通じる事は無かった。動揺が広がるが、ラプラスだけは未だに冷静なままだった。


「ですが大丈夫です。体に纏った『大地(ガイア)』の力は無理でも、薄く広げた結界ならマスターの右手でも穴を開ける事くらいはできます。ですからまずは地上へ出てマスターと合流しましょう。それから回復を待って……」

「違います、そうじゃないんですッ」


 少し声を荒げた彼女にラプラスの言葉が止まった。

 レミニアは今にも泣き出しそうな顔でこう続ける。


「兄さんは外に飛ばしました。『タウロス王国』にはいません……いないんです」

「……、れは」


 初めてラプラスの動きが止まった。

 アーサーがいない。たったそれだけの事なのに、ハンマーで頭を殴られたような衝撃が襲いかかってきた。常に傍にあった拠り所を失って膝から崩れ落ちそうになった。

 影響を受けたのはラプラスだけではない。アーサーの不在という事実に沈黙が場を支配する。


「それで、彼がいないからって何?」


 その沈黙を破ったのは、シャルルが溢した大きな溜め息だった。

 どこか呆れたような素振りも見せながら、彼女は他の全員を見渡すように顔を動かして告げる。


「誰がいなくなろうと、ボク達のやるべき事は変わらない。アレを止めないときっと悲惨な事が起きるよ。数万人、もしかしたらそれ以上の人達が犠牲になるかもしれない。『グレムリン』の件でアーサー・レンフィールドって人がみんなにとってどれだけ心の支えになってるのかは分かってるけど、もし彼がいなきゃ何もできないっていうなら、今すぐ『ディッパーズ』なんて辞めて一般人に戻った方が良いよ。自分のためにも、世界のためにも」


 厳しい言葉を放っている自覚は彼女にもあった。同じチームなのに敵意を促してしまったかもしれないとも自覚していた。

 けれど、こうでも言わなければ彼女達が動かないのもシャルルは経験として知っていた。だからラプラスがここにいないアーサーの代わりを務めようとしていたように、シャルルもここにいないアレックスの代わりを果たそうとしていたのだ。

 結祈が何かを発言しそうな気配があった。

 何を言われるのか怖くないと言えば嘘になる。大体、『ディッパーズ』になるまで知り合いはダイアナだけのボッチなのだ。ようやくできた友人と進んで険悪になりたい訳ではない。


「『ディッパーズ』……そう、ワタシ達は『ディッパーズ』なんだよね」


 しかしシャルルの想像とは裏腹に、結祈は僅かに笑みを浮かべながら確認するように呟いた。


「アーサーが外にいるなら、それはそれで良い。どれくらいの時間がかかるのかは分からないけど、アーサーなら必ずここに戻って来る。いつもみたいに『希望』を引っ提げて、何事も無かったかのように平然と」

「……そうね。そういう人よね、アーサーは」


 結祈とサラが落ち着きを取り戻し、それに影響されてラプラスとレミニアも落ち着いて来た。レミニアは誰に言われる訳でもなく、自分達の足元に転移の魔法陣を展開した。


「地上に戻ります。何が起きているのか分からないので、警戒だけはしておいて下さい」


 言われて警戒を強める時間は一秒も無かった。

 転移は一瞬で終わり、『ディッパーズ』は地上へと戻って来る。

 そこで、彼女らが見たモノは……。

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