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村人Aでも勇者を超えられる。  作者: 日向日影
第一六章 始まりの地にて集うは英雄達 Bullet_of_World_Revolution.
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307 最初で最後の写真撮影

『ディッパーズ』。

 アーサー・レンフィールドを中心とした再結成からしばらく経ちますが、意外な事にその全員が一堂に会するのは本当に久しぶりです。


『スコーピオン帝国』での事件を終えた時にアーサー・レンフィールドは消失し、帰って来たと思ったら仲間が塵となって消えてしまう始末。しかし、何はともあれ彼らは再び揃いました。単なる同じ仕事仲間というよりは、家族という間柄に近い関係。それは五○○年前から色あせていない、『ディッパーズ』の風土のようなものです。


 さて、そんな『ディッパーズ』が再結成される前から、アーサー・レンフィールドは今と同じように色々な事件に関わり、また解決して来ました。しかし彼らはその後を知りません。ヒーローと呼ばれる者達は往々にして事件を解決した後の事にはあまり関心が湧かないようです。あるいは次から次へと事件に巻き込まれるせいで、振り返る機会が無いのかもしれませんね。


 アーサー・レンフィールド。アレックス・ウィンターソン。近衛(このえ)結祈(ゆき)。そしてサラ・テトラーゼ=スコーピオンも。『ジェミニ公国』から出国した彼らが初めて直面した事件として、『タウロス王国』でのドラゴン騒ぎがありました。アリシア・グレイティス=タウロスや『オンブラ』の協力もあり、彼らはフレッドの操るドラゴンを打倒して『タウロス王国』を救いました。


 では、単純な疑問です。

 フレッドが使っていたあの広大な地下施設。今はどうなっているのでしょうね。





    ◇◇◇◇◇◇◇





 誰も覚えていない事件が終結した事で『イルミナティ』はそれぞれのいるべき場所に戻った。

 その結果、本当に久しぶりにアーサーは『スコーピオン帝国』へと戻っていた。何だかんだ、いなかった間に『ディッパーズ』の人数は増えている。

 総勢一二人。彼らは今、アーサー達の復帰と『グレムリン』の阻止を祝って『ディッパーズ』本部の外でBBQをしていた。調理自体は全て機械任せなので、ぶっちゃけ立食形式で食べながら喋っているだけだが、それでも十二分に楽しめる。基本的に包丁よりも刀剣を握ってる時間の方が長い集団だ。美味ければ誰が作ったとしても関係ないのだろう。


「……、」


 そんな楽しい場から背を向け、アーサーはコップだけ持ってみんなから少し離れた位置に向かった。仲間達が楽しそうに談笑したり飲食しているのを眺めながら飲み物だけを味わっていると、こちらの様子に気づいた少年がすぐ傍に近づいて来る。


「よう、アーサー」

「……よう、アレックス」


 アレックスも同じようにコップだけを持っていた。適当な言葉を交わしながらコップをぶつけて音を鳴らし、それから二人してみんなの様子を眺める。こうしていると『アリエス王国』の戦いが終わった後、パーティーをした夜の事を思い出す。何となく感じる匂いもあの時と同じだ。少し違うのは今回は敗けた後という事くらいか。

 そんな風に感傷に浸っていると、唐突にアレックスが口を開く。


「この光景を噛みしめてんのか? まあ、もう一度全員集まったのは奇蹟みてえなもんだからな。特にテメェが」

「……でも、こうして集まった」


 アレックスは過去であった事を何も知らない。だから深い意味は無いのだろうが、目の前でみんなが消えていく様を見ていたアーサーには冗談に聞こえない。

 こうしてみんなが集まったのは確かに奇蹟だ。シエル・ニーデルマイヤーという一人の女性が、その命と引き換えに守ってくれた掛け替えのない奇蹟なのだ。


「ああ、だがいつも上手く行くとは限らねえ」


 唐突に放たれた物騒な台詞にアーサーはみんなの様子からアレックスへと視線を移した。アレックスは前を向いたまま続ける。


「予感がある。お前がいつも『第三次臨界大戦』の到来を予期してるように、俺にも大きな戦いが始まる確かな予感が。これまでの大戦とは全く違う、世界の全てを巻き込むような……そんな戦いが始まる。この目で見たんだ」


 そこまで話してアレックスもアーサーの方を向いた。その目の奥まで見据えて、彼が嘘を言っていたり頭がおかしくなった訳ではないのはすぐに分かった。

 本当に彼は予見しているのだ。自分と同じように、迫る来る戦いへの恐怖をヒシヒシと感じているのだろう。


「……俺がいない間、睡眠は取れてたか……?」

「その質問をするって事は、一応でも俺の話を信じたみてえだな。だったら話は早え。俺はお前がいねえ間に、みんなには反対されたが『機械歩兵(インファントリー)』を世界中に配備しようとした。多少の自由は損なわれるだろうが、俺は今でも必要な措置だと疑ってねえ。世界には安定した防衛力が必要だ。みんなの説得に協力してくれ」


 アレックスにはアーサーが説得すれば結祈たちも首を縦に振ると思って協力を願い出ていた。しかしアーサーは首を横に振って、


「それを聞いて俺が頷くとでも? 答えはノーだ。世界を守る為に俺達がいる」

「ああ、だが安定はしてねえ。ここ数日お前は行方不明。お前がいなくなって、結祈たちはショックで動かなくなった。『グレムリン』は阻止できたが、それもギリギリだった。ヘルト・ハイラントだっていつでもどこでも守れる訳じゃねえ。あいつは強いが、それでも体は一つだけだからな」


 それこそ、アレックスが一番懸念していた部分だった。

 アーサーやヘルトも、そして自分自身も。『ディッパーズ』も『W.A.N.D.(ワンド)』も全てが動けなかったら、その時世界をどう守るのか。


「世界中で突発的に起こる事件に対処するもの結構だが、『ディッパーズ』にとってのラスボスはもっと強力でデカい何かだ。もしタイミングの悪い状態で脅威が襲いかかって来たらどう戦うつもりだ?」

「みんなで」


 一ミリの迷いもなくアーサーが答えると、アレックスは吐き捨てるように笑う。


「言うと思った。だが敗けるぞ」

「それでも俺達で戦う。……悪いけど、例え脅されても俺の答えは変わらない。もしお前の言うように『第三次臨界大戦』を超える大きな戦いが待っているとしても……その時も一緒だ」


 アーサーの変わらぬ答えにアレックスは張り詰めていた緊張を解き、大きな呆れの溜め息をついてから、


「……まあ、テメェがそう言うのも分かってたけどな。馬鹿は死んでも治らねえってのは本当らしい」

「ねえ、二人とも! 男同士で話してばっかりいないでこっちに来なさいよ!!」


 話に一段落ついた所で、みんなと談笑していたサラがこちらに手を振って来た。アーサーとアレックスがみんなの所に戻ると、サラの手にはカメラが握られていた。


「せっかくみんなが揃ったんだし並んで写真でも撮らない? お姉ちゃんが持ってた古いタイプのやつだけど、十分綺麗に撮れるらしいわよ」

「……ま、結局私には使う機会が無かったからな。ただ錆びさせるのも勿体ないし、良いんじゃないか?」


 サラの発言に即座に賛同の意を示すセラ。相変わらずのサラ贔屓にみんなから温かい目線を注がられるが、流石というべきか彼女の胆力は無表情でやり過ごしていた。


「で、どうするのアーサー?」

「写真か……良いと思うぞ。俺も大事な写真は常に身に着けてるし、思い出を形に残すのは大事だ」


 結祈の質問に答えながら、アーサーは軽く胸のロケットを触っていた。

 大事なものが永遠にそのままとは限らない。これまでの道のりで、アーサーはそれを痛いほど痛感している。だからより一層、思い出を形に残すのには惹かれていた。


「良かった。ワタシもみんなと撮りたかったから。断られたらどうしようってサラと話してたんだよ?」

「最悪縛って並ばせようって話だったわね」

「マジかよ……流石に物騒すぎるんだけど」


 本当に選択を間違えなくて良かったと思う。というか縛られてる自分の左右で笑顔の二人が写真に残るとか絵面がヤバすぎる。何も知らない人が見たら、控えめに捉えても誘拐か何かに勘違いされてしまうだろう。

 一人戦々恐々としてると、レミニアが何かに気づいたようで疑問を上げる。


「ところで、全員並んだら誰が写真を撮るんですか?」

「安心して下さいレミニアさん。カメラにはタイマーがあります。それに一枚だけしか撮ってはいけない訳ではないので、順番に撮ってはどうですか?」

「じゃあ最初はボク達を抜いて『ディッパーズ』再建時の七人で撮ったらどう? ボクにとっても良い思い出だし」


 レミニアの疑問にはシグルドリーヴァが答え、それを受けてシャルルが皮肉混じりに一つの提案をした。この時点で写真を撮るのは決まっていた。さらにシャルルの提案が受け入れられる形になり、ぞろぞろとみんなが二手に分かれるように一斉に移動し始める。

 その中で、アレックスは雑に頭を掻きむしりながら呟く。


「俺はノスタルジーに浸る趣味はねえんだけどな……」

「はいはい、アレックスさんも照れてないで並びますよ」


 しっかり彼の声を拾っていたシルフィーがアレックスの背中を押してアーサーの左隣に並ばせると、彼女はアレックスが逃げないようにするためか、彼の腕に自分の腕を絡ませて半ば抱き着くような恰好で隣に並んだ。


「では、アーサーの隣は私です」

「じゃあワタシは前に行くね。サラとレミニアも一緒に並ぼう?」

「ええ」

「わかりました」


 空いていたアーサーの右にラプラスが音もなく静かに移動してくると、丁度写真の真ん中辺りになるアーサーとアレックスの間に結祈がしゃがむ。彼女の右にはサラ、左にはレミニアも同じようにしゃがんで並んだ。


「じゃあ撮るぞ」


 カシャ、とセラがカメラのシャッターを切った。

 七人の『ディッパーズ』が一つの記録として残っていくのだ。


(ああ……なんか良いな、こういうの)


 その時アーサーは何となく、幸せってこういう事を言うんだろうなと思っていた。

 多くの仲間に囲まれて、そこには笑顔が溢れている。少し前まで『ジェミニ公国』で暮らしていた頃では考えられなかった状況だ。

 失ったものも、得たものもある。だけど手に入れたこの居場所だけは、絶対に失いたくないと強く思っていた。


 しかし、運命というのは常に残酷だ。

 結局、今この場にいる全員が一同に会したのは、これが最初で最後の機会になってしまったのだから……。

ありがとうございます。

という訳で、第一六章の開幕です。


今回の章は割と長めで、行間込みで三二話くらいでしょうか。ぶっちゃけるとマージンを溜め込み過ぎて、今は第一八章を執筆してる最中なので、おそらく話数はこれで変わりません。投稿頻度あげようかしら?


今回の話の肝の一つは、この話の最後にあった言葉です。

犠牲が出るのが確定している中で、彼らがどう戦って行くのか。今回の章はフェーズ3最後という事もあり、色々と挑戦的な話になりそうです。

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