表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
村人Aでも勇者を超えられる。  作者: 日向日影
第一五章 未来とは決められたものなのか? Slaves_of_Fate.
339/576

299(Reverse) COME_BACK

「『その担い手は(フェイト・)運命を踏破する者(ホライズン)』!!」


 停止した時の中で、その少年は叫んでいた。

 これから先に待つ運命を知らない少年は、アユムとクロノから逃げるためにシエルを連れてその場から消え失せた。


「……行ったか」


 呟いたのは結末を知っているアーサーだった。

 時は再び動き出していた。フィリアやアインハルトに見つかる訳にはいかないので、物陰から様子を窺う。自分を信じてくれた二人の少女は困惑していた。そして一通り周囲を探した後で、二人は肩を寄せ合うようにして泣いていた。そんな状態なのに、彼女達は立ち上がって自分を探しに来てくれたのだ。それなのに結局自分は彼女達から離れた事を申し訳なく思いながら、しかし今は何もできないアーサーは視線を切った。


「それじゃローグ。『俺』を頼む」

「言われた通りに喋れば退かせられるんだよな?」

「ああ。終わり次第合流してくれ。開発放棄地区で待ち合わせだ」

「分かった」


 返事をしながら身を屈めたローグは地面を強く蹴って跳躍した。魔力で身体強化を施しての大ジャンプだろうが、動きに移るまでの行動がスムーズ過ぎて魔力の感じはほとんど感じられなかった。これでも弱体化しているというのだから質が悪い。しかし五〇〇年前の地獄を思い出すと、それほどの力が無いと生き残れなかったのかもしれない。

 ローグを見送るとアユムとクロノもこちらと合流した。そして直後、アユムが口を開く。


「本当に二人を放置して良かったのか? きみから保護を頼まれたんだけど」

「言っとくけど無効にはなってないから。今回の件が終わったら保護は頼む。……俺の恩人なんだ」

「あんな年端も行かない子供にも敬意を払えるのは素直に凄いと思うよ」

「そんなこと言ったら、アンタは五〇〇歳も年下の俺に協力してくれてる相当なお人好しになるけど?」


 意趣返しのつもりで言ったのだが、アユムは笑いながらそれを否定して。


「ぼくは違う。お人好しっていうのはローグみたいなやつの事だ。ぼくはそう呼ばれるには……多くの人を見殺しにし過ぎたよ」


 流石に今度はアーサーも何も言い返せなかった。意図的に話題を切るように視線を別方向に向ける。


「とりあえず俺達も合流場所に移動しよう。ゴールは分かってる」





    ◇◇◇◇◇◇◇





 開発放棄地区。

 足を踏み入れるのは今回が三度目。

 すでにシエルがアーサーを置いて『黒い男』の元へ向かうまで時間は無い。


「……、」


 決戦の場所がここというのが、アーサーの胸の中に疑念を生んでいた。ここなら派手に戦っても周囲に迷惑が掛からないから好都合。

 しかし、ここを指定したのはローグに未来の話をした自分で、それを伝えたのは未来で自分がローグにここを案内されたからだ。それがどうしても後ろから何かに引っ張られているような嫌な感覚を伝えてくるのだ。


「迷うな」


 その思考を見透かしているかのように、近くでクロノが声を発した。


「この道しか無かった」

「……分かってる。お前の事は信じてるからな」

「世界一信頼してるラプラスの次にか?」

「……その話題を出すのは意地悪すぎるだろ」


 未来にいるクロノから『ピスケス王国』の話を聞いたのだろう。しかもラプラスを自分自身以上に信頼している事も否定できないので、クロノに対して何も言い返せないのが現状だった。

 そんな彼に助け舟を出したのはローグだった。『アーサー』の誘導が終わったのでこちらに合流したのだ。いよいよ『黒い男』との再戦までの時間が秒読みになる。


「そういえばアーサー。きみ、未来では『ディッパーズ』のリーダーなんだって?」

「……? まあ、一応」


 思い出したような口調のアユムだった。そしてたった今思い付いた事のように流れるような口調で語る。


「じゃあ戦いの前に一言よろしく。みんなを鼓舞してくれ。伝統ってやつだ」

「いや鼓舞って……」


 アンタ達にそんなの必要あるのか? と言いかけて口をつぐんだ。良い機会だし、これが最後かもしれないから言いたい事は今言っておくべきだと急に思ったのだ。

 一歩前に出て、アーサーは四人の視線を集めながら口を開く。


「……俺達は負け犬だった。みんな一様に何かに失敗して、一度は停滞した。だろ?」


 アーサーは言うまでもなく、アユム、ローグ、オーウェンもアーサーが来なければずっと引きこもったままだっただろう。クロノだけは例外のように見えるかもしれないが、アーサーは彼女が未来で自殺に取り憑かれるのを知っている。それを先取りして、この場の全員が同じだと断じたのだ。


「だけど立ち直る機会を得て、こうして集った。ここにはもう負け犬なんかいない。いるのは怒りや後悔や喪失感、その全てを力に変えて煮えたぎらせている復讐者(アベンジャー)だ。きっと今度こそ成功する。……だからこれから先、どんな結末が待っていたとしても、戦いの前に一つだけ約束しよう」


 そして成功しようと失敗しようと、アーサーはこの地を去る。後はこの時代を生きていく彼らに任せるしかない。

 だからアーサーは、決戦前の最後の言葉をこう締めくくった。


「『ディッパーズ(おれたち)』がいる限り、世界を暗黒には染めさせない。やられたらやり返す。殺されても戦い続ける。世界に『希望』は絶やさない。だからアンタ達も『未来』を頼む。俺達まで『希望(バトン)』を繋いでくれ」


 彼らから言葉の返答は無かった。ただ、静かに首肯したのは確かに見た。

 だから不安は無かった。彼らなら大丈夫だと、同じ『ディッパーズ』として直感したからだった。

ありがとうございます。

次回で七話前から始まった【REVERSE_TIME】は終わりです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ