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村人Aでも勇者を超えられる。  作者: 日向日影
第一五章 未来とは決められたものなのか? Slaves_of_Fate.
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296 F.『時間』の真実

 第二波が過ぎ去った後、彼らの人数は再び減っていた。

 セラ、ハッピーフェイス、アナスタシア、ラプラスの姿はもうどこにも無い。残っているのはクロノ、結祈、そしてヘルトの三人のみだった。

 そして、そんな三人の前に現れた人物。クロノが元凶と名乗ったのは白衣を着た女性だった。


「一〇年ぶりだな、()()()

「あれで最後になるべきだった」


 当然の事だが、一〇年前よりも成長した姿だった。もはや年下の少女ではなく、年上の立派な女性だ。そして『新人類化計画』を促進させ、人類を電脳世界へと誘った。この荒廃した世界を作った張本人の一人。

 ヘルトと結祈は彼女の事を知らない。だから二人の会話のやり取りをじっと見つめているだけだ。ヘルトは本当は彼女に詰め寄りたい気持ちがあったのだが、相手の顔を見て思い留まっていた。

 シエルの立場は世界をこうする側のはずなのに、クロノの前に立つシエルの顔はやつれていたのだ。酷い後悔を抱えているようで、ここにもまるで懺悔に来たようだった。


「やはり記憶は戻っているようだな」

「……ついさっき、全部思い出した。アタシが生き残ったせいで、世界がこんな風に……」

「……、」


 彼女の様子に嘘は無いと判断したヘルトは体に込めていた力と警戒心を解いた。だけど彼女が後悔しているといっても事態が好転する訳ではない。


「シエル。今アーサーが過去に行っている。状況は分かるな?」

「……アタシを救っちゃうんでしょ? こうなる事を知ってたはずなのに……」

「えっ、ちょっと待って」


 二人の会話に思わず声を上げたのは結祈だった。


「どういう事? その言い方だと、まるでアーサーが世界をこうしたみたいな……」

「みたい、じゃない。アーサーがそうした。彼女を助けた事で『新人類化計画』が加速し、世界はこうなった」

「ああ、そうかい。そしてきみはそれを知っていたんだろう? 『時間』のクロノス」


 憤りの隠れた語気でヘルトは言い放ち、再び剣の切っ先をクロノへと向けた。

 それが物体であれば絶対に両断する力を持つ剣。その凶器を向けられたクロノはヘルトに視線を移して鼻を鳴らす。


「意外だな。お前とアーサーは仲が悪いと思っていたが」

「確かに馬は合わない。でも前の会議でぼくらは人を助ける事に関しては並々ならぬ思いがあるのは同じだと思った。だから彼みたいな人には酷な選択だと思うよ。ぼくなら問答無用でその人を殺せるだろうけど、彼には無理だろうからね」


 一瞬だけシエルに視線を向けると殺意を感じ取ったのか体を震わせて後ずさった。とはいえ今のシエルを殺した所で意味が無いのはヘルトも分かっているので、別に殺そうと思った訳ではない。そう思われるほど怖い顔をしていたのは、隣にいるクロノに対しての感情だったからだ。


「ぼくがきみに対して敵意を抱いているのは、きみがここに至るまでの経緯を知っていて、それをぼくらに話さなかった事だ。特にアーサー・レンフィールドに対して。きみは一体、どこからどこまで知っていた?」


 怖い形相のヘルトに対して、クロノはふんっと鼻を鳴らしてから、


「薄々勘づいてはいるんだろう? お前の疑問への答えは『全て』だ。私は今日この日の事を一〇年前から知っていた。なぜなら今過去に跳んでいるアーサーに協力しているように、一〇年前に私自身が関わった事件だからな」

「……それは、過去の改竄が行われた段階できみの記憶に刻みつけられたのか?」

「いいや、一〇年前からずっとある記憶だ。だから『イルミナティ』のメンバーはあの七人だった。過去の改竄の影響による第一波で消えない人間を、あらかじめ知っていたからだ。そしてこれから先の『未来』の事も……『イルミナティ』は必要な装置だった」


 ヘルトは自身の事をどこにでもいるごく普通の少年だと思っている。そんな彼は、当たり前の事だが『未来』を知らない。だからクロノの葛藤は全く理解できない。当然剣を握る手も緩まない。


「種明かしをするなら、本来、過去で何をしても未来は変わらない。例えば私達のいる世界を『世界線A』とするなら、『時間遡行(クロノス)』で向かう世界は『世界線B』だ。似ているがこれは別物で、『世界線A』で死んでいる者を『世界線B』で助けてから『世界線A』に戻って来ても、死んだ者は死んだままだ」

「……じゃあ、今起きている影響は……」

「だからこそ『箱舟』の力を使ったんだ。『直列次元』。あれを使えば同じ世界線の過去に送れる。だからアーサーの行動はこうして未来を変える結果になった」


 ヘルトは少しだけクロノから目線を外して周囲を見渡した。そこには彼のよく知る街並みではなく、世紀末のような廃れた街並みしかない。何も事情を知らずにこの光景を見れば、ヘルトはここを『ポラリス王国』とは思わなかっただろう。


「そのせいで世界はこうなった。それが分かっていて、どうして彼を過去なんかに……」

「どうしても必要な措置だった。あいつが過去に行かなければ、世界はこうなる前にもっと悲惨な結末を迎えていた」

「だったら今からでも遅くない。ぼくも過去に送ってくれ」

「無理だ、できない。それだけはする訳にはいかない。分かってくれとは言わないが」

「……、」


 何かを言い淀みながら、それでもヘルトは無言で剣を仕舞った。

 例えばここでクロノを殺せば全てが元に戻ると言われたら、ヘルトは躊躇わずに剣を振るっただろう。しかし彼女は現状、『過去』に干渉できる唯一の存在だ。それを激情に任せてみすみす手放すような愚かな真似はしない。その程度の理性は彼にも残っていた。


「最後に一つだけ聞かせてくれ。きみは今回の件の結末を知っているんだな?」

「もう答えた。『全て』、とな」

「……その言葉でぼくにも分かった気がするよ。今回の件の結末が」


 言いながら、ヘルトはクロノの隣のシエルへと視線を移した。さっきまで殺意を放っていた彼を警戒している様子だったが、ヘルトは構わずに言葉をかける。


「ぼくに頼み事があるんじゃないか? きみがここに来た理由や、ぼくの性格を知っている彼女がぼくをきみに会わせた理由が他に思い付かない」

「……っ」


 シエルは一瞬驚いた顔をしてから、観念したように白衣のポケットから何かを取り出してヘルトに差し出した。

 それはどこにでもあるような、白い封筒だった。

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