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村人Aでも勇者を超えられる。  作者: 日向日影
第一四章 安寧の地など何処にもない Story_of_Until_He_Returns.
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283 戦いの後の裏側で

 オーガスト・マクバーンの野望が絶たれ、『グレムリン』に連なる魔族達もやられた『ピスケス王国』。しかしそこには一人、戦いを避けて生き延びた者がいた。

 その名はウンディーネ。『人魚尖兵(マーメイドール)』という水の人魚で国中の人間から魔力を集めた、今回の要ともなっていた深い青の髪の少女。


「……やっぱりアーサー・レンフィールドが最大の障害、か……」


 確認するように呟きながらウンディーネはぎりっと奥歯を鳴らした。

 最初から面倒だとは分かっていたものの、『スコーピオン帝国』にいるという情報を得ていたし、先日の事件で死亡したという話も聞いていたから動き出したのだ。正直に言って話が違う。


「やっほー、お疲れ」


 苛立っている所にそんな間の抜けた声が挟まれた。

 聞き覚えのある声に振り返ると、そこにいたのはこれまで多くの人達を裏切ってきた狂人、ノイマンだった。一応は顔見知りのため、ウンディーネは張っていた警戒心を解く。


「そちらの首尾は?」

「まあ問題無く」


 ごそごそとポケットに手を突っ込んで取り出したのは、掌に収まるサイズの赤黒い石だった。ずっと眺めていると吸い込まれそうな感覚になる、奇妙は妖しさを持つ不思議な石だった。

 それを見て、苛立っていたウンディーネはようやく安堵の息を吐く。


「『人工魔神石』……。スプリガン達がやられたのは痛いけど、それを確保できたならまだ作戦は続けられる。それさえあれば、全ての科学を終わらせることができる」

「えっと、これを握って魔力を流せば『グレムリン』の魔法が発動するだっけ?」

「ええ、そうよ。でも今はそれより早くフレイ達と連絡を取らないと。アーサー・レンフィールドが生きてるって知らせて計画を練り直さないと、取り返しのつかない事になる」

「……ねえ、ウンディーネ」

「あなたも来なさい、ノイマン。私達に協力しているのなら」

「だから、それなんだけど」


 自然と吐き出された言葉。

 だが同時にノイマンは自然な動作で殺意を気取られる事なくウンディーネの背中にナイフを突き刺していた。


「ここで解消させて貰うよ」

「なっ……!?」


 ナイフは的確に急所を貫いていた。傷口を押さえ、ウンディーネの体が前に倒れる。何とか完全に崩れ落ちる前に膝を着いて留まったが、ノイマンは躊躇なく銃口をウンディーネの頭に突きつける。


「安心して良いよ。『グレムリン』はちゃんと発動させるから。でもアーサー・レンフィールドの生存をフレイ達に知らせる訳にはいかない。そんな事したら、私を追ってくる彼と遊べなくなっちゃうから」

「こ、のっ……科学の犬、が……!」

「あっはっは。私を信じて警戒心を解いちゃダメだよ。あなたの大嫌いな科学製の私から」

「ノイマァァァあああああああああああああ……っあ!?」


 パァン! と乾いた音が森に響いた。

 ウンディーネの体が横に落ちる。さらにその体目掛けて、ノイマンは弾切れになるまで銃弾を撃ち込み続けた。

 完全に動かなくなり、意識の無い血袋となったところでノイマンは遊んでいた玩具に飽きたように視線を切った。


「さーて、と。この後はどう動こっかなぁ?」


 狂人は踊るような足取りでその場を後にする。

 あるいは、次なる狂乱を求めて。





    ◇◇◇◇◇◇◇





『ピスケス王国』の森の中、ボロボロの体を引きずるようにして歩く影があった。

 全身が機械のその男、上手く生き延びたオーガスト・マクバーンの分身の一体が逃げていた。そもそも有事の際に自分の残すためのコピーだ。この逃げの一手は本来の用途に沿っているのだろう。

 しかし、それを待っていたかのように進行方向に蒼い炎に包まれた少年が現れた。クロウ・サーティーンという、機械に頼らなくても正真正銘の不死身の死神が。

 しばしの間、睨み合う両者。その沈黙を破ったのはクロウの一言だった。


「怖ェのか?」

「……何が?」

「死が。オマエが最後の一体だろ?」

「……ふん、不死身のお前には分からんだろうな。死に恐れる人間の心が」

「何言ってんだ。俺もお前も人間じゃねェだろ。俺は死神と契約した時、お前は全身を機械にした時にとっくに生は手放してる」

「……ああ、そうだったな。その通りだ」


 くつくつと、オーガストは笑いながらそれを認めた。

 武装もほとんど残っていない今のオーガストでは、クロウを退ける事はおろか逃げる事だってできないだろう。つまりここが彼の人生の終着点だ。

 クロウは浅く息を吐いて、蒼い炎が揺らめく手の中から唐突に現れた鎌を握る。


「オレにはもォ生への執着がねェ。今日改めて思い知った」


 魔族の一人、ウィリアムことウィル・オ・ウィスプは同類だったが、彼は感謝を述べて死んでいった。生と死の狭間で暮らす彼らにとっては、死とは恐れるものではなく憧れるものだ。その時点で普通の人間との感性とはズレているのだろう。

 でも。


「だからこそ、他のヤツらの生への執着が綺麗に見える。オマエのもな。……だがオマエは自分のだけで、周りのそれが見えてねェ」

「……」


 一瞬、オーガストが押し黙った。

 この分身は今の言葉に対する回答を持っていなかったのか、あるいはあえて何も言い返さなかったのか、クロウには分からない。

 やがて彼は、生涯最期の会話になるかもしれないと覚悟して言葉を吐き出す。


「……ヤツらがどう足掻こうと『第三次臨界大戦』は必ず起きる。()()()()()()()()()()()()()()()。大勢が死ぬ。筆頭となって戦うヤツらは全員死ぬぞ」

「かもな。だがアイツらは今を全力で生きてる。だから抗うだろォし、オレも戦う」

「その行いこそが死を呼び込むとまだ分からんのか? もし本気で分からないなら、お前らの選択で大勢が死ぬな」

「ああ……かもしれねェな。なにせ―――」


 オーガストの強引な言い分に対して。

 クロウは僅かに言い淀みながら、どこか冗談めかして、


「―――オレは死神だからな」


 直後にオーガストが動く。何の武器を用意する訳でもなく、一直線にクロウに向かって突進していく。対して少年は死神を出すまでもなく鎌を振るった。

 蒼い光が瞬く。

 そうして誰も見ていない場所で、最後の戦いが終わったのだった。

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