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村人Aでも勇者を超えられる。  作者: 日向日影
第二章 奪われた者達と幸せな贈り物
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28 物語は次へと移行する

 結祈との件があってから数日後、アーサーの怪我が完治した事もあり、彼らは再び元の目的に戻る事にした。

 アーサーが寝込んでいる間もアレックスは付近の動物達を仕留め、その素材を集めていた。その甲斐あって、『タウロス王国』に着けばしばらくは生活に困らない程度の物は集められた。そうなるともうここにいてもただの居候になりかねないので、そろそろ出て行く事にしたのだ。


「アーサー、怪我の方はもう良いのか?」

「全く問題ないよ。気のせいじゃなければいつもより怪我の治りも早かったし、そこら辺も自然魔力の恩恵なのかもしれないな」


 軽口を叩き合いながら、アーサーとアレックスは荷物を整理すると玄関前に出る。

 そこには國彦(くにひこ)久遠(くおん)、それからもう一人、


「本当に行くのか?」

「うん、もう決めた事だから」


 結祈は見送る側ではなく、アーサーの隣に立っていた。


「久遠さん、おじいちゃんの事お願いするね」

「ええ、心配しないで下さい。それからアーサーさん」

「ん?」


 手招きに従うまま、アーサーは久遠に近づく。すると久遠はアーサーに身を寄せて、他の人に聞こえない声量で耳元で囁く。


「(結祈の事、何から何までお世話になりました。今後の旅で何かあれば声をかけて下さい。微力ながら助けになります)」


 内心、アーサーは苦笑した。

 結祈は國彦には見限られていて、久遠には呆れられているかもと危惧していたが、実際には二人とも結祈の事を心配していたのだから。


「ありがとうございます。もしもの時はお願いします」


 アーサーが二人の隣に戻ると、結祈がアーサーの袖を引っ張る。


「久遠さんと何の話をしてたの?」

「別に大した話じゃないよ。ちょっとこれからの事についての話をね」

「ふーん」


 正直に話したつもりなのに、結祈の目から疑いの色が消える事はなかった。

 結祈が何を気にしているのか、アーサーには分からなかった。


「お前らなに漫才やってんだ?」

「なあアレックス、俺何かマズイ事したかな?」

「自分で考えろ馬鹿」

「???」


 その三人のやり取りを見ていた國彦は、安心したように息を吐いた。


「君達なら大丈夫そうだな。どうか結祈の事を頼む」


 今のやり取りのどこに安心する要素があったのかは分からなかったが、やはり年上に頭を下げられると弱かった。それも長老に似ているとなればなおさらだろう。

 ただ、そんな事情がなくてもアーサーとアレックスの返事が変わらなかったはずだ。


「はい」


 ただ一言、それだけで十分だった。國彦は目を瞑って一度だけ頷いた。

 それが旅立ちの合図になった。

 アーサーとアレックスは、新たに結祈を加えて『魔族領』を目指す。國彦と久遠は三人が見えなくなるまで手を振っていた。それに合わせて何度も振り返りながら、まずはここから数日程度で着く『タウロス王国』へ向けて歩き出す。今更ながらに、『ジェミニ公国』から出た事のない二人はなんだか新鮮な思いだった。

 そして國彦と久遠が完全に見えなくなってから、結祈はアーサーに近付き、アレックスには聞こえないようにしてから呟く。


「パラズリー・スチュワート」


 誰かの名前だった。アーサーがその名前の意味を聞き返す前に、結祈がその名に込められた意味を語り出す。


「ワタシのお母さんを殺したヤツの名前だよ。……もしもヤツがワタシの前に現れたら、ワタシは何の迷いも無く、他の全てを投げ捨ててでも殺すよ?」


 当然の事だった。

 アーサーに何を言われて、自分の中で何かが変わろうと、長年燃やし続けた復讐の炎は簡単には鎮火しない。

 それにはもっと、自分が納得できるだけの長い時間が必要なのだろう。


「ワタシがどんな生きる意味を見つけようと、これはきっとどうあっても変えられない。……その時アーサーはどうする?」

「それはもちろん」


 と。

 アーサーもまた、当然の事のように即答していた。


「俺の全身全霊をかけて、そいつを殺す手助けをするよ。お前の納得がいくまでとことん付き合ってやる」


 ごく普通の少年である彼の、普通とはどこか違う異常な部分。

 その片鱗はもう見えている。





    ◇◇◇◇◇◇◇





 そして物語は次へと移行する。

『ジェミニ公国』の外、その世界で何が待ち受けているのかを知る事なく、アーサー・レンフィールドは運命の上を進んでいく。


「……ようやく来ましたね」


 そこは『ポラリス王国』のど真ん中に位置する、他のビルとは比べものにならないくらい一際大きなビルの最上階。つまり世界で一番高い場所にして世界の中心点。

 一フロア丸々使った部屋の中央。何の装飾もなく、大きな扉以外の壁一面が頑丈に作られたガラスで覆われた殺風景な部屋。そこで銀色の長い髪を持つ、肌は色白でどこか儚さを感じさせる少女は頬の筋肉を少しだけ釣り上げた。

 別の世界の伝説の島の名前が付けられているビルの最上階から世界の全てを眺め、世界の中心でとある女王は独り、静かに嗤っている。

ありがとうございます。

新しい仲間が増えて、第二章は今回で終わりです。全体的に少し暗めの話でしたがどうでしょう。第三章はもう少し明るめの話にしたいと考えています。


という訳で、この場で第三章の軽いあらすじを。

第三章ではアーサー達がついに『タウロス王国』へと辿り着きます。そこで第一九話の最初の方でさらっと言っていた目玉の闘技大会に、賞金目当てでアレックスが出場する事になります。アーサーはそんなアレックスを尻目に、闘技場で見つけた怪しい集団を追って地下へと潜っていき、そこで『タウロス王国』の闇と相対します。国という大きなものに対して、ごく普通の少年であるアーサーはどんな決断をするのか。そして闘技大会に出場しているアレックスの代わりになる相棒(銀髪ロングの少女)も登場予定です!

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