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村人Aでも勇者を超えられる。  作者: 日向日影
第一四章 安寧の地など何処にもない Story_of_Until_He_Returns.
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254 叶えるための準備

『セレクターズ』への登録には翌日すぐに向かった。すでに二日前と差し迫っているからか、登録者でごった返していた。ここまで人が多いとスゥも目立たいのでこちらとしては助かるが、流石にうんざりしてくる。

 登録自体はごく簡単で、用紙に名前を書いて出すだけ。それと交換で青と赤の二つのバッチを受け取る。このバッチには登録順の番号が書かれており、出場者は青いバッチを、パートナーが赤いバッチを『セレクターズ』中は肌身離さず持っていなければならない。というか失格の条件が死亡と戦闘不能に加えて、このバッチの破壊が含まれている。『セレクターズ』に出る者にとっては命の代わりのようなものなのだ。


「……本当に良いの?」

「何を今更。早いとこ登録しちゃおう」


 スゥの最後の確認に軽く返して名前を書く。記入欄にはフルネームが必要なので、今回はスゥのものを借りて『レン・ストーム』と書いた。ちょっと変な気分になるが、これは仕方がないのでそれで良しとする。


「それじゃ、出して来るね」


 用紙を出しに登録者が集まる人混みに入って行くスゥを見送って、アーサーは浅く息を吐いた。その瞳には、覚悟の色があった。


「……さて、こっちの仕込みも始めるか」


 スゥに秘密にしたまま進める事に少し後ろめたい気持ちがあるが、この仕込みが上手くいく可能性は低い。変に希望を持たせてから無理でした、などと言ってショックを与えたくなかった。

 スゥが帰ってくるよりも早く終わらせなければいけないので大急ぎで行動に移る。

 何とかギリギリ早く終わらせたアーサーが素知らぬ顔で帰って来たスゥを迎えると、すぐに赤いバッチを手渡された。そこには登録番号として『724』と書かれてあった。

 アーサーは登録者の人混みを見ながら呟く。


「……ま、そんなもんか」


『724』という事は、その前に七二三人の登録者がいるという意味だ。それにこの様子ではまだまだ増えるだろう。単純に考えれば登録者にはパートナーがいるので、最終的には一五〇〇人を超えるだろう。そしてその全てを倒さなければアーサーの望みは叶わない。


「……絶対に」


 アーサーと同じ事を思っているのだろうか。

 隣でスゥが胸の前で拳を握り締めて、誓うように呟いた。


「絶対にアクアを救い出す。ここにいる、全員を倒して」

「……」


 自分が傷つけられても、人を傷つけたくない優しい少女。それがアーサーがスゥに感じた素直な印象だ。その相手に倒すという人を傷つける覚悟をさせた。それは全てアーサーの責任だ。

 彼女のためだと言いながら、彼女を戦いへと導いている酷い矛盾。その罪の大きさを理解していながら、それでもアーサーは後戻りする選択はしない。このどこまでも自己満足の偽善に満ちた選択が、最後にはハッピーエンドに繋がると信じているから。


(……絶対に、報いないとな……)


『セレクターズ』開催まで二日。

 そのために、アーサーにはやる事があった。

 それは……。





    ◇◇◇◇◇◇◇





「……自分がどこまで出来るのか、全く知らないんだよなあ……」


 スゥの家から出かけて一人、アーサーは森の中でぼやいていた。

 これまでの人生の記憶は無いが、自分が使える魔術の記憶は残っていた。同時に、覚えているが使えない魔術も。

 アーサーは目を閉じて、自分の内側に意識を向ける。


(『夢幻の星屑スターダスト・ドリームス』と『その担い手は(フェイト・)運命を踏破する者(ホライズン)』……。俺が覚えてる中で一、二に強力な魔術みたいだけど、どうしてかこれは使えない)


 魔術というのは魔力だけで繰り出されるのではなく、使用する本人の意志も影響してくる。詠唱やイメージ力もそこに当たる重要なファクターだ。つまり失われている記憶がその部分に関係しているのだろうと思う。

 そして使えないものは仕方が無いと、同時に諦める。

 だがそれを諦めても、力が無いのは絶対にマズイ。力が無いからアクアを助けられませんでした、などと言い訳が通じる訳がない。というか、そんな事態になったら死にたくなる。そんな後悔は絶対にしたくない。


「取っ掛かりはやっぱり、これだよな……」


 目を向けるのは自分の右腕。『カルンウェナン』という特異な力の宿るそれを使って、周りから自然魔力を集める。するとしばらくして肘より先の腕から白く煌びやか輝きを放たれた。


(集束魔力砲……威力だけ見るなら、これが一番強い)


 ただそれに頼るだけでは戦術が一辺倒だし現状と何も変わらない。何か応用が必要だった。


(だけど放つだけじゃなくて、拳に魔力を乗せたまま殴れば……ッ!!)


 光を放つ拳から魔力を放つのではなく、纏わせたまま正面の木を殴る。

 ゴバッッッ!! とアーサーの正面が爆ぜた。木の幹は粉々に砕け、衝撃が前方に伝播していき、周りの木を揺らす。流石に集束魔力砲に比べたら威力は見劣りするが、人間相手に使うには十分以上だ。それに集束魔力砲を使う時よりも体力や魔力の消費も抑えられている。成果としては上々だった。


「そうだな……『シャスティフォル』とでも名付けようかな。とりあえず、今はこれで十分。ここから広げていけば……」


 残り二日間。

 今のアーサーがどれだけ強くなれるのか、全てはそこにかかっている。

ありがとうございます。

キリが悪いので、今回はちょっと短めでした。

次回から『セレクターズ』の始まりです。

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