行間五:『希望』は未来に紡がれて……
「そして、みんなの墓を作りながら村人が俺とアレックス以外全員殺されてるのを確認し終わって、俺達はじーさん……オーウェン・シルヴェスターに拾われて育てられた。その村も魔族に襲われて、旅を始めて、みんなに出会った。……話は、これで終わりだ」
長い話が終わって、アーサーはうっすらと自虐的な笑みを浮かべていた。焚火に照らされたその姿は哀愁に満ちていて、存在感も希薄になっていた。
その話を聞いていた二人。
ラプラスは何とも言えない表情になっており、レミニアのすすり泣きの音だけが静寂の森の中で鮮明に聞こえていた。
「……この話をして、俺が聞きたかったのは」
静寂を引き裂くように、アーサーは最初にしていた約束の通りラプラスの方に意識を向けて弱気な声で尋ねる。
つまり、
「あの時、俺にはレインや母さん、村のみんなを助けられる未来はあったのかな……?」
「……っ」
くしゃり、と顔を歪めて、ラプラスはその顔が見られないように俯いた。しかしアーサーの位置からでも、その頬に流れる涙が見えていた。
つまりは、それが答え。
アーサーはふっと、ぎこちない曖昧な笑みを浮かべて、
「……ごめん。少し、意地悪な質問だったな」
「いえ……」
ごしごしと目元を拭って否定するラプラス。
アーサーは自分の話を聞いて、それに共感して涙を流してくれた二人の少女を見る。
レミニアも、ラプラスも、アーサーにとっては仲間とは別に特別だ。レミニアは妹、ラプラスは契約、それぞれ仲間以上に深い何かで繋がっている。
別に、だからといって仲間が大切じゃないという事じゃない。
アレックス・ウィンターソン。
近衛結祈。
サラ・テトラーゼ。
シルフィール・フィンブル=アリエス。
レミニア・アインザーム。
ラプラス。
一人一人名前と顔を思い浮かべて、アーサーは目を瞑る。
他にもこれまでの旅で多くの人と関わって来た。それぞれが大切な出会いで、みんながみんなかけがえのない存在だ。
『担ぎし者』は親しい者を死に近づける。
だからこそ、アーサーは守り続ける道を選んだ。
停滞を超え、今一度、世界と運命に真っ向から挑戦する道を選んだ。
(……ああ、護ってみせるさ)
胸のロケットを握り締め、アーサーは言葉には出さずに思う。
(みんなを……みんなが住むこの世界を)
ロケットから離した手を見つめる。
より正確には、その右手に宿る、ローグ・アインザームの力から派生した別物の力である『カルンウェナン』を。それを強く握り締めながら、彼は改めて誓う。
(たとえ……この命に代えても)
そのためなら何度でも拳を握ろう。
レインが信じた道は正しかったと証明するために。
人間と魔族は共存できる―――ただその祈りを届けるために。
ありがとうございます。
では、あと三話です。