表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
村人Aでも勇者を超えられる。  作者: 日向日影
第一二章 ようこそ安定世界の終わりへ Dawn_of_Justice.
244/576

220 まるで最後の言葉のようで

 何はともあれ、エクレールに続き『機械歩兵(インファントリー)』の打開策を得たのだ。いくつかの問題はあっても順調と言って差し支えないだろう。


「なんて思ってたんだけどね……」


 移動を開始してからすぐ、アーサーとセラは『機械歩兵(インファントリー)』に襲われた。ダイアナからしてみれば分断している今、最も警戒していたアーサーを襲撃するのは当然の事だろう。とはいえ仲間とはぐれているアーサーからしてみれば、右手や戦闘勘の効かない『機械歩兵(インファントリー)』による襲撃は厄介以外の何物でもなかった。


「無駄口叩いてないで戦え! 『機械歩兵(インファントリー)』を止める前に『機械歩兵(インファントリー)』に殺されるなど笑い話にもならないぞ!!」


 不甲斐ないアーサーを叱咤しながら、セラは両手を前に突き出しながら『武器操作』の力で『機械歩兵(インファントリー)』の動きを止め、その手を左右に裂くように動かすと連動するように『機械歩兵(インファントリー)』の体が胴体から真っ二つに割れた。さらにその残骸を操り、周りにいる別の『機械歩兵(インファントリー)』へと当てて攻撃する。


「さっすがサラの姉。サラと同じで頼りになる!!」


 だからと言って頼りっぱなしという訳にもいかない。すぐさま右手に魔力を集束させる。


「俺の頭上に跳べ!」


 そしてセラが指示通り自分の頭上に跳んだのを見計らい、アーサーは光り輝く右手を真下に叩きつけて叫ぶ。


「『遍く照らす祈りの円卓エクスカリバー・ターフェルルンデ』!!」


 ドッッッ!! と叩きつけた拳を中心に放射状に集束魔力の波動が広がる。

 一方向への集束魔力砲ではなく、全方向への集束魔力砲。それにより一体あたりに与えるダメージは著しく落ちるが、『機械歩兵(インファントリー)』相手にはそれでも十分だった。周囲にいた『機械歩兵(インファントリー)』はあらかた吹き飛んだ。

 着地したセラは辺りを見回してから、アーサーの方を見て呆れたように溜め息を吐く。


「次は最初からやれ」

「悪いけど集束魔力砲は体力を消耗するんだ。この後ダイアナとの戦いが残ってるし、できるだけ節約したい」

「……まるで、自分が戦うと分かっているような物言いだな」

「戦うさ。ヤツが世界を脅かすなら『ディッパーズ』の敵だ。俺があいつの全部を背負いに行く」


 次の襲撃が来るよりも前に『機械歩兵(インファントリー)』を止めるべく、アーサーは目的地に向かおうとする。だがその場所を知っている本人が、足を動かそうとはしなかった。


「セラ?」

「……傲慢だな。本当、イラつくほどに」


 再び殺意、いや怒気が向けられてきた。

 聞こえてくる舌打ちに思わず右手に力が入る。だが戦おうとしている訳ではないのか、今度はあからさまに嫌味を含めた重い息を吐いた。


「……『ディッパーズ』と言ったな? つまり、お前は正式にサラ達とチームを作った訳だ。それなのに、肝心のお前がその意味を真に理解していない。私に偉そうに説教をしたお前自身が、誰よりもサラや仲間を信用していない」

「……別に、信用してない訳じゃ……」

「だが私と同じだ。こういうのを同族嫌悪と言うのか? 仲間を守りたいから遠ざけている。だからいつも、一番強いヤツとは自分が戦うと決めている。違うか?」

「……」


 否定をする事ができなかった。否定しようと口を開きかけても、そこから声が出て来なかった。それはもう、心の中ではセラの言葉を認めているようなものだった。


「私は別に構わないがな。だがお前の仲間を哀れに思うよ。サラのヤツも含めてな」


 それから先、セラは何も喋らなくなった。ただ前を向いて目的地へと向かって行く。

 その後ろを歩くアーサーの居心地が最悪だった。何か話題を探してみるが、そもそもの共通項がサラしか見つからないし、そんな話をしていい雰囲気でもなかった。

 そうこうしていると目的地に着いたのか、セラは足を止めた。先の戦闘で瓦礫を集めた時の対象になっていたのか、天井や壁はほとんど無造作に破壊されたように無くなっていて、何とか建物としての体裁を保っているような状態だった。


「ここが……?」

「ああ、元は教会だがな。教会の地下に物を隠すのは定番だろ?」

「……まあ、別にどこでも良いんだけどさ。それより地下?」

「丁度祭壇から下に降りられる。付いて来い」


 祭壇に近づいていくセラにアーサーは付いて行くが、そこで何をしているのかもまでは分からなかった。セラが色々と弄っていると急に祭壇が滑るように移動し、下に通じる階段が姿を現した。

 短い間だったが、ここまで一緒に行動してきたセラともここで一旦お別れだ。セラは『機械歩兵(インファントリー)』を止めるために階段の下に向かい、アーサーはここで入口を守る。そういう役割だからだ。


「じゃあ頼んだぞ、セラ。正直『機械歩兵(インファントリー)』の相手はあんまり自信無いから、なるべく早く頼む」

「……」


 肩を軽く叩きながら声をかけたが、当の本人であるセラは階段の下に降りようとしなかった。何かあったのかと思い、再び声をかけようとしたアーサーより前にセラは口を開いた。


「……すまなかったな」


 そして呟くようにセラの口から出てきたのは、謝罪の言葉だった。


「偉そうに説教までしてみたが、元はと言えば私達姉妹の問題だった。それなのに、お前を殺そうとしただけでなく、こんな事にまで巻き込んだ。お前が事件に関わってしまう『担ぎし者』だとしても、今では本当にすまないと思っている」

「……らしくないな。しおらしいのはお前に似合わないぞ?」


 何かただならぬ気配を感じて、アーサーは空気を変えるためにあえてふざけているような言葉を返した。けれどセラはもう意志を固めているのか、アーサーの言葉には何も返さず、初めて見る微笑を浮かべて続けて言う。


「お前らのためじゃないと言ったのは嘘だ。お前に声をかけたのはせめてもの罪滅ぼしだ。それで全ての過ちを正せるとは思っていないが……この計画がどのような結末を迎えるとしても、お前達には謝っておきたかったんだ。特にお前とサラには、本当に迷惑をかけたからな。こう見えて感謝してるんだ」

「……」


 そんな言葉をかけられて、アーサーが一番最初に思ったのは()()()()だった。それはかつて『リブラ王国』で出会い、自分が巻き込んだせいで死なせてしまった友人の最後の言葉に。

 彼も最後に謝罪と感謝を述べ、その直後に死んだ。まるで鏡を映したみたいに、今のセラの姿とデスストーカーの姿が重なって見えたのだ。


「……止めてくれ」


 ほとんど無意識にその言葉は出てきた。

 笑みを浮かべるセラとは対照的に、アーサーの方は泣き出しそうな顔で懇願するような様子だった。


「前に同じような事を言って死んだヤツがいる。あいつは独りだったけど……お前にはサラがいるんだ。死ぬなんて許さない」

「……ふん。わざわざ言われなくても今日死ぬつもりはない」

「誰だってそうだ。だから『機械歩兵(インファントリー)』を止めて無事に帰って来てくれ。気をつけてくれよ、サラの悲しむ顔は見たくない」

「……ああ、お前もな」


 言いたい事を言い終えたセラは、今度こそ階段を下りていった。

 こんな不吉な事は考えたくはないが、アーサーにはその姿がまるで、自ら地獄に下りていくように見えていた。





 ◇◇◇◇◇◇◇





 階段を下りながら、やはりセラは微笑を浮かべたままだった。


「本当に、説教できる立場でもないのにな」


 彼女が第一に考えていたのはサラの命だった。

 けれど、アーサー・レンフィールドはサラの幸せを分かっていた。

 サラが唯一心を許していたシロに似ていて、孤独だったサラの居場所となり、彼女の願いを叶えるためにボロボロなるまで戦う。

 端から見れば異常者かもしれない。

 だが当の本人となれば事情は変わって来るだろう。


「ま、惚れない方がおかしいか……」

『そういうものなのでしょうか? サラ様は否定していました』

「人間は図星を言い当てられた時に反射的に否定する生き物なんだ」

『なるほど……。勉強になります』


 とはいえ自覚していなかったのも事実かもしれない、とセラは内心だけで思った。


(そもそもサラは人付き合いが少なかったしな。自分の感情を理解したのだって、今回の件で離れたからだろう、どうせ)


 ほとんど的中している予想を思い浮かべながら、セラは先程と違い自嘲するようにふっと笑った。


「ま、恩人の名前を人工知能に付けている私よりはマシだと思うがな。あれはあれで、ちゃんと前を向いて生きているらしい」


 では自分はどうか、と改めて考えかけて思考を止めた。階段を下り切ったのだ。

 真っ直ぐ降りてきた階段を追えると、今度は直線の通路になる。ここから先は枝のように分かれた道が何度も続き、正しい道を選んで進み続けなければマザーコンピューターには辿り着けないようになっている。それも一個目の分かれ道で間違った道を選択しても、その道の先には枝分かれした分かれ道が用意されているのだ。つまり失敗に気づいてもどこからやり直せば良いのか分からなくなる訳である。

 そして当然、セラはその道順を知っているただ一人の人間だ。迷う必要もなく進める。

 けれど最初の分かれ道に来た時、セラは足を止めた。最初の分かれ道は八つあるが、その二つを繋ぐように用途の分からない配管が通っていたからだ。


「……何だこの配管。私は知らないぞ……ブリュンヒルド」

『私も存じ上げません。スキャンしてみます…………配管はユーティリウム製、破壊は不可能。用途は不明です』


 行動に移ってから答えを導き出すまで、ブリュンヒルドの働きは迅速だった。だからこそ、その答えにセラは歯噛みした。偶然かは分からないが、配管が通っている道の二つの内、一つはマザーコンピューターへの道に繋がっているのだ。どうあれそれはこの通路にすでにダイアナが来ていたという事を意味する。


「安全装置の方は大丈夫か……」

『ここからではアクセスできません』

「分かっている、独り言だ」


 ここから先の分かれ道で配管が途切れる事を祈りながら、セラが再び足を進めた―――その時だった。

 ズズンッッッ!!!!!! と大きな揺れが襲いかかり、思わずその場で膝を着いてしまった。しかも揺れは一回だけでは終わらない。揺れは大きいまま収まらず、ずっと続いたのだ。

 自分が国中から武器を集めた時と似た揺れだが、当然今はそんなものを使っていない。そして思い当たる節も無い。


「何が起こっている!? ブリュンヒルド!!」

『これは……』


 高性能な人工知能だからだろうか。ブリュンヒルドは人と同じように、驚きのあまり言葉を失っているような行動を取った。

 つまりはそれほどの脅威。そしてブリュンヒルドの口から告げられる状況に、今度はセラの方が驚愕に言葉を失う番だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ