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村人Aでも勇者を超えられる。  作者: 日向日影
第一二章 ようこそ安定世界の終わりへ Dawn_of_Justice.
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218 一時の休息

「次はダイアナとシャルルだ。……ああ、『機械歩兵(インファントリー)』もいたな。とにかく行動を始めよう」


 意気込んで言うが、アーサーは肩で息をしていた。

 エクレールを相手にしただけではなく、昨日から戦い詰めでさらに負担の大きい『断界結界』と『雷光纏壮(らいこうてんそう)』を使ったのだ。いくらなんでも体力に限界が来る。


「いやちょっと待てよ」

「……時間が無いんだ。話は移動しながらだ」

「だから待てって。おい、アーサー!」


 歩みを止めなかったアーサーは、アレックスに肩を掴まれてようやく止まった。


「確かに死ぬかもしれねえとは言ったが、自ら死に急ぐような真似をすんじゃねえよ。昨日から戦いっぱなしなんだ、ここらで一旦休め」


 その助言に、アーサーはアレックスを睨みつけるように見て、


「……そんな時間は無い。『オンリーセンス計画』がいつ始まるか分からないし、もしかしたらもう始まってるかもしれない。俺一人の命に拘泥してる場合じゃない、クロノを助けるって決めたんだ」

「……テメェは自分の命を軽く見過ぎてる。俺は別に良い。男として理解できる部分はあるし、テメェとは腐れ縁で慣れっこだ。だが他のヤツらは違え。前提条件の確認は鉄則なんだろ? だったら身近な人間の事も少しは考えろ」


 アレックスに諭されても、アーサーは態度を変えない。それに痺れを切らしたのは結祈(ゆき)だった。


「……もう良いよ、アレックス。『アリエス王国』の時みたいに、ワタシが短時間で回復させる。それなら良いでしょ?」

「今ここで寝ろって言うのか? この状況で? そんなの無理に決まって……」


 アーサーが言いかけている途中で結祈(ゆき)が動いた。一瞬で近づいて抱きつくと、その耳元でささやく。


「……『屍のように眠れ(スリープ・ニア・デス)』」


 結祈(ゆき)がアーサーに対して物騒な名前の忍術を使う。するとすぐに、アーサーの体から力が抜けて後ろに倒れそうになった。結祈(ゆき)はその体を支えながら、ゆっくりと地面に寝かせる。


「……おい、これ寝てんのか? 死んじゃいねえよな? つーか割とマジで私怨が入ってなかったか!?」

「……げふん。気のせいだよアレックス。それに回復はちゃんとするし、起きたら謝るから」

「……ま、俺は別に良いんだけどな」


 がりがりと頭を掻いてアレックスはめんどくさそうに言う。そうこうしていると、他の四人もようやくこちらに追いついて来た。その状況を改めて見て、意外にもラプラスは驚いていた。


「……無事に倒せたのですね」

「お前には未来が見えてたんじゃねえのかよ」

「いえ、観測したのはこんな未来じゃありません。マスター達が未来を変えたみたいです」

「そういや、こいつは未来を変えられるって話だったか……」


 アレックスの心境は複雑だった。ただでさえ色んなものを背負っているのは知っているし、特別な力を持っているのも分かっている。だが結祈(ゆき)の膝を枕にしたまま屍のように動かない姿を見ると、どうしてもそんなに凄いとは思えない。というか、子供の頃からダメな部分も散々見てるせいもあってなおのこと凄いとは思えない。


「……それで、次はどうしますか?」

「どうするっつってもなあ……」


 言い出しっぺが寝ている状況で誰が今後の方針を決めるというのか。みんなの目は自然とアレックスに向いていたが、当のアレックスは逃げるようにラプラスの方に目を向ける。ラプラスはその視線の動きをしっかりと確認しながら、あからさまに溜め息をついてから発言する。


「マスターが起きるまで待つという選択肢もありますが、『機械歩兵(インファントリー)』が飛んでくるのでおすすめはしません。そこで二手に分かれましょう」

「二手?」

「はい。エクレールを倒した事で転移した瞬間に襲われるリスクは無くなりました。そこでマスターと回復役の結祈(ゆき)さん、それと転移ができるレミニアさんはここに。そして私達四人はレミニアさんの転移で先に城に向かい、具体的に『オンリーセンス計画』の方を止めましょう」

「物言いや判断がアーサーの野郎にとことん似てるのはやっぱ引っ掛かるが、お前の策には賛成だ。ここで『機械歩兵(インファントリー)』に囲まれるくらいなら先に進んでやる。アーサーがセラやクロノってヤツに拘るように、俺もシャルルのヤツと話をしなきゃいけねえからな」

「相変わらずの嬉しい評価をありがとうございます。ではレミニアさん、転移をお願いします」

「はい。『魔の力を以て世界の法を覆す』」


 レミニアが魔法のキーワードを口にするのと同時に地面に魔法陣が広がる。その上にアレックス、サラ、シルフィー、ラプラスの四人が乗る。


「後から追います、幸運を」

「そっちもな。アーサーの野郎が起きたら頼むぜ」


 四人は先に次の戦場に向かう。

 そして、一仕事を終えたレミニアはアーサーと結祈(ゆき)の方に向き直り、こんな時だというのに深刻そうな顔でこう言う。


「……結祈(ゆき)さん。ちなみにその膝枕の役割、わたしが代わる事はできますか……?」

「うーん……。この忍術の性質上ワタシが触れてないとダメだから、手くらいは握ったままになると思うけど……それでも良いなら代わる?」

「ぜひお願いしますっ!」

ありがとうございます。

今回はこの章で唯一の息抜き回でした。次回はついに八年前に話が飛ぶ行間を挟み、その後から本編を再開します。

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