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村人Aでも勇者を超えられる。  作者: 日向日影
第二章 奪われた者達と幸せな贈り物
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21 違和感の正体は……?

 ようこそ我が家へ、という結祈(ゆき)の歓迎の言葉でアーサーの意識は現実に引き戻された。けれど何かに包まれているような奇妙な感覚は消えない。だがそれが嫌という訳ではない。羊水に包まれている胎児はこんな感覚なのかな、と的外れな事を考えられるくらいには。

 アレックスの方は何かを感じなかったのかと見てみるが、そちらは何も感じなかったらしく普通に家の方へと歩いている。


(今のを感じたのは俺だけなのか……?)

「大丈夫?」


 と。

 アーサーの顔を覗き込むように伺うのは結祈だった。アレックスとは違い、彼女はアーサーの異変に気付いたらしい。


「いや……なんて言うか、こんな言い方は失礼かもしれないけど」


 言葉を選びながら、アーサーは続ける。


「あの家……というよりはこの場所? 何かエネルギーみたいのを感じたんだ」

「っ!? ……アーサー、気を悪くしないで答えて欲しいんだけど、魔力の量はどれぐらい?」


 一瞬驚いた後に、試すような顔で質問したきた結祈。不思議に思いながらもアーサーは素直に答える。


「ほとんどゼロだよ。だから簡単な魔術もロクに使えなくて難儀したよ」

「そっか……。うん、アーサーなら良いかも」

「?」

「とにかく家に入ろ? おじいちゃんにも紹介したいし」


 どこか納得したような顔の結祈に促されるまま、その家へと歩いて行く。

 妙な感覚はずっと続いている。別段強くなる訳ではないが、弱くなる事もなくずっとそこにある。


「……結祈はこれが何なのか知ってるのか?」

「知ってるよ」


 堪えきれず問いかけてしまったアーサーに、結祈はやけにあっさりと答えた。

 正直、返答があるとは思っていなかったので続ける言葉に詰まってしまう。それでも追及しようと口を開いたアーサーを押しとどめるように結祈が続けて言う。


「でもそれを教えるのはおじいちゃんに話をしてからじゃないとダメなんだ」

「……」


 そう言われてしまうと、アーサーはこれ以上何も言えなくなってしまう。まあ教えないとは言われてないので、それまでは追及しない事にする。

 とにもかくにも家に入らなければ何も始まらない。結祈は扉の取手に指を掛けて横にスライドさせて開けと中へ入る。

 まず目の前にあったのは広い部屋。天井も高く中央には囲炉裏があり、家の中は外よりも暖かい。初めて来る他人の家なのに、どこか落ち着く心地のいい空間だった。

 他人の家に入る独特の雰囲気を感じながら結祈の後に続いて中へ入ると、奥の部屋から襖を開けて長老と同じような風貌の老人が出て来た。


「ただいま」

「ああ、おかえり」


 流れるように交わされる会話から、それが今まで何度も繰り返されてきた事が分かった。

 つまりは目の前の老人が結祈の言うおじいちゃんなのだろう。まあ老人と言っても背筋はしっかり伸びているし、覇気もまったく失われていないのだが。


「ん? そっちの二人は誰だ?」


 当然の質問が飛んでくる。ただアーサーとアレックスが何かを言うより先に、結祈が説明を始める。


「この人はアーサーで、こっちがアレックスだよ。町で倒れてる所を助けてくれたの。アーサー、アレックス。こっちがワタシのおじいちゃんの近衛國彦(くにひこ)だよ」

「そうか……それは迷惑をかけてしまったようですまない」


 孫を助けられたとはいえ、七〇近い大人が半世紀以上年下のアーサー達に対して当然の事のように腰を折る。それほど感謝があるのだろうが、アーサー側からすれば年上に頭を下げられているというのは気持ちの良いものではなかった。すぐに頭を上げるように促す。


「いやはや、これは重ねてすまない。余計に気を使わせてしまったか」

「い、いえ……」


 何と言うか、やりにくかった。

 アーサーとアレックスにとって、目の前の老人は長老を彷彿とさせる。しかし当然の事ながら性格はまったく違う。だから失礼だと思いつつも、その差に何とも言えない違和感を感じてしまう。


「それでね、この二人泊まる場所に困っているみたいだから、しばらく泊めてあげたいんだけど良い?」

「ああ、それくらい別に構わない」

「それともう一つ話があるんだけど……ちょっと」


 そのまま結祈は國彦と一緒に奥の部屋へ行ってしまう。結果的に取り残された二人は玄関で立ち往生を食らってしまった。


「どうするよ。結祈のやつ、しばらくって言ってたぞ。言葉に甘えるか?」


 比較的どうでもいい話題だったが、沈黙を凌ぐには丁度良かった。

 調子に乗る様がありありと想像できるので決して口に出して言わないが、アレックスのこういう分かりにくい気遣いには内心感謝している。だからありがたく乗っかる事にした。


「ああ言ってくれてるし、ほんの二、三日、当面の方針が決まるまではお世話になっても良いんじゃないか? それまでは庭にあった畑の手入れを手伝ったり、近くで獣を狩ったりして金になる素材を集めるのも良いかもしれない」

「とか言って本当は結祈の傍にいたいだけじゃねえのか?」


 前言撤回、目の前の悪友に対して感謝など不要だった。しかも理由はどうあれ結祈の傍にいたいのは事実なので、絶妙に否定しにくい部分を付いて来る所がまたいやらしい。


「……もう勝手に解釈してくれ」


 こういう手合いに関して、誤解を解こうとするよりも無視する方が効果的なのを知っていた。

 そもそもやましい所が無いから弁明する必要はないのだ!


「……何やってるの?」


 意地の悪いニヤニヤ笑いを続けているアレックスと、勝ち誇っている内心が顔に出ているアーサーという奇妙な空間に戻って来た結祈は、呆れた目で二人を見ていた。


「いや別に、大した事じゃないから気にしないでくれ」

「そうは見えなかったけど……何か藪蛇になりそうだから追及はしないでおくよ」


 苦笑いで受け流してくれる結祈に心の中で感謝をしながら、相も変わらずニヤニヤ笑いのアレックスには後で報復してやろうと心に決める。


「そういえば何を話し込んでたんだ? あっ、言いにくい事だったら言わなくて良いぞ」

「ううん、アーサーにも関係のある事だから、ちょっと付いてきて」

「?」

「ここじゃ危ないから、外で説明するね。実際に見せた方が早いだろうし」


 言って、結祈は再び外に出ていく。

 疑問に思いながらもその後を追おうとしたところで、首に腕を回される形でアレックスに泊められる。


「やったなアーサー」

「何が? というか今日は妙にテンション高いな」


 アレックスの顔からロクな事を言わないであろう事は分かっていた。ただここで無視すると後がうるさいので、一応聞き返す。


「何がって、デートのお誘いだぜ?」

「お前はいい加減黙ってろ!!」


 報復の機会は思ったよりも早く訪れた。

 一切の躊躇いもなく、アーサーは固く握りしめた拳を、ニヤニヤ笑いを浮かべているアレックスの顔面に叩き込んだ。

サブタイトル詐欺! 確かに「?」が付いてるけども!!

……という訳で、違和感の正体は次回明らかになります

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