211 前提条件の確認
一一章を挟んだので、今回はフェーズ3の始まりの第九章と第一〇章を簡単にまとめた話で振り返ろうと思います。
覚えている方は飛ばして貰っても構いません。次回から一二章本編です。
アーサーとレミニアが消えた『スコーピオン帝国』の森の中で、サラは再開した人物を相手に叫んでいた。
「なんであんたがここにいるの!?」
上級魔族のクロノは『カプリコーン帝国』でアーサーに告げる。
「ある上級魔族を倒して欲しいんだ」
「冗談だって言って下さいお願いしますっっっ!!!!!!」
サラはみんなを守るために、たった一人で命の危険のある『スコーピオン帝国』にセラ・テトラーゼ=スコーピオンと共に帰還する決意を固める。
「あとは頼んだわ」
デスストーカーを見殺しにした心の傷を抱えたアーサーは、口論からクロノと拳を交えていた。
「……っ、だっ、たら……どうすれば良いって言うんだよ……!!」
「今のお前じゃ誰にも勝てないよ。今ここで、負けて死ね」
サラを連れ去られ、残された三人は今後の方針について話し合っていた。
「どうするってんだよ」
「どうにかしてアーサーとレミニアと連絡を取ろう。大丈夫、五人いれば何とかなるよ」
アナスタシアとエレインは話す。
それは、全ての希望となりえる少年を立ち直らせるために。
「責任を取りなさい、アーサー・レンフィールド。貴方は貴方が救った人達のために、停滞する事は許されません」
「お願いです、アーサーさん。今一度、希望を持って下さい」
「……俺、は……」
そして少年は立ち上がる。
停滞を越えて、今一度、自身の運命に抗うために。
「お前が用意する運命なんて、これから先、何度だって踏破してやるからなァァァああああああああああああああああああ!!」
『スコーピオン帝国』の城で、セラはサラを連れ戻した本当の理由を伝えた。
「お前にはこの国に戻って来て欲しいんだ」
「あたしはあんたに協力する気も、この国に帰ってくる気も全く無いわ」
上級魔族との戦いを終えたアーサーは、クロノとの別れ際にこんな会話をしていた。
「仲間を集めろ、かつてのローグ達のようにな」
「大丈夫だよクロノ。俺にはもう、心強い仲間がいるからさ」
アーサーとレミニアとの合流を諦めたアレックス達は、先に『スコーピオン帝国』へと入国していた。
そこで全身が雷のエクレールからの襲撃を受け、その状況から助けてくれた少女と出会っていた。
「それでお前は? まさか天の声って訳じゃねえよな?」
「ボクはシャルル・ファリエール。おそらくキミ達と同じ目的を持っている。良かったら情報交換でもしない?」
アーサーは『ポラリス王国』でいつか連れ出すと約束していた少女、ラプラスを助けるために寄り道をしていた。
「まさか、兄さんが愛人に会いにいくために利用されたなんて……」
「いやちょっと待てマイシスター。お前今のやり取りちゃんと見てたか!? どう見ても襲われたのは俺だろ!!」
城への再突入を実行したアレックス達は、エクレールからではなく『機械歩兵』からの襲撃を受けていた。そしてアレックスが消えたエクレールの後を追うと、そこには数日ぶりのアーサーとの再会が待っていた。
「ようアーサー。テメェはいつもトラブルの渦中にいるな」
数日ぶりに再会したアーサーとアレックスは、お互いに何をしていたのか情報を交換するためにみんなで集まって話し合う事にした。
そして近況報告を追えて、アーサーは月光に照らされた城を見ながら静かに誓う。
「……もう少しだけ待っててくれ。明日、必ず迎えに行くから」
そして運命の朝が来る。
作戦通りシャルルがエクレールを引き付けている内に城の領土へと忍び込み、レミニアの転移を使ってアーサーは一足先にサラの元に向かう。
その少年はどこまでも軽い調子で、囚われのお姫様の窮地を救って言う。
「ようサラ。久しぶり」
「アー……サー……?」
サラを救う事だけが目的だったが、セラの行動を認められなかったアーサーは彼女と戦う事を決意する。
「……ラプラス、予定変更だ。俺はこれからセラのヤツを殴りに行く」
「そう言うと思ってましたよ、マスター」
アレックス達はアーサーとは別に『機械歩兵』の対処に追われていた。アレックスはジリ貧の状況を打開するために二手に分かれる事を決断し、ラプラスとレミニアは別行動を始める。
「仲間からの信頼の厚さ、流石私のマスターです」
「今のやり取りでも株が上がるのは兄さんなんですね……」
サラとはぐれて、アーサーはラプラスからサラとセラの間にあった過去を知る。
だがそれでも、アーサーの目的は揺るがなかった。
「では案内します。こちらも切羽詰まっているので手早く行きましょう」
セラとの戦いの途中、深手を負ったアーサーはセラの本当の目的へと辿り着いた。
偶発的な戦争でサラが危険に晒されるのを防ぐために『第三次臨界大戦』を意図的に誘発させる事、それがセラの目的だった。
「……それでもまだ、『希望』が残ってる」
「信じるに値しないな」
倒れたアーサーを見て、サラは怒りを込めてセラとの戦いを再開した。
「ここであんたを殺す!! 今度はあたしが殺してやるッッッ!!」
復活したアーサーはサラの殺意を止めた。だがセラは武器と認識した物を操るという魔術の本当の力を開放し、国中の全てを操作して武器とした。
それに対抗するように、アーサーとサラは立ち向かう。
「覚悟はしていただろう? これが一国を相手にするという事だ。今更降伏は受け付けないぞ?」
「『獣化・制限解放』―――!!」
「―――『断魔絶爪』!!」
別行動中の結祈とシルフィーの前に、シャルルが足止めしていたはずの雷の怪物、エクレールが現れる。
シルフィーを逃がす為に、二本の剣を携えた結祈は確信を持って告げる。
「ワタシはエクレールをここで食い止める。多分、倒すには最低でもアーサーとアレックスが一緒じゃないと無理だけど、食い止めるだけなら一人でも大丈夫だと思う」
サラに殴り飛ばされて、満身創痍のセラはそれでも立ち上がった。
そして互いに譲れない信念を持つ少年と少女は、最後の勝負に挑む。
「……それでも私は止まる訳にはいかない。ここまで来て、ここまでやって、ここまで巻き込んで、今更全て無かった事になんてできるか! もう後戻りする道なんて私にはない!!」
「だったら全部持ってこい! 『スコーピオン帝国』の軍事力も、『武器操作』の脅威も、お前の抱える想いも残さず踏破して、俺がお前を止めてやる!!」
サラの慟哭。
セラの信念。
その全てを受け取って、アーサーは握り締めた拳をセラへと叩き込んだ。
「こんな生き方しか選べなかったあの人を、一〇年以上もあたしのために執念に取り憑かれてるあの人を、セラをっ、あたしのお姉ちゃんを! お願いだからたすけてっっっ!!」
「くっ……いい加減止まれ! なぜ赤の他人であるお前がそこまで抗うんだ!! 必死になれるんだッ!!」
「人そのものを凶器とみなして操れなかったお前が、本当は優しい心を持っていたはずのお前が、世界の全てを戦争の渦に突き落とすなんて事をしたらダメなんだ!!」
全ての戦いは終わったと思っていた。
けれどその奥から否定するように、新たな敵が現れる。
「ヤツの名は―――ダイアナ・ローゼンバウム=サジタリウス。隣国の『サジタリウス帝国』の亡国の姫にして、戦闘に関しても絶大な力を誇る天才だ」
その時、別の場所でラプラスはあるファイルを見つけていた。
今回の事件で最初から見落としていた、その前提条件を呟く。
「プロジェクト:オンリーセンス……」
そして始まる。
思惑の外側、予定調和から外れた本当の戦いが。