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村人Aでも勇者を超えられる。  作者: 日向日影
第一〇章 最悪の事態を避けるために Throw_Away_Everything, But_One….
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188 結論は示された

 アーサーは向かって来る剣に向かって右手を突き出した。

 そして、思う。


(同じ忍術を使う結祈(ゆき)はできるんだ。俺にできない道理は無い!!)


数多の修練の結晶の証(ウェポンズ・スミス)』では武器の精製が間に合わない。

『人類にとっても小さな一(ワンヤード・ステップ)歩』では回避しきれない。

 だからアーサーは、もう一つの手段に頼る事にした。


(借りるぞ、久遠(くおん)さん、結祈(ゆき)!)


 それはいつも結祈(ゆき)がやっていること。

 他人の魔術を見ただけで模倣し、オリジナルと何ら遜色の無い精度で発動する結祈(ゆき)の規格外の理由の一つ。今度はそれをアーサーが模倣する。

 偽物の偽物。それを、使う。


「『妄・穢れる事プロテクションロータスなき蓮の盾(・カルンウェナン)』!!」


 アーサーの手の正面から、白い半透明な花冠の形状の盾が現れる。

 だが結祈(ゆき)が使っていたものよりも輝きが若干鈍い。強度もそれに比例して低くなっていた。五本目を受け止めた辺りで盾の真ん中に致命的な亀裂が走る。

 アーサーは盾が砕けるのを予感しながら、一層足の回転を速めた。盾が砕けていき、脇腹を剣が掠めても一切速度を緩めずに、まるで一発の弾丸のようにセラに向かって真っ直ぐと。


「くっ……いい加減止まれ! なぜ赤の他人であるお前がそこまで抗うんだ!! 必死になれるんだッ!!」

「……サラに頼まれたんだ、お前を助けて欲しいって」


 再び頭上から降り注ぐ武器を盾を使って退けながら、アーサーは吐き出す。


「思ったんだ、お前を救い出したいって」


 突き詰めれば、彼の原動力はそれしか無かった。

 元々、相手を殴り飛ばすだけの理由ではここまで動けるような人間ではない。相手を救いたいと思う心が彼の折れない芯だった。

 いくつもの傷を体に刻み、剣劇の嵐を踏み越え、アーサーはそこへ辿り着く。

 ついに長かった数メートルの距離を埋めて、あと数歩でセラの懐へ飛び込める位置まで来た―――その時だった。


「ッ!?」


 ズッッッ!! とアーサーの体が床に沈んだのだ。

 別に体が床に埋まっている訳ではない、突然セラへの進路を阻むように床が崩れたのだ。

 それは不運だった訳ではない。その証拠に、見上げたセラの顔には不敵な笑みがあった。

『武器操作』。瓦礫を凶器として認識して操れるのならば、それは最初にアーサーとサラを分断したように、今まで戦っていた足場とて例外では無かったのだ。

 これがセラの正真正銘最後の切り札。あと少しで届いた距離を突き放すと同時に、アーサーの心を折るための最高の一手。見上げるアーサーと見下ろすセラの距離が再び開いて行く。


「……落ちろ、アーサー・レンフィールド。もう諦めろ! 瓦礫の底で貴様の大事な仲間が後から追うのを黙って待っていろ!!」

「ォ……」


 しかし崩れ落ちる足場の上で、アーサーはまだ止まろうとはしていなかった。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 ダンッ!! と今いる足場から上にある足場へと跳躍したのだ。

 新たに足場にした瓦礫が落ちる前に再び跳躍し、上に戻るために何度も何度も駆け上がるように足場を変えて跳躍する。


「『瞬時加速(エアリアル・ドライブ)』!!」


 落ちている最後の足場を魔術を使って蹴り、アーサーは逆にセラを見下ろせる高さへと躍り出る。空中に滞空する瓦礫の底に足を着け、それを蹴って上からセラへと迫る。


「チィッ!!」


 忌々しげに舌打ちをしながら、セラは初めて後退する。今の今までセラがいた位置にアーサーは着地し、二人は動きを止めたまま互いを睨み合う。


「……ふざけるな」


 恨み事のように呟くセラの顔がくしゃりと歪んだ。


「魔力も気力も絞り切って、少し押せば倒れそうなほどボロボロになって、どうしてそこまで頑張れる!? この戦いに勝ってお前は何を得られるんだ!! お前は一体、何を目指してそこに立っているんだっっっ!!」

「……俺の目的は、最初からずっと変わってないよ」


 ここまで来た理由。随分遠くまで来たような気がするが、そもそもの目的はセラを倒す事ではなく別にあった。

 それを改めて確認するように、アーサーは真っ直ぐセラを見て告げる。


「俺の仲間を、本当の意味で取り戻すために」


 サラはセラを助けてくれと言った。

 だったら、そこまでやっての救出だ。サラを助けに来たのに、彼女が望まない形で救い出しても何の意味もない。


「……結局さ、俺には()()しかなかった。どんなに偉そうな建前を並べた所で、俺が頼ってきたのは暴力だ。否定はしない」


 アーサーはセラから目線を逸らさず、懺悔するように言う。


「何度も何度も他人を傷つけて、逆に傷つけられて、そんな風にしてずっと戦って来た。……でもさ、こんなどうしようもない手段でも、護れたものは確かにあったんだよ」


 だから。


「俺のやる事は何も変わらない。俺はお前を救い出す。勝ってサラと一緒にみんなの所に帰る。それが俺の頑張る理由だよ」


 アーサーの言葉を聞いて、セラは目を丸くしていた。

 戦場を一瞬だけ静寂が包み込む。

 だがやがて、セラはわなわなと震えて叫ぶ。


「―――っ、そんな馬鹿な夢想に、貴様の呪いに他人を巻き込むなァァァあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 止まっていた時間が動き出す。

 セラが掲げた手を振り下ろし、滞空している武器が全てアーサーに向かって落ちてくる。

 けれど、遅い。

 その前にアーサーの足がセラの懐へと決定的な一歩を踏み込む。

 睨み合うような至近で、アーサーは呟くように言う。


「……もしかしたら、お前が言ってる事に間違いはないのかもしれない。俺が言ってる事が甘いだけで、本当に正しいのはお前の言い分の方なのかもしれない。……でも!」


 拳を引き絞り、セラの顔面へと解き放つ。


「人そのものを凶器とみなして操れなかったお前が、本当は優しい心を持っていたはずのお前がッ、世界の全てを戦争の渦に突き落とすなんて事をしたらダメなんだ!!」


 ゴッッッギィィィィッッン!!!!!! と凄まじい轟音が鳴り響く。

 それが結果の全てだった。

 そうして。

 制御の失われた瓦礫が空から降り注ぐ景色の中で、一つの戦いが終わりを告げた。

ありがとうございます。

第一〇章が始まってから三一話目。ついにアーサーがセラを打倒しました。第一〇章は次回で終わりです。

しかし第一六一話のあとがきでも言ったように、次回は今までとは少し違う物語の展開にしようと思っています。その意味は次回、明らかになります。

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