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村人Aでも勇者を超えられる。  作者: 日向日影
第一〇章 最悪の事態を避けるために Throw_Away_Everything, But_One….
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185 忍術 V.S. 雷速

 大地の揺れはアレックスを送り出した結祈(ゆき)とシルフィーの所にも届いていた。野外にいたからか、『スコーピオン帝国』のあらゆる場所から色々なものが集まって来ているのにも一番に気づいた。そして何故だか分からないが、周りを取り囲んでいた『機械歩兵(インファントリー)』もそれに合わせるようにどこかへと飛び立ってしまった。


「いやー……まさかここまでとはね」


 結祈(ゆき)は両手に持った二本の剣を仕舞いながら、どこか他人事のように言った。


「呑気なこと言ってる場合じゃありませんよ! この国にだって大勢の人が住んでいるんです。どれだけ混乱するか分かりません。すぐに助けに行かないと!!」

「だとしてもどうやって? たった二人じゃできる事は限られてるし、全員は救えない。魔力の感じからしてセラ・テトラーゼ=スコーピオンの魔術だろうし、今はアーサーとサラに任せるしかない」


 混乱していたシルフィーは冷静な結祈(ゆき)の言葉に自分も冷静になれた。一応は『アリエス王国』のお姫様として見過ごせるレベルの事態ではなかったが、闇雲に動いても何も好転しないのは理解していた。


「とりあえずワタシ達もアレックスの後を追って合流しよう。向こうの方がまだ何か手立てを出せてるかもしれない」

「は、はい」


 結祈(ゆき)はシルフィーを先導するように、城の方へと踏み出す。

 けれど一歩目でその足は止まった。


結祈(ゆき)さん?」

「……ああ、そういえばこんなのもいたね」


 結祈(ゆき)は振り返りながら仕舞った二本の剣を再び出して握り、その目はすでに真紅色に変化させていた。初っ端から全開の臨戦態勢で構える結祈(ゆき)の前に現れたのは落雷だった。全身が雷の人型。それは見知った敵だった。


「エクレール……!? じゃあシャルルさんは……」

「大丈夫。ワタシ達の中じゃ一番アレとの交戦経験が多いらしいし、魔力は感じないけどきっと生きてるよ」


 魔力を感じない時点で考えられる可能性はかなり少ない。それこそ死んでいるか『タウロス王国』の闘技場の控室のような魔力を遮断する場所にいるかだ。そして今、可能性が高いのは当然前者だ。それでも結祈(ゆき)はシルフィーを安心させるために言い、すぐさま『()纏雷(てんらい)』を発動させた。


「……シルフィー。アーサーの所でもアレックスの所でも良いからすぐに逃げて」

結祈(ゆき)さんは……」

「ワタシはエクレールをここで食い止めてみる。倒すには最低でもアーサーとアレックスの二人が一緒じゃないと無理だけど、食い止めるだけなら一人でも大丈夫だと思う」

「だったら私も手伝います」

「ううん、お願いだから逃げて。こう言ったら変な意味に聞こえるかもしれないけど、雷速になれないシルフィーじゃ逆立ちしてもアレには太刀打ちできない。ワタシもシルフィーを庇いながらじゃ戦えない。だから―――」


 言いかけている途中だった。言葉を理解できているのか分からないが、エクレールはこちらの話が終わるまで待ってはくれなかった。雷速突進(チャージ)でシルフィーに向かって飛び込んでくる。

 しかし結祈(ゆき)はその不意打ちに反応していた。両手の剣でそれを受け止める。


「まったくッ……もう少し空気を読んでよ……!!」


 剣で弾きながら蹴りを撃ってみる。エクレールの脇腹に当たってその辺りを吹き飛ばす事はできたが、まったく手応えが無い。本当にまともな物理攻撃は効かないらしい。


「走ってシルフィー! 『瞬時反撃(オートカウンター)』!!」


 欠損部分を回復したエクレールがすぐに反撃してくる。結祈(ゆき)はそれを自動的な反射を頼りに両手の剣で弾いていなす。けれど無理矢理体を動かすというのは負担がでかい。その表情は苦痛に歪んでいく。


(くっ、『()雷光纏壮(らいこうてんそう)』は反動がでかくてあと二回しか使えないし、できればアーサーとアレックスがいる時に使いたい。かといってこのまま『瞬時反撃(オートカウンター)』だけじゃジリ貧だし……)


 そもそも全身が魔力で体力に限界が無く、無制限に攻撃を仕掛けてくるエクレールと、体への負担の大きい魔術を使っている結祈(ゆき)では先の展開は馬鹿でも分かる。子供と大人の喧嘩と同じようなものだ。

 結祈(ゆき)はそうなる前に地面に触れて別の忍術を使う。エクレールとの間の地面が盛り上がって土の壁が現れ、エクレールの攻撃の手が緩む。これは魔術の原則として『雷』は『土』に弱いからこその現象だった。特に全身が雷のエクレールはその弱点をモロに突かれたのだろう。

 さらに、結祈(ゆき)の魔術はそこで終わらなかった。土の壁の周囲の地面が割れ、砕けた岩がくっ付いて形を成していく。太く長い首に、先端は大きな顎が形成される。


「『岩竜(がんりゅう)』、行って!!」


 岩石の竜は狙った魔力を追尾する。結祈(ゆき)が操作しなくとも勝手にエクレールへと向かって行く自動型だ。それにより間接的に二対一の構図ができあがる。結祈(ゆき)は『岩竜(がんりゅう)』の背を駆け上がり、適当な位置で空中へと飛び出す。


(借りるよ、アーサー。『(フェイク)瞬時加速(エアリアル・ドライブ)』!!)


 例によってアーサーの比ではなかった。絶え間なく連続で使用する事で空中を自在に駆ける。そしてエクレールの背面に来ると、一際強い輝きを放つ手を銃の形にして伸ばす。


「『(フェイク)徹甲光槍(ライトニングピアス)』!!」


 かつてシルフィーが使用して、それを見て会得した『雷』と『光』の複合魔術。『雷光纏壮(らいこうてんそう)』と同じ雷光の力を持つ槍は躱す暇を与えずにエクレールを背中側から貫く。再び体の大半を失ったエクレールに、上から『岩竜(がんりゅう)』が顎を開けて襲い掛かる。そして顎だけでなく砕けた体の全てがエクレールの上へと圧し掛かる。

 それでも、結祈(ゆき)は警戒を解かなかった。岩の下にいるエクレールの魔力がまったく衰えていなかったからだ。

 その予感が正しかったと告げるように、エクレールはすぐに岩の下から結祈(ゆき)に向かって一直線に飛んで来た。準備していた結祈(ゆき)はそれを再び剣で受け止める。


「まったく……っ! 期待してた訳じゃないけど少しは怯んで欲しいよ。『(シン)廻纏(かいてん)』!!」


 サラと共に作った魔術だからだろうか。いつもの『偽』ではなく『真』と言ったように、それはサラのように手足だけでなく足場から竜巻のように全身を包み込む風が巻き上がり、それが目の前にいたエクレールを吹き飛ばす。そして結祈(ゆき)はそのまま風を剣に纏わせて構え直した。


(もう少しだけなら頑張れるけど……早くお願い、アーサー!)

ありがとうございます。

おかげさまで、今回で二〇〇部目(表示している話数は一八五話ですが、行間などを含めると二〇〇話目ということ)です。という事は次話の投稿からスマートフォンでの閲覧は二ページ目に移るという事ですね。

そして今回は近衛結祈とエクレールの戦闘でした。そろそろエクレールの存在を忘れてるかなー……と思ったのと、このエクレールが今後重要な役割を担うのでこういう話にしてみました。それにしても、相変わらず結祈は強いなぁ。

第一〇章も残り四話です!

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