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村人Aでも勇者を超えられる。  作者: 日向日影
第一〇章 最悪の事態を避けるために Throw_Away_Everything, But_One….
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179 最悪に備えて出来る事

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!???」


 広がる血溜まりを見てアーサーは絶叫した。敵の前だというのに構わずサラに向かって走り出す。

 油断していた。

 セラならサラを深く傷つけないと高を括っていた。

 警戒を解いてさえいなければあの剣を弾く事もできたかもしれないのに、ほんの些細な体の硬直がこの悲劇を招いた。咄嗟にラプラスに連絡を取ろうと耳に手を伸ばしながら、思考は一つの事に集約されていた。


(早く、早くシルフィーかレミニアの所に……ッ!!)

「戦いの最中に余所見とは良い度胸だな」


 その言葉を聞いてから自分がまた失敗を冒していると自覚した。剣が飛来する風切り音が耳に届いて来た段階で振り向くという選択肢は捨てた。一メートル程度の転移で躱せるかも分からない状況でアーサーが取った手段は、


「『誰もが夢見る便利な(ダブル)助っ人』!!」


 自分の分身を横に作り出し、自分自身に蹴り飛ばして貰う事だった。

 自分で蹴らせておいてなんだが、脇腹に入った足が肋骨を軋ませる。だが吹き飛ばされながら分身が無数の剣に貫かれるのを見て、内臓が押し上げられるような不快感程度で済んで良かったと心底思った。


「チッ、本当に上手く避けるな」


 方向を変えて今度は本体であるこちらに向かって来る剣に向かって、アーサーは『モルデュール』を投げた。だがセラには『モルデュール』は武器だと認識されたのか、放物線を描いていたはずなのに突然カクンと向きを変えた。

 アーサーはとにかくすぐに『モルデュール』を起爆させた。爆炎が広がりそれに隠れるように移動する。今度こそラプラスに連絡を取ろうと再び耳に手を伸ばすが、そこでインカムが耳から無くなっているのに気づいた。


(インカムが無い!? ……くそッ、さっき『誰もが夢見る便利な(ダブル)助っ人』を使って回避した時か!!)


 かと言ってインカムを探している暇は無い。とにかくサラの元へ煙の中を走る。けれど最初の時点でサラの元へ走ろうとしていたアーサーをセラは見ていたのだ。当然、視界が阻まれた場合のアーサーの行動はバレていた。

 無数の剣がサラの元へ向かうアーサーの上に降り注ぐ。剣は狙って飛ばしたのではなく適当に飛ばしたのだろう。しかし自分の『モルデュール』が生み出した爆炎が仇となった。今度の今度こそ剣を弾く事も避ける事もできず、背中に深々と突き刺さって体を貫通する。走っていた足がもつれて床に転がる。


(ま、マズイ……)


 喘ぐように呼吸しながら、自分の体から溢れる血を見て咄嗟に傷口を押さえる。


(これは……ホントに、死ぬ……っ!)


 おそらく急所に入った。それに傷口が大きい。早く治療しなければ命に関わる確かな予感があった。


「貴様がサラに言おうとした推察。それはおそらく真実に近いだろう」


 セラが近づいて来る気配があった。アーサーには話を聞く余裕が無かったが、傷口を手のひらで圧迫しながら一応はセラの話に耳を傾ける。


「だがまだ足りない。ここまでやった私の目的が、サラを連れ戻すだけだったと本気で思っていたのか?」

「……っ!?」


 返答する事はできなかった。けれどアーサーの動揺を気配で感じ取ったのか、セラは言葉を続ける。


「結界が無くなった今、『第三次臨界大戦』は遅かれ早かれ絶対に起きる。これは揺るぎない確定事項だ。お前もそれは分かっているんだろう?」


 セラの話を聞きながら、アーサーは荒くなった息を整える。立ち上がろうとすると傷口から全身に鋭い痛みが走るが、声を発する事くらいの余裕はできてきた。


「だがここで重要なのが、戦争が始まる時期が不定という事だ。いつ世界規模の戦争が起きるのかが分からなくては、万全の準備を整えるのは難しくなってしまう」


 兵の体調、武器の整備、食料の備蓄、国民の避難など。

 アーサーも『アリエス王国』で経験したように、戦争というのは準備段階から始まっている。結果的にアーサー達は万全の準備を整え、一人の死者を出す事なく勝利した。けれどあれだってヴェルトが襲撃する日時を指定していたから出来た事で、特に『アリエス王国』の主力は『スコーピオン帝国』のような機械兵ではなく、生きたエルフ達だった。敵がいつ襲って来るか分からない状況で精神的な疲労も加われば、あそこまでの戦果は挙げられなかっただろう。


「……なら、お前の目的は……最初から……!」


 最悪の答えが頭に浮かぶ。

 到底まともじゃないアイデア。アーサーはそれを、確認するように言葉に出す。


()()()()()()()()()()()()()()……!?」


 アーサーの答え。

 それが正解だという風に、セラは笑って答える。


「そう、分からないのなら分かるようにしてしまえば良い。万全を期している間にこっちから『第三次臨界大戦』を起こしてしまえば良いんだ。『第二次臨界大戦』は戦力の消耗で痛み分けとなった。それと同じように、万全の状態で戦争に挑んで終戦の最後まで生き延びる。それが私の本当の計画さ」

「じゃあ、サラを連れ戻そうとしたのは……」

「戦争に巻き込まないためだな。サラの動向は『タウロス王国』の事件から追っていた。『アリエス王国』の件もある。お前といれば必ず戦争に参加すると思ったからだ」


 確かにアーサーは戦争が起きてじっとしている事はできないだろう。必ずどこかで戦争に関わる。それは知り合いのいる『タウロス王国』かもしれないし、シルフィーの故郷の『アリエス王国』かもしれない。どうあれアーサーは戦争が起きればどこかの戦いに参加するはずだ。そして彼が参加すれば、仲間であるサラ達も参加する事になるだろう。セラが言っているのはそういう事だ。


「……そのせいで、何人死ぬと思ってるんだ……」

「時期不定の大戦よりは死者の数は抑えられる。そのためにやるんだからな」

「それはこの国だけの話だっ! 他の準備できていない国は一体どうなると思う!?」

「それこそ私には関係ない。忘れていないか? 私はあくまで『スコーピオン帝国』の王女だぞ?」


 アーサーの言葉は届かなかった。

 セラはアーサーの体に突き刺さった剣を操作して引き抜く。止血の役割を果たしていた剣が抜かれ、アーサーの流血が加速する。体温が下がっていくのを理解しながら、体がどんどん動かなくなっていくのが分かった。

 サラが倒れ、アーサーも倒れた。もう誰もセラを止められない。世界が『第三次臨界大戦』の混乱に巻き込まれるのを黙って見過ごす事しかできない。

 けれどアーサーの瞳は光を失っていなかった。ぼやけてきた視界でセラがいる方を睨みながら、ハッキリとした口調で告げる。


「……それでもまだ、『希望』が残ってる」

「信じるに値しないな」


 アーサーの意識はそこで途切れる。

 二度と覚めないかもしれない暗闇へと落ちていく。

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