171 往々にして間の悪い人間は他者にとっては間の良い人間となる
◆一日前◆
そして明けた翌日。
アレックス達は先日襲われた場所のすぐ傍にまでやって来ていた。
「あと一〇メートルも進めば昨日と同じようにエクレールが飛んで来る。みんな準備は良い?」
「問題ねえ」
シャルルの最後の警告にアレックスが端的に答える。シルフィーと結祈もそれに頷き、足を進める。
小さな歩幅で一〇歩進み、約五メートル進んだ所で早くも変化が起きた。昨日と同じように空から敵が飛んでくる。
「……ん? 何か変じゃねえか?」
まず飛んできたのが雷では無く、ジェットを噴射さえて飛んでくる。さらに言うなら影が一〇個以上はあったのだ。そしてその正体は、近づいて来る事でハッキリとしてきた。
つまり。
「―――『機械歩兵』!?」
叫んだのが誰だったのかは分からない。だが向こうが銃の形に変形した腕からエネルギー弾を発射した事で戦闘が始まった。突然の攻撃だったが、それぞれ上手くそれを躱す。
「クソッたれ! なんだって昨日じゃなくて今になって襲って来るんだ!?」
「し、知らないよ! 今までこんな事は一度もなかったのに……っ!?」
「エクレールが城の防衛システムだとしたら、昨日の戦闘で私達の存在がバレたのかもしれません。もしかするとサラさんのお姉さんがここまで追って来た私達を消そうとしてるのかも……」
アレックスとシャルルが困惑の声を上げ、シルフィーが冷静に分析している中で結祈だけは『機械歩兵』を確実に機能停止へと追い込んでいた。
「とにかく難しい話はあと。まずはこれを片付けよう。大丈夫、一体一体はそこまで強くない」
そりゃテメェが強すぎるからじゃねえか? と言いかけたが寸での所で堪える。よく見ると確かに初動も分かりやすいし、なによりエクレールに比べたら止まっているような速度だ。アレックスも剣を抜いて応戦する。
結祈の言う通り一体一体はそこまで強くはないのだが、その分数が多くて少々厄介だ。特に腕とは別に両手銃を持っている個体の放つエネルギー弾は手砲よりも強力で意識を削がれる。
しかも追い打ちをかけるような出来事がもう一つ。
気づかぬ内にデッドラインを踏み越えていたのか、本来戦うはずだったエクレールが先日と同じように落雷と共に現れる。
(んな……っ!? くそっ、こいつらだけでも厄介だってのに!!)
思わず歯軋りをしたアレックスだったが、どうもエクレールの様子が変だった。
昨日は即座に雷速突進をかましてきたのに今日はその様子が無い。それどころかどこか別の方向を向いている。
そしてついに、エクレールはアレックス達の方を向く事もなく、再び雷化してずっと見ていた方向へ向かって飛んで行った。
(……なんだ? 向こうに一体何が……)
「アレックス!!」
アレックスが疑問符を浮かべていると、結祈が『機械歩兵』の一体の首を斬り落としながら叫んだ。
「今エクレールが向かった方向にアーサーがいる! ここはワタシに任せて応援に向かって!!」
「っ、ああ……分かった!!」
結祈は自然魔力感知で感じ取ったのだろう。アレックスはその指示に一瞬だけ思考停止しかけたが、短く返事をすると『纏雷』を使ってエクレールの後を追う。流石にこの段階で回数制限のある『雷光纏壮』を使う訳にはいかないからだ。
魔力感知に集中し、エクレールの通ったであろう道を辿る。しかしそんな事をしなくてもすぐにアーサーの居場所は分かった。なぜなら少し離れた場所で大きな雷の爆発が起きていたからだ。
(ったく、間が悪いっつーか何つーか……。まあ俺達からすると助かった訳だし、やっぱ間は良いのか?)
そしてついにその輪郭を捉える。
約一週間ぶりに見る馬鹿野郎は丁度エクレールの雷速突進を食らって吹き飛んでいる所だった。アレックスはエクレールが再び突進の構えを取っているのを見ると、『雷光纏壮』を使って一気に加速する。タイミングはギリギリだったが、二度目の突進がアーサーに直撃する寸前、アレックスは剣を横薙ぎに振るってエクレールの胴体を真っ二つに両断した。
そしてアレックスは妙に久しぶりに感じる再開にありったけの皮肉を込めてこう言う。
「ようアーサー。テメェはいつもトラブルの渦中にいるな」
ありがとうございます。
やっと二人の話が合流! はぐれたのが一三七話なので、随分と久しぶりです。
次回は行間を挟みます。