行間二:サラの日常
◆一〇年前◆
毎日のように家を抜け出していたサラは、ホワイトライガーのシロと共に森の中にまでやって来ていた。彼が辿り着くと、それを知って辺りから別の動物達も近寄って来た。
「おはようみんな。元気にしてた?」
シロの背中から降りたサラが声をかけると、色々な動物達が一斉に声を上げる。
「ああ、うん、もう大丈夫。みんな元気そうで何より。それで今日は何する?」
「ガウ!」
「昼寝って……シロ? 折角遊びに来たのにそれは無いんじゃない?」
この時のサラはまだ『獣化』を会得していないはずだったが、動物の喋っている内容は理解できていた。それは彼女自身、当たり前の事すぎて自覚が無かったのかもしれないが、この頃にはもう『獣化』の片鱗は目覚めていたのかもしれない。
「他に意見のある子はいる?」
「グルゥ」
サラの呼びかけに応じたのは二メートル程の大きさの熊だった。普通の人なら腰を抜かしそうな迫力があったが、サラは冷静なままだった。
「ああ、相撲ね。良いわよ。受けて立つわ」
サラが承諾してすぐに突進してくる熊。それをサラは真正面から受け止めた。ロクな魔術が使えない幼少期のサラだが、流石にアーサーのように魔力が全く無い訳じゃない。全身を魔力で包んで身体能力を強化する程度の技法は持っている。
「よ、四足歩行の時点で敗けだと思うけど……!」
「グ、グガ……ッ!?」
「まだまだ力不足ね!!」
サラは熊を抑えていた片手を顎の下に移し、巨体を持ち上げて後方に投げ飛ばした。背中から地面に叩きつけられた熊は倒れたまま動かなくなった。
「よっし、次! かかって来るなら相手になるわよ!!」
歓喜の声を上げるサラを見ながら、回りの動物達は互いの顔を合わせて同時に頷き合った。そして全員同時にサラに向かって飛び掛かる。
「ちょっ!? それはいくら何でも……っ!!」
雪崩のように襲って来た動物達はどうしようもなかった。サラの小柄な体は動物達の中に埋もれてしまう。
「フゥ……ガウ!!」
溜め息のような息を吐いてからシロが叫んだ。するとすぐにサラに圧し掛かっていた動物達は波のように引いて行く。
後に残ったのは目を回したサラだけだった。シロはそんなサラに近づいて顔を舐める。するとサラは呻き声を上げながら目を覚ました。
「ぁ……シロ。ありがと、助けてくれて」
サラは立ち上がって服に付いた土を払い落とす。その間、シロはサラの体を支えるように寄り添っていた。
「シロは優しいわね。あたし、将来はシロと結婚したいな」
「ガウ」
「その内もっと良い人が見つかるって? どうかしらね。ま、シロみたいな人だったら考えても良いかもね」