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村人Aでも勇者を超えられる。  作者: 日向日影
第一〇章 最悪の事態を避けるために Throw_Away_Everything, But_One….
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168 出来損ないの『一二災の子供達』

◆一日前◆



 アーサーは咄嗟に出した右手で槍を受け止めて魔力を掌握し、反転させて投げ返した。槍は着弾した瞬間に辺りに稲妻を撒き散らして爆散する。当然、近くにいたアーサー達も衝撃に吹き飛ばされて路地から大通りへと吹き飛ばされる。


「や、やったか……?」

「あの程度では倒せません。戦ってはダメです、私達だけではあれに勝てません! 早く逃げましょう!!」


 突然起きた稲妻に辺りにいた人達が路地に注目している所を、アーサー達は逆行する形で走り出す。そして走りながらアーサーはラプラスに質問する。


「ラプラスはあれが何か知ってるのか!?」

「はい、本当に悪い冗談みたいです。……こんな事は言いたくありませんが、あれは私達『一二災の子供達ディザスターチルドレン』の失敗作です。勇者達の力を使わずに『魔神石(ましんせき)』のみで『一二災の子供達ディザスターチルドレン』を造ろうとしたせいでしょう」

「『魔神石(ましんせき)』……。たしか昔アユムさん達が倒した『一二神獣(ゾディアック)』が内包してた特別な魔石だっけ?」

「はい。そして私やレミニアさんの力の源でもあります」

「えっ、私もですか?」


 走りながらレミニアが驚きの声を上げる。よくよく思い返してみると、アーサーはクロノから聞いていたが、レミニア本人には確認を取っていなかった。何から説明したものかと悩んでいると、ラプラスがさっさと説明を始める。


「レミニアさんの心臓は『一二災の子供達ディザスターチルドレン』の一人、『無限』のパンドラの心臓です。じゃなかったら一日に何度も転移なんて使えません」

「なるほど……そうだったんですね」

「意外とあっさりとしてるな……」


 割と重要な話だったのだが、当の本人であるレミニアはキョトンとした表情で、


「だって、出自がどうあれ兄さんは兄さんのままですよね?」

「……まあ、そうだけどさ」


 アーサーは少し心配になった。

 だってそれは、まるでそれ以外はどうでも良いと、それが一番重要であると言っているような口調だったから。

 いや、レミニアにとってはその解釈で間違いは無いのだろう。それはアーサーとの約束が生んだ僅かな歪み。やはりこの兄にしてこの妹ありというのか、少し異常な思考が垣間見えた瞬間だった。


「こほん。仲が良いのは結構ですが、今の状況にも目を向けて下さい」


 わざとらしい咳払いをしてジト目を向けてくるラプラスに引かれるように、アーサーも一度咳払いをして気を取り直す。


「あれは自我を持つ事には失敗はしていますが、『魔神石(ましんせき)』のエネルギーをそのまま破壊力に転換させているんです。ある意味では私達以上に理に適った『魔神石(ましんせき)』の使い方ですね」

「……そういう事は悲しくなるから言うな」

「それは追々直していきます。ただ不思議なのはここが魔術と縁遠い『スコーピオン帝国』だという事です。この国が『魔神石(ましんせき)』を進んで使うとは思えないのですが……」

「つまりラプラスでも詳しい事は分からないのか……」

「端的に言うとそうなります。ただ言えるのは見た通り敵は雷の塊です。だとするなら速度もそれに準じるはず。つまり」


 話の途中、『天衣無縫(てんいむほう)白馬非馬(カルンウェナン)』のお陰で強くなっている危機感知に背後からピリピリとした感じが伝わってくる。気になって振り返ってみると、雷を迸らせた魔力弾がこちらに向かって来ていた。アーサーは立ち止まり、向かって来たそれに右手を突き出す。


「マスター。先程のように跳ね返すのは止めて逃げに徹して下さい」

「分かってる。だから『魔力吸収(マナアブソーブ)』を使う」

「不完全版のやつですね」

「それを言うな! 一日じゃここまでが限界だったんだ!!」


 わいわい騒ぎながら、アーサーは右手で受け止めた魔力弾をいつものように掌握して返すのではなく、分解して自分の魔力として吸収した。これも到着を一日伸ばした成果の一つだ。

 だが安堵している暇は無い。走っていた前方に再び雷が落ち、先程と同じような姿で立ち塞がるように立っていた。どれだけ足を動かしても、常時雷速で動ける相手から逃げる術は無い。


「……ラプラス。逃走ルートは?」

「……未来を変えて貰えますか?」


 その返答に思わずアーサーは歯噛みする。ラプラスの言葉はつまり、現段階ではこの場から逃げ切れる選択肢が無いという事を示しているのだから。とりあえずアーサーはラプラスとレミニアを守るように一歩前に出る。


「あー……カミナリ様? 話って通じる? なんで急に襲ってきたのか理由を教えてくれると助かるんだけど……」


 とりあえず会話で時間を稼ごうとするが、向こうにその気は無かった。というか言葉が通じているのかどうかも怪しい。この相手は生物ではなく迎撃システムか何かと思った方が良いのかもしれない。

 放出するタイプの攻撃は無意味だと学習したのか、カミナリ様は目にも止まらぬ速さでアーサーに突進してきた。寸での所で『何の意味も無い平(42アーマー)凡な鎧』を使ってみたが、『天衣無縫(てんいむほう)白馬非馬(カルンウェナン)』のお陰で強化倍率が上がっているというのに本当に何の意味も成さなかった。ラプラスとレミニアの間から無力な少年は大きく吹き飛ばされる。


(さ、流石に、これは……!)


 体を地面に擦りつけて減速しながら、アーサーの戦意は半ば折れかかっていた。

 誰にだって相性というものがある。アーサーにとっては膨大な魔力で攻撃してくる相手よりも、目にも止まらぬ速さで攻撃してくる相手の方が相性が悪いのだ。


(どう、する……?)


 痺れて上手く動かない体に力を入れて、放電し続けているカミナリ様を見る。すると再びこちらに突進して来ようとしていた。


(どうする!?)


 打つ手が無かったアーサーは、悪足掻きとして腕を交差して防御の姿勢を取る。すぐに来る衝撃に備えて体に力を入れる。

 だが突進を始めたカミナリ様がアーサーに接触する事は無かった。二人の間にもう一つ、雷が落ちたからだ。

 カミナリ様が現れた時と同じ現象。しかし今度現れたのはよく見知った相手だった。

 柄から切っ先まで真っ黒な直剣を携えた彼は、カミナリ様と同じ雷速で動いて剣を横薙ぎに振るい、上半身と下半身を両断する形で斬り裂いた。カミナリ様の分かれた体は速度を保ったままアーサーの後方へと吹き飛んでいく。

 彼はこちらに振り返って言う。


「ようアーサー。テメェはいつもトラブルの渦中にいるな」

「アレックス……? お前どうして……」

「詳しい話は後だ。まずはあのカミナリ野郎を倒さねえと」

「倒さないとって……今お前が両断しただろ」

「あの程度で倒せる敵なら、俺達は数日もこんな所で足止め食らってねえ」


 その言葉通りだった。

 アーサーの後方で、カミナリ様は両断されたはずの体がくっついた状態で立っていたのだ。アーサーはとりあえず『数多の修練の結晶の証(ウェポンズ・スミス)』でアレックスと同じユーティリウム製の直剣を創って構える。


「……は? おいアーサー。テメェ今何やりやがった? その剣はどこから出てきた!?」

「詳しい話は後なんだろ? とにかくあいつをどうやったら倒せるか教えてくれよ。まさか無敵って訳じゃないよな?」

「知ってたら俺達も苦労してねえんだよ。とにかくテメェ後で説明しやがれよ」


 軽口を叩き合いながらも警戒を続けるが、カミナリ様が攻撃してくる気配は無かった。そしてアーサーとアレックスを値踏みするように見た後に雷となって空に消えていった。


「……引いたか」


 アレックスは安堵したように呟いて剣を仕舞った。それに合わせてアーサーも安堵の息を吐いて剣を消す。


「アーサーさん!」

「兄さん!」


 そこで少し遠くにいたラプラスとレミニアが走って追いついてきた。ラプラスのアーサーの呼び方が戻っている辺り、どうやら本当に脅威は去ったらしい。


「……アレックス。この国は何なんだ? 今までだって入国していきなり襲われるなんて事は無かったぞ」

「そこから説明が必要なのかよ……。お前いつからここにいる?」

「この国に入ったのはついさっきだ」

「だったらそこから説明が必要だな。とりあえず付いて来い。結祈(ゆき)とシルフィーと合流するぞ。テメェにも新しいツレがいるみてえだし、まずはここ数日間の近況報告からだな」

ありがとうございます。

次回は二つ目の行間を挟み、再び時間を遡ってアレックス達の話をやります。

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