行間一:正反対の姉妹
◆一〇年前◆
それはまだセラとサラの両親も健在で、『スコーピオン帝国』の城に多くの人がいた頃の話。
「サラ様、お待ち下さい! 外に行くなら相応しい恰好を……っ」
「嫌よ、ドレスなんてひらひらしてて動きにくいじゃない。お願い、シロ!」
サラが名前を叫ぶと白い毛並みのライガーがすぐに表れ、サラは軽装のまますぐにその背中に飛び乗って城の外へと飛び出してしまう。彼女はこれから城下町に下り、国外の森にホワイトライガーのシロや他の動物達と遊びに行くのだ。それはサラにとってはいつも通りの日常だ。
「サラ様は相変わらずですね。贄用の人工生命体などに感情移入して……。セラ様はああなってはいけませんよ?」
そして、それを城の一室の窓から眺めているメイド服姿の女性がいた。
その女性は机に向かっているサラによく似た少女、セラに勉強を教えていた。
語学から数学など、今は座学をしているが、それ以外にもセラは礼儀作法や武術などもほとんど毎日休みなく教わる生活を送っていた。
「セラ様はいづれこの国を継がれるお方。サラ様のように遊んでいる暇は無いのです」
「分かっています」
何度言われたか分からない言葉に機械的な返答を返しつつ、ペンを握る手の動きは止めない。下手に止めようものなら鞭や叱責が飛んでくるからだ。それはセラにとってはいつも通りの日常。
サラ・テトラーゼ=スコーピオンは活発な少女だった。
城にいるよりも外で駆けまわっている事の方が多く、従者を困らせてばかりだったが、妹という事もあって両親からは半ば見捨てられていた。
セラ・テトラーゼ=スコーピオンは大人しい少女だった。
外に行くよりも城の中にいる事の方が多く、両親も含めて多くの人に好かれており、姉という事もあって将来は国を継ぐ事を約束されていた。
自由に遊べる代わりに当たり前の親からの愛を受け取らなかった少女と、親からは好かれていたが自由は無く未来に束縛されていた少女。
どちらが幸せだったのか、簡単には判断できないが正反対の幼少期を送った二人のお姫様。
けれど決して、この姉妹の仲は悪くなかった。
サラはセラを尊敬していたし、セラはサラの事を大切に思っていた。
だからこそだ。
だからこそ、二人の道は決定的に違えてしまったのだ。
今回の章の行間ではサラとセラの過去について触れていきます。