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村人Aでも勇者を超えられる。  作者: 日向日影
第九章 停滞した針を動かそう Piece_of_“DIPPERS”.
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行間三:訳あり姉妹の再開と喧嘩

「なんであんたがここにいるの!?」


 サラのそれは絶叫に近かった。

 絶対に見たくないものを見た人の反応のそれだった。

 今まで見た事のないサラの姿に、結祈(ゆき)が驚いた顔になる。


「……サラ、あそこに誰かいるの? ワタシには何も感じ取れないよ」

「いえ、間違いなくいるわ。この感覚は忘れたくて忘れられるものじゃない」


 そしてサラの言う通りだった。両手銃を構える『機械歩兵(インファントリー)』の後ろから一人の人間が現れる。


「……ぇ、嘘……」

「……」


 結祈(ゆき)が驚きの声を漏らした相手の正体は、肩の辺りにかかる程度の短い銀髪の黒い軍服姿の少女だった。

 それだけならば別に良い。だが問題はその顔立ちだった。勝気な様が伺えるその顔が、傍らにいるサラに信じられないくらいそっくりなのだ。それに加えて結祈(ゆき)を驚かせる要因がもう一つあった。


「そんな……おかしいよ。あの人が立ってる場所から魔力を感じ取れない!!」


 困惑する結祈(ゆき)の言葉に、サラ似の軍服少女は反応した。


「ああ、それならこれの影響だろう」


 彼女が取り出したのは、小さなサイコロサイズの透明な立方体だった。中心では豆電球の明かりのように小さい、青い光が点灯している。


「魔力感知をされないように私が作った試作型の『ディテクションオフ』だ。実証実験はやっていなかったが、どうやら効果があったみたいだな。だがこれを持っていると自分も魔力感知を使えなくなるし、一切魔力が回復しなくなるからな。その辺りは今後の課題か……」


 こちらの状況を無視してぶつぶつ言っているその少女に一歩近づき、警戒したままサラが口を開く。


「……()()。どうしてここに?」

「おいおい。一応は血の繋がった()()()()()()? 敬語を使えとまでは言わないが、せめて姉と呼んでくれよ」

「御託は良い! 質問に答えて!!」


 どうにも二人のテンションは合っていない。サラの方なんて親の仇を見るような目でセラを睨んでいる。対照的に落ち着いた様子のセラは嘆息して、


「別に特別な理由は無い。『ゾディアック』を守っていた結界が消えたから国中に警戒態勢を引いていた。そしたらセンサーに反応があったからここに来た。それだけだ」

「『ゾディアック』を守る結界? 違う、あれは『魔族領』から報復を受けないために存在するだけだった。『ホロコーストボール』だってどうせあんたが造ったんでしょ!!」

「『ホロコーストボール』? ああ、あの球体兵器か。試みは面白いと思ったが、生憎(あいにく)あれはウチの製品じゃない。……にしても、お前に下らん入れ知恵をしたのは誰だ? 馬鹿なお前が一人でその真実に辿り着いたはずがない。後ろにいるヤツらか? だとしたら傑作だ。あれだけ一人が良いと言って飛び出していったヤツが、まさかお仲間を作ってるとはな」

「……あんたには分からないわよ。あたしの家族を奪ったあんたには」

「……ま、それもそうだな」


 その会話の内容は、アレックスと結祈(ゆき)にはほとんど分からなかった。結界の話についてはアーサーとサラの二人で話した事でアレックスと結祈(ゆき)は知らない事だし、後半の内容もサラとセラにしか分からない会話だったからだ。


「……おいサラ。口を挟んで悪いがこいつは誰なんだ? お前の身内みたいだが……」


 アレックスの問いかけに、サラはすぐに答えなかった。

 できれば話したくないと言わんばかりに逡巡し、やがて言い淀みながらも重い口をゆっくりと開き、その名前と素性を口にする。


「……あいつはセラ・テトラーゼ=スコーピオン。『スコーピオン帝国』の王女よ」

「……は? おいちょっと待て。さっきこいつお前の姉だって言ってたよな? じゃあお前は……!?」

「……一応、王位継承権第二位って事になるわね。立ち位置的には『アリエス王国』のヴェルトと同じかしら? 一切の偽りなく心底不本意だけどね」


 そう言ったサラは、本人の心情を表すように苦虫を噛み潰したような表情をしていた。家庭の内情に深く首を突っ込むつもりはないが、どうやらサラもサラで色々とあるらしい。

 会話するのすら嫌そうなサラとは対照的に、セラの方はただ仲の悪い姉妹と会話しているだけのように軽い口調で話す。


「まあ良い。実は『機械歩兵(インファントリー)』の強化のためにお前を探してたんだ。丁度良いから一緒に来い」

「……あたしが大人しく従うとでも?」


 姉が現れてから一度も『獣化(じゅうか)』を解いていないサラが、そのまま臨戦態勢に入る。強行突破するつもりなのだろうと思い、アレックスと結祈(ゆき)もそれに合わせて武器を構え直す。


「いいや、思ってないさ。だが後ろのお仲間が大事なら一緒に来るべきだと思うがね。まさか三人ぽっちで『スコーピオン帝国』を相手にしようとは思っていないだろう?」

「……」


 短い言葉に込められた脅迫に、サラの心は簡単に揺れた。

 それは誰よりも『スコーピオン帝国』の力を身に染みて分かっているからだ。本人ではなくその人の大切な人を傷つける事でその相手に最大のダメージを与える。何年経っても変わらないそのやり口に吐き気がする。


「……本当に変わらないわね。あんたも『スコーピオン帝国』も」

「お前もな。それで、どうする?」


 最初は睨んでいたサラだったが、やがて緊張を解くようにふっと息を吐いて力を抜いた。


「……森にもう一人いるの。そっちにも手を出さないで」

「サラ!?」


 サラの決断に結祈(ゆき)が驚きの声を上げる。しかしサラはもう腹を決めているらしく、『獣化(じゅうか)』を解いてセラの方に歩いて行く。結祈(ゆき)はそれを止めようとするが、向けられている多数の銃口にエネルギーが込められているのを感じ取ったアレックスが結祈(ゆき)の肩を掴んで止める。


「邪魔しないでアレックス!!」

「落ち着け馬鹿! そういう所はホントにアーサーにそっくりだ。この数を無事に切り抜けられると思ってんのか!?」

「ワタシならできるよ! だから離して!!」

「そういう話じゃねえ、森にはシルフィーが一人っきりだってのを忘れてねえか!? 俺達が無事でもシルフィーに戦力が集中すればどうなるか分かんねえのか!?」

「でもこのままじゃサラが……ッ!!」

「大丈夫よ、結祈(ゆき)


 今にも仲間割れを起こしそうなアレックスと結祈(ゆき)に、振り返ったサラは薄い笑みを浮かべたまま言う。


「心配しないで、ちょっと帰省してくるだけだから。アーサーにも大丈夫って言っておいて」

「でも……っ!!」

結祈(ゆき)


 サラは親友の言葉を抑えるように、


「あとは頼んだわ」


 行ってしまう最後にそう言い残した。

 儚げな笑顔を残して……。

ありがとうございます。

次回は話を戻し、青騎士との戦闘開始です。

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