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村人Aでも勇者を超えられる。  作者: 日向日影
第九章 停滞した針を動かそう Piece_of_“DIPPERS”.
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148 人と人とを繋げる縁 “Unforgettable_Gift.”

 決断を終えたアーサーは戻るべき道へと戻る事にした。

 集落に戻ると、その手前でクロノが待ち構えるように待っていた。

 別れ方が別れ方だったので気まずいが、その感情を押し殺してアーサーはクロノの前に立った。そして立っては良いが何を言ったものかと口ごもっていると、クロノがふんっと鼻を鳴らして、


「目の色が変わったな。ようやく戻ったか」

「……ああ、戻ったよ」


 仲違いをしていた二人の会話はそれだけで終わった。クロノは踵を返してエレインの待つ家へと向かう。

 すっかり暗くなった集落の中で、一つだけ明かりの点いたまま家があった。その家の中にはレミニアと車椅子に座るエレインが待っていた。彼女はアーサーの姿を確認すると笑みを浮かべて、


「おかえりなさい、アーサーさん。答えは出たようですね」

「ただいま。おかげさまで覚悟が決まったよ」


 そうしてアーサーは一度だけ目を閉じ、次の言葉を待つクロノ、レミニア、エレイン、そしてエレインの中で見ているであろうアナスタシアに向かって目を開いて宣言する。


「やるよ。この集落を守るために青騎士と戦う」

「当然だ。ここまでお膳立てしてその結論に至らなかったもう一発ぶん殴っている」


 エレインやレミニアが安堵の息を吐く中で、クロノだけがどこまでも上から目線だった。それにはアーサーだけでなく、レミニアとエレインまでもが呆れを通り越していっそ苦笑いすら浮かべた。


「さて、大分遠回りした感じはあったが全て必要なプロセスだった訳だ。お前も立ち直った事だし、話を先に進めよう」


 見るからに分かるはずなのに自分に向けられている三人の感情には一切触れないで語り出すクロノのスルースキルには素直に舌を巻く。

 彼女はアーサーの横を通り抜けて、エレインの前にある机の上に行儀もへったくれもなく偉そうにどかっと座る。


「青騎士は三日毎に来る。最後に来たのは今日の朝だから、三日後には間違いなくヤツは来る。それまでに私達で貴様を強くする」

「……いきなりその話をされてたら三日じゃ無理だろって叫んでた所だけど、お前の事だしプランはあるって信じて良いんだよな?」

「そこを完全にこっちに任せてる辺り、ある程度の信頼は得たという認識で良いのかな? ちなみに疑問の答えには無論だと答えよう。エレイン」


 名前を呼ばれたエレインにアーサーの視線が移る。彼女はそれを受け止めながらクロノの言葉に繋げる。


「私はとある『無』の魔術を持っています。『人と人とを繋げる縁アンフォゲッタブル・ギフト』という単一では意味の成さない魔術です。私はこの魔術で人から人に『無』の魔術を移す事ができます。ただし『固有魔術(オリジナル)』は無理ですし、両者の合意が無ければ移す事はできません」

「えっと……それは例えば俺の『何の意味も無い平凡(42アーマー)な鎧』をクロノに移したりもできるって事か?」


 大事な確認作業にはエレインではなく偉そうに座っているクロノが答える。


「その認識で間違いない。付け加えるなら魔術を受け取った私から今度はレミニアに移す事もできる。ただし同一の魔術を受け取れるのは一度までだ。贈り物が自分の元に帰ってくるのは道理に合わないからな。この集落には魔力制御に優れた『魔族堕ち』が多いだけあって、強力な『無』の魔術を持っている者も少なくない。それをエレインの『人と人とを繋げる縁アンフォゲッタブル・ギフト』で貴様に移す。それが私達が考えたプランだ」

「……良いのか? もう元には戻せないんだろ?」


 ここにはいない魔術の持ち主の代わりにアーサーはエレインに確認を取る。

 アーサーも『無』の魔術である『何の意味も無い平凡(42アーマー)な鎧』を持っているから分かる。たとえほとんど意味を成さない物だとしても、これまであって当たり前のだったし、いざという時には頼ってきた。それを手放すというのは生半可な覚悟ではできないだろう。それこそ相手を倒すために自ら右腕を吹き飛ばすような異常者じゃなければ。


「同意の上です。そもそもこれ以外に、私達が生き残る術はありません」


 そういう切羽詰まった条件は抜きにして考えて貰いたいのだが、そこまで行くともうアーサーの単なる自己保身にしかならない。罪悪感から逃れる理由を押し付けるだけなら、こんなに無意味な問答もないのだから。


「……まあ、一応本人達に聞いてみるよ。それで嫌だって言ったら受け取らない。それで良いか?」

「はい、それで構いません。私としても最後の確認はしておきたかった所ですから、アーサーさんから直接訊いて貰えれば助かります」


 もしかしたら親しい仲のエレインよりも部外者のアーサーの方が本音を曝け出しやすいという事もあるかもしれない。その辺りはエレインも分かってはいたのだろう。とりあえずそこを妥協点にして後は本人達の心次第だ。


「とにかく方針は決まったな」


 短い会議だったが、もう夜も遅いので最後にクロノがまとめる。


「貴様は明日一日でこちらが選んだ魔術所持者に会って貰い、それぞれから魔術の詳細を訊いて貰う。それができ次第エレインの『人と人とを繋げる縁アンフォゲッタブル・ギフト』で魔術を移して三日後に備える。それで良いな」


 反対の声は上がらなかった。

 決戦まであと三日。

 どうあれ全力を尽くすしかない。

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