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村人Aでも勇者を超えられる。  作者: 日向日影
第九章 停滞した針を動かそう Piece_of_“DIPPERS”.
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行間一:取り残された者達

 アーサーが起きた瞬間すぐ異変に気づいたように、アレックス達もすぐ異変に気づいた。

 まずアーサーの容態を見にテントの中を覗いたシルフィーが気づいた。その後に結祈(ゆき)が自然魔力感知、サラがストーカードッグの嗅覚を使って捜索したが、アーサーとレミニアを見つける事は叶わなかった。


「……消えたな」

「……消えたね」

「……消えたわね」

「……消えましたね」


 諦めたように、残された四人は揃って溜め息をつく。とはいってもアーサーが失踪するのは何も今回が初めてではない。流石にこう何度も失踪を繰り返されるといい加減そろそろ慣れてくる。『ポラリス王国』でも一緒にいた時間よりはぐれていた時間の方が長かったくらいだ。

 ただし今回はあの時と少し違う事がある。


「……流石に心配だな」


 アレックスは深刻そうな表情で呟いた。


「ですが、アーサーさんなら結局なんとかするんじゃないですか? 今までもそうでしたし」

「どうだろうな……。『リブラ王国』以前の超突猛進みてえなままだったら心配いらなかったんだろうが、今のあいつのままだと……」

「大丈夫だよ。ね、サラ?」

「そうね」


 しかしアレックスの心配とは裏腹に、結祈(ゆき)とサラは心配していなかった。それどころか二人揃って朝食の準備まで始めてしまう。


「大丈夫ってどういう意味だよ。根拠はあんのか?」

「『ホロコーストボール』を故障させる時のあいつは、ほとんど昔のあいつだったわ。多分、アーサーが立ち直るのにあたし達の助けはもういらないのよ」

「アーサーはもう十分に立ち直れてる。あとは最後の一歩を進めるだけの勇気があれば戻って来れるよ」


 それは想像しているというよりは確信しているようだった。二人ともアーサーの事を理解しているからこそ、そう感じたのかもしれない。

 けれど彼の理解者というよりは家族の立ち位置に近いアレックスはそう感じなかったようだ。二人は説明を聞いても納得しきれていない様子を見て、微笑ましいものを見るような目でひそひそと話す。


「あれだよね。アレックスって意外にワタシ達よりアーサーの心配をしてるよね」

「取っ組み合ってばっかりだけど、なんだかんだ仲が良いのよね」

「……くだらねえこと言ってねえでさっさと飯にするぞ」


 といっても大まかな部分はすでに結祈(ゆき)とサラがやってしまっている。二人だけでも数分で準備は終わるだろう。アレックスは全員分の飲み水を用意するために、あらかじめ近くの川から汲んでおいた水筒へと手を伸ばすが……。


「あれ、もう水が無えな……。この近くの川ってどこだっけ?」

「それなら私が分かります。水は私が汲んで来ちゃいますね」

「一人じゃ重いだろ。手伝うぞ」

「いえ、大丈夫です。私の分のごはんを準備して待っていて下さい」


 そう言うとシルフィーはアレックスがそれ以上何かを言う前に、水筒を四つ持ってさっさと行ってしまう。

 何か言いたげなアレックスだったが、とりあえずシルフィーに任せる事にした。手持ち無沙汰になったので他にやることを探すが、他にこれといってやることがなかった。シルフィーは一〇〇パーセント善意でやったのだろうが、それがアレックスをいたたまれない気持ちにさせていた。


「……なあ、俺にできる事ってあるか?」


 仕方なく二人でせっせと準備をしている結祈(ゆき)とサラに声をかけるが、気がつくと二人の様子が先程と変わっていた。ピリピリとした空気が静かに広がっていく。


「……サラ」

「ええ、分かってるわ」


 二人は朝ごはんの準備していた手を止めた。

 そして結祈(ゆき)は二振りのユーティリウム製の短剣を袖から出して持ち、サラは両手足を『獣化(じゅうか)』でホワイトライガーのものに変える。


「おい、急に臨戦態勢なんて整えてどうしたんだよ。でっかい猪でもいたのか?」

「全然違う。何かよく分からないものに囲まれてる」

「なんだって?」


 さすがにアレックスも朝食の準備などしてる場合じゃなかった。すぐに愛用のユーティリウム製の直剣へと手を伸ばして鞘から引き抜いて持つ。そして三人で背中合わせに構えて周囲へと注意を向ける。


「で、よく分からないものって具体的に何だよ。結界も無くなったらしいし、『ゾディアック』に魔族が攻めてきたって事か!?」

「だからそれが分からない。人の形はしているけど、多分人でも魔族でもないと思う。本当にそんな感じなの」

「マジかよ……」


 結祈(ゆき)が相手を判断できないのは珍しい事だった。彼女の自然魔力感知はアーサーほど微弱な魔力でも感じ取れる他、物の輪郭までハッキリ掴める。そんな彼女が分からないと言っているのだから、相手は相当異形なものだという事になる。


「冗談じゃねえぞ……。なんでよりによってアーサーのいねえ時にそんな訳の分かんねえもんを相手にしなきゃなんねえんだ。これから楽しい楽しい朝食タイムだったんだぞクソッたれ。つーかシルフィーが一人で水汲みに行ってるんだが!?」

「分かってるよ。だからこの場を切り抜けて早く合流しよう」


 焦る口調の二人に対して、一人だけ冷めているようにテンションが低いままの少女がそこにいた。

 浅い呼吸を数回繰り返した後、サラは思いつめた表情で言う。


「……そういえば、ここって一応『スコーピオン帝国』なのよね」

「そうだけど……それがどうかしたの?」

「いえ……ちょっと嫌な予感が……」


 サラの不安げな声でアレックスは一つ思い出したように言う。


「そういや『スコーピオン帝国』って表面的に見た軍事力だけだと『ゾディアック』でトップって話じゃなかったか? ドラゴンや細菌兵器なんて訳の分かんねえもんもあるから断言はできねえがな」

「……ねえ、結祈(ゆき)。囲んでるのは人型って言ったわよね。命はある?」

「あん? 一体何を……」

「無いよ。まるで機械みたい……じゃなくて機械だと思う。よく感じ取ると人型だけどパーツは多分鉄類だよ」

「じゃあやっぱり……」


 確信は持っているようだが、どこか遠慮がちな声音でサラは続けて言う。


「囲んでるのはおそらく『機械歩兵(インファントリー)』よ。まさか完成してたなんてね」

「それはなに?」

「『スコーピオン帝国』製の機械兵の集団よ。人型とか獣型があって、戦争になっても人が犠牲にならないようにしてるのよ」

「おいちょっと待て。お前、なんでそんなこと知ってるんだ? やけに詳しいみたいだが……」

「それは―――」


 サラの続く言葉は発せられなかった。ついに『機械歩兵(インファントリー)』が姿を現したからだ。

 その正体は結祈(ゆき)とサラが言っていた通り鉄製の人型の機械だった。それぞれ手には両手で持つ大きめの銃を持っている。近接用の剣や盾を持っていないのは、そちらの対処は諦めているからだろうか。そもそも命の無い機械兵で替えがきく彼らは、普通の人間の一般兵と違って損傷したら使い捨てるつもりなのかもしれない。


「……結祈(ゆき)、何体いる?」

「五〇くらいだよ。一人当たりのノルマは一七体ってところかな」

「ならそれぞれ目の前の敵に専念するぞ。向こうは飛び道具だし声を掛け合いながらだ」

「分かった」

「……」


 サラはアレックスと結祈(ゆき)の会話に反応しなかった。念のためアレックスがもう一度声をかける。


「おいサラ? 聞いてんのか!?」

「……なんで」


 ポツリ、と呆然とした様子でサラが呟く。

 アレックスの声は聞こえていないようだった。『獣化(じゅうか)』で強化されたサラの虎眼はどこか一点を見つめていた。『機械歩兵(インファントリー)』の奥、アレックスと結祈(ゆき)には視認できていない誰かに向かって、サラは凄い剣幕で叫ぶ。


「なんであんたがここにいるの!?」

ありがとうございます。

今回は置いてけぼりのアレックス達の話でした。この後もいつも通り、一〇章に続く話として何回か行間を入れていきます。

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