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村人Aでも勇者を超えられる。  作者: 日向日影
第八章 世界の均衡は破られた Violent_Changing_World.
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123 人と魔族に攻められながら

 遠くのものの輪郭すら把握できる結祈(ゆき)が『なにか』と曖昧な表現を使った。

 つまりはそれほどの脅威。戦車や戦闘機のように分かりやすい脅威ではなく、脅威なのは分かるが何が脅威なのか正確には捉えられない何かが来ているということだ。

 やがてその姿が視認できるところまで近づいて来る。木々の天辺から顔の覗かせるように、雷鳴のような轟音を響かせながらその姿が露わになる。

 目測でドラゴンほどの大きさがある。つまり全長は五〇メートルに届いている巨体。信じられない光景だが、そんな巨大な機械の球体が転がりながら近づいてきていたのだ。


「なんだよ、あのでかい球体は……」


 アレックスが呆然と呟く隣で、アーサーは冷静にその挙動を見ていた。

 機械兵器。つまり『ゾディアック』のものだ。ビビが言っていたように、人間が兵器で以て『魔族領』へと侵攻しているのだろう。それは警告も分かりやすいアクションを起こす事もなく動いた。

 球体の外装のあらゆる部分が開き、そこから大砲のような円筒型の兵器が飛び出す。そしてその砲身から上空に向けて何発かの砲弾が射出される。


「まずい……! みんな伏せろォォォおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 その絶叫はアレックス達だけではなく、周りにいる魔族達にも聞かせるためのものだった。

 しかし圧倒的に時間が足りなかった。射出された砲弾は空中で分解し、無数の破片となって振ってくる。

 その正体は『キラーレイン』。暴力の対象であるアーサー達には知る由もない、『ゾディアック』では大量殺人兵器として認定されている特殊砲弾だった。

 アーサーは一番近くにいたサラにタックルするように飛びついて一緒に地面に伏せる。砲弾の破片が降り注いで来たのはそれとほぼ同時だった。砲弾の破片も単体で爆弾としての能力があったらしく、地面に衝突した瞬間に爆発が巻き起こる。何発も続けて起きる爆発の衝撃が体を襲う。

 そして運が悪かった。数多ある砲弾の破片の内の一つが、アーサー達のいる場所にも降ってきたのだ。


「……っ、くそったれ!!」

「『廻纏かいてん』!!」

「『(フェイク)穢れる事なき(プロテクション)蓮の盾(・ロータス)』!!」


 アーサーが投げて起爆した『モルデュール』に巻き込まれる形で砲弾の破片は空中で爆発した。その余波をサラと結祈がそれぞれの魔術で防ぐ。しかし攻撃を盾の前でカットできる結祈の『(フェイク)穢れる事なき(プロテクション)蓮の盾(・ロータス)』と違い、サラの『廻纏かいてん』は体に風を纏うだけだ。吹き飛んで来た破片や爆炎は防げても衝撃までは防げなかった。アーサーとサラの体は地面を転がるように吹き飛んでいく。


「がっ……ぶ、げほげほっ! ぶ、無事かサラ……?」

「な、なんとかね……。あたしは魔術を使ってた本人だし、あんたよりはマシよ」

「それなら良かった。他のみんなは?」

「さっきので見事にはぐれたわ。どうでもいいけど、アーサーって本当にはぐれるのが好きね」

「好きでなってる訳じゃないし今回はお前も共犯だ。諦めろ」


 適当な調子で返してアーサーは惨劇の場と化した辺りを見回す。

 そこには命に対する礼儀も何もなかった。ただ一方的に蹂躙され、まともに逃げる事もできずに立ち尽くしている者、倒れたまま動かなくなっている者、酷いのでは体が燃えて雄叫びを上げている者もいた。

 助けなければ、と本能的に思った。

 けれど届かない。

 彼らとの距離は離れている。『キラーレイン』もまだ降り続けている。傍らにいるサラや仲間達も守らなくてはならない。『リブラ王国』での経験も足を絡め取る。その全てを吟味したうえで、力不足という単語が頭に浮かぶ。


(ちくしょう……。こんなもののどこに正義があるっていうんだ!!)


 別にアーサーだって明確に善悪が分かれているとは思っていない。『ゾディアック』が正義で『魔族領』が悪なんていうのは幻想だと分かってる。そもそも善悪なんて立場や事情でコロコロ変わるし、魔族にとっては人間こそが悪だろう。

 それでも最低限の礼節くらいはあると思っていた。そこには信じるに値する正義があると心のどこかでは思っていた。

 それを裏切られた。

 おそらくアーサーはこの光景を一生忘れないし、一生『ゾディアック』を信じ切る事はできないだろう。しかし今だけはその思考を頭の端に追いやる。それは冷徹になるためではなく、この場を生き残るために最良の策として。


「アレックス! 聞こえてるか!? とにかく森に逃げて後で落ち合おう!!」

「合流方法は!?」


 煙の向こう側から声が聞こえてくる。アーサーはその事に安堵しながら次の指示を飛ばす。


「結祈に頼んでくれ!! 幸運を祈る!!」


 一方的にそれだけ言うと、アーサーとサラは『キラーレイン』の降り止まない中を通って森へと走る。本来の目的地から離れていくのには多少後ろ髪を引かれる気持ちもあったが、今は仕方が無かった。死んでしまっては元も子もないのだから。


「ねえアーサー、これどこまで逃げるの!?」

「アレの射程が分からない。葉っぱで姿が隠せてると良いけど、もし高感度センサーなんかが搭載されてたらかなり離れないと安全とは呼べない」

「でも離れ過ぎたら流石に結祈でも見つけられないわよ!」

「だからって死ぬのはもっと違うだろ!」


 謎の侵略者の狙いは魔族らしいので、実際に狙われる可能性はそんなに高くないのだが、向こうからすると『魔族領』に人間がいるとは思わないだろう。容赦なく攻撃してくるかもしれないし、流れ弾が当たるという可能性もある。どうあれ逃げるに越したことはない。


「アーサー、洞窟があるわ! あそこに入ればしばらくは安全じゃない!?」


 サラが指さした先にはあつらえ向きの洞窟があった。

 アーサーは決断を迷わなかった。中が袋小路になっていない事を祈りながら、全力でその中に駆け込む。

 そして暗い洞窟を手持ちの『光の魔石』で照らしながら走り続けた結果、なんとか逃げ切れた。

 そもそもの狙いがアーサー達ではなかったからだろう。洞窟の中に入ってしばらくすると刺されるような気配は消えていた。そうなると途端に余裕が生まれてくる。アーサーはなし崩し的に入った洞窟(?)の中を見回す。


「どうやら洞窟……というより鉱山だったみたいだな。何か使えるものがあるといいけど……」

「ねえ、ちょっと見てアーサー」


 こちらも余裕が出てきたサラが屈みこんで何かを手に持っていた。アーサーはそれを背中越しに見る。


「これなんの鉱石かしら? 少なくともあたしは見覚えがないわね」

「これ……もしかして」


 疑問顔のサラとは別に、アーサーは驚いた顔をしていた。そしてサラからそれを受け取るとウエストバッグから小さなユーティリウムの欠片を取り出し、地面に置いて上から手に持った謎の鉱石で叩きつける。すると欠片といっても硬度は変わらないはずのユーティリウムが粉々に砕けたのだ。


「……間違いない。都市伝説だと思ってたけど本当に実在したんだ」

「一体なにが……」


 アーサーが驚く理由を理解できていないサラに、アーサーは銀色に光る鉱石を見せびらかすように持ちながら、


「アダマンタイト。硬度だけならユーティリウム以上の代物だ。熱も衝撃も放射線さえも通さないって言われてる幻の鉱石だよ。まさか『魔族領』にあるとは思ってなかった」

「それってそんなに凄いの?」

「まあ、これだけだとただの硬い石だね。ただ一度融かして抽出してから冷やして固めると絶対に破壊できないって触れ込みだから、武器とか防具にしたら凄いぞ」

「だったら持って帰る? あとで剣にしてアレックスにでも渡したら喜ぶわよ」

「うーん、でもアレックスって武器に雷を通して戦うし、そう考えると電導性の高いユーティリウムの方が合ってるんだよ。アダマンタイトってたしか電気も通さないし」

「……それって本当に金属って呼べるの?」

「さあ……別に俺が決めた訳じゃないし。一応磁石はくっつくらしいけど」


 と言いつつ、アーサーはちゃっかりアダマンタイトをウエストバッグの中に突っ込んだ。使い道はなくとも『ゾディアック』で売ればそれなりの額になると踏んでの事だった。


「でもそうなるとマズくないかしら? ここが鉱山なら働いてる魔族がいるんじゃあ……」

「どうだろう? もし使われてるならピッケルやスコップを使う音が聞こえてきても良いと思うけど。それにアダマンタイトをこんな無造作に置いとかないだろうし、もしかしたらもう廃棄された後なのかもしれない」

「だったら良いけど……」


 どこか納得しきれてない様子のサラだったが、それも杞憂に終わった。体感で数キロほど歩いた末に、何事もないまま無事に外に出られた。数十分か数時間かは分からなかったが、久しぶりの外の空気を肺いっぱいに吸い込んで背中を逸らして伸ばす。


「にしてもここはどこだ? 球体兵器からも逃れられたみたいだし、そろそろアレックス達と合流したいところだけど」

「でも合流は結祈任せなんでしょ? こっちからはコンタクトの取りようがなくない?」

「ストーカードッグは?」

「無理よ。さすがに匂いの片鱗もないわ」

「となると本格的に向こう任せか……」


 一応マナフォンを取り出してみるが、案の定繋がらなかった。マナフォンは魔力を媒介にして通話を可能にしているとの事だったが、『ゾディアック』の外に出た時から使用が不可能になっていた。もしかすると公表はされていない技術があるのかもしれない。


(まあ使えないものは仕方がない。あんまり動かないようにしておくか。その方が結祈も見つけやすいだろうし)

「……アーサー」


 ん? と軽く返事をしてサラの方を向くと顔つきが先程までと違っていた。臨戦態勢といえばいいのだろうか、いつでも動けるように腰を低くして警戒心をあらわにしていた。


「……最悪よ、第六感(シックスセンス)が振り切ったわ。いつの間にか囲まれてる」

「マジか……。ハネウサギで逃げ切れるか?」

「敵の力が未知数だから断言はできないわ。でもやめておいた方が良いかも。向こうも臨戦態勢に入ってるから」


 口ぶりからして数で負けているのだろう。機動力に優れるサラだけならともかく、アーサーは自分が枷になっているのを察した。人間と魔族という当たり前の戦力差を改めて思い知らされる。


「やあ人間」


 やがて木々の間から一人の魔族が現れる。辛うじて感じ取れる魔力からして戦闘力はグラヘルや蟲毒には遠く及ばない、あくまで下級魔族レベルだ。それでも数で攻められれば簡単にやられてしまうだろう。下手な動きはできない状況だった。


「ちょっと話を聞いてくれるか? なに、命が懸かってると思えば安いものだろう?」

ありがとうございます。

という訳で今回の敵は大量殺人兵器です。カップリングも第三章の『タウロス王国』を思い出しますね。

……それにしても、フェーズ2はアーサーがはぐれるのが通例になってるなあ。

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