表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
村人Aでも勇者を超えられる。  作者: 日向日影
第七章 少し、昔の話をしようか Secret_Story.
128/576

119 語られる歴史

「ま、語るといってもそう多くを語れる訳じゃない。それだとぼくとあいつが秘匿した意味がなくなってしまうからね」


 彼の昔語りは、そんな言葉から始まった。


「じゃあ何から始めようか。そうだな……やっぱり最初はぼくらの事についてからにしようか。知っていると思うが、そもそもの大前提としてぼくらはこの世界の人間ではない。『何か』によって送り込まれた異邦人だ。リンク・ユスティーツ。ローグ・アインザーム。リーベ・ヴァールハイト。ぼくら三人は『何か』にそれぞれ力を貰い、別々にこの世界に送られて来た。ぼくとリーベはすぐに会えたんだけど……ローグとはまあ、色々あったよ」


 どこか懐かしむような口調で、アユムは当時の事を語っていく。


「それからぼくら三人は手を組み、当時の世界を恐怖に陥れていた存在、みんなには『一二神獣(ゾディアック)』と呼ばれていた一二体の魔獣を倒すための旅を始めた」

「……この『人間領』と同じ名前なんですか?」


 五人の中で国に直接関わっていた経験のあるお姫様のシルフィーはそれがよほど気になったのか、失礼と知りながらも言葉を挟むように質問する。


「ああ、元々この『人間領』の名前は彼らから取ったものだからね。建国した時にローグの強い意向でそうしたんだ。彼らとの闘いが無ければ、今の世界の形は無かったから、と」


 アユムは不快な顔はせず、微笑すら浮かべて答える。

 彼にとってはこの話の全てが懐かしい思い出だ。それにただでさえこんな国の外れに住んでいる。もしかすると久しぶりの会話というのを彼なりに楽しんでいるのかもしれない。


「……色々あったよ」


 苦労した実感の込もった声音で、アユムは言う。


「たとえばぼくらの力だけじゃ対処できない事態に遭遇した時、それに対処するためにあるチームを作った。『小さな北斗七星達(ディッパーズ)』っていう当時強かった七人を集めた組織。そこにはシルフィール・フィンブル=アリエス。きみの父親もいたんだぞ?」

「お父様が?」

「ああ。ネスト・フィンブル=アリエス、彼の魔法は強力だった。ぼくも何度助けられたか分からない」

「そうだったんですか……。お父様からはそんな話は一度も聞かされていませんでした」

「あの頃の話はぼくらの中で禁句(タブー)になっているからね。律儀なヤツだったし、約束は守ってくれたようだ。……ただ、もう話をする事はできないようだけど。直接行けなくてすまないが、きみの父親には心から冥福を祈るよ」

「……はい、ありがとうございます」


 もしかすると、アユムが一番言いたかったのはこれかもしれないと、アーサーはそんな風に捉えていた。

 かつての友人の死に目にも会えず、わざわざこんな国の外れに住んでいるのだ。気軽に墓参りにも行けない事情でもあるのだろう。だからさすがに今しようとしている話がついでとまでは言わないが、それでも本題はシルフィーに会う事だったように感じられた。


「話を戻そう」


 その目的を果たせて満足したのか、アユムは再び五〇〇年の話へと戻る。


「『一二神獣(ゾディアック)』との戦いは本当に長かったよ。割と簡単に討伐できたヤツもいれば、諸事情でローグと戦う事になった時もあった。中には『ディッパーズ』総出で戦わなくちゃ倒せないヤツもいた」


 哀愁が漂うアユムの雰囲気に、アーサーは意識して空気を吸い込んでから言う。


「それでも、あなた達はそれを成し遂げた」

「だけど、それは全ての始まりに過ぎなかったんだ」


 すぐに返って来た言葉に一瞬だけ訝しげな顔をしたアーサーに、アユムは小さい笑みを浮かべてから告げる。


「『一二神獣(ゾディアック)』の体内には特殊な魔石が内包されていて、それが彼らの絶大な力の源だったんだ。ぼくらは『魔神石(ましんせき)』と呼んでいた、一つでも比類なき力を持つその魔石を使って『一二災の子供達ディザスターチルドレン』を造った。アーサー・レンフィールド。きみが『ポラリス王国』で会ったラプラスのような子供達をね。……それが世界に平和をもたらすと、あの時のぼくは信じて疑ってなかった」


一二災の子供達ディザスターチルドレン』という単語を知らない四人は疑問顔だったが、それを知っていたアーサーは友人の事を思い出しながら口を開く。


「……あいつは、ラプラスはあなた達に裏切られたと言っていたよ」

「だろうね。ぼくはあの子達を造っておいて、守れなかったどころか利用して使い捨てた。恨まれても仕方がない」


 ラプラスをあんな風にした元凶に、怒りを感じないと言えば嘘になる。

 だがいちいち突っかかっていては話が進まないので、何も言わなかった。それに今のアーサーにはそれだけの活力は無かった。

 そんなアーサーの心境も知らず、アユムは話を続けていく。


「これもアーサー・レンフィールドはラプラスから聞いたかもしれないが、遥か昔、『第一次臨界大戦』よりもずっと前に、それ以上の戦争があった」

「……『第零次臨界大戦』ってやつか?」

「そうだ。ぼくらが造った『一二災の子供達ディザスターチルドレン』を巡って、世界にいた一二の種族が互いに殺し合った。あれは悲惨としか言いようがない戦争だった。言い方は悪いが、それこそきみの抱えている先日の件が霞むくらいにはね」

「……」


 ラプラスは五○○年前の世界を、太陽は見えず、風は熱風か冷風しかなく、土と緑の匂いはせず焦土の匂いしかしなかったと言っていた。

 つまりはそれが当たり前だった時代。

 生きているだけで苦痛の伴う、今の世界に生きる人にはイメージの追いつかない現実。だとしたらアユムの言っている事もあながち間違いではないのだろう。


「ぼくはその戦争を終わらせるために『一二災の子供達ディザスターチルドレン』の力を使う事にした。ローグには反対されたけど、それでもぼくは強行した。そして誰も覚えていない変化が世界にもたらされた。ぼくらの不老もその副産物だ。結果的に残った『一二災の子供達ディザスターチルドレン』は確認できるだけで三人だったかな? この時に一二あった種族も人間、魔族、エルフの三種族まで減った。そして、この頃からぼくとローグは袂を別つ事になった。彼は魔族をまとめるために魔王として動き出して、ぼくはリーベと一緒に今ある『ゾディアック』を作るために科学を世界に広めた。滑稽な事に、それが間違いだと気づかないまま」

「ちょ、ちょっと待ってくれ! ローグ・アインザームが魔王? じゃあ『魔族領』のトップは、あんたと同じ勇者だって言うのか!?」


 さらりと放たれた真実への五人分の驚きを代表して、アーサーが声を荒げて訊き返す。

 それに対してアユムは軽く頷きながら、


「ローグは世界を安定させるためにそうした。元々、この世界の魔法が秘匿されたのだって、『一二災の子供達ディザスターチルドレン』だけじゃなく彼の尽力も大きいしね。彼が魔族を抑えてくれなかったら、人類はこの短期間にここまでの進歩はできなかっただろう」

「……それを、あなた達は五〇〇年も?」

「その通り、それから五〇〇年近くは上手く行っていたんだ。今みたいな結界が無かったから多少の小競り合いはあったけど、『第零次臨界大戦』のような大規模な戦闘は起きなかった。あの時までは」


 そしてアユムの話は、ごく最近の歴史へと繋がっていく。


「ここから先は詳しい話も必要ないだろう。きみ達も知っているように、やがて『第一次臨界大戦』が始まった。これも元を辿ればぼくらのせいだ。魔術と科学を扱う水準が同割合になった辺りで、亀裂が生まれているのには気付いていた。でも、どうしようもなかった。なるべく戦争を回避しようと色々してみたけど、できたのは先延ばしだけで、結局大戦は起きてしまった」


 いつかは起きる争いだった。

 それが五〇〇年後だっただけの話だ。

 当時を生きていた人達にはたまったものではないだろうが、アユムは端的にそう言った。


「これも悲惨だった。この戦争から忍が導入され、僅かにいたハーフエルフは絶滅した。その後の結果は知っているだろう? 人間と魔族とエルフ。それぞれの被害が大きく膨らんできて、戦争が継続不可能になった。誰も勝つ事なく終わったよ」


 その事について、特別彼らに責は無い。むしろよく五〇〇年も先延ばしにできたものだと、褒められても良いくらいだ。彼らが決してその賞賛を受け入れようとしなくとも。


「そして約二〇年後、その続きとも言える『第二次臨界大戦』が始まった。その終戦の引き金になった結界はぼくとローグで作ったんだ。『第一次臨界大戦』の後から用意してた大魔法だったんだけど、本当はナユタもいないと成立しない魔法をぼくとローグだけで強引に使った。そのせいで結界は本来の力を発揮できず、最初に『ジェミニ公国』への下級魔族の侵入を許してしまったように、力の弱い魔族なら突破してしまう事もあった。そしてぼくら二人の力は段々と衰え、それに比例する形で結界の強度も弱くなっていった」


 話が現代へと追いついた所で、アユムは深く息を吐いた。

 濃密な内容ではあったが、時間にするとそんなに経ってはいなかった。


「……さて、大分掻い摘まんで話したから色々と疑問もあるだろう。でも、今ぼくの口から話せるのはこれくらいかな」


『英雄譚』では決して語られる事のなかった、驚くべき事実の数々。

 彼の昔語りは、そんな言葉で終わりを告げた。

ありがとうございます。

今回は触れた話はざっくりとしていて、あくまで少しでした。章題通りですね。詳しい話はまた別の機会にやろうと考えています。

次回、第七章最終話です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ