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村人Aでも勇者を超えられる。  作者: 日向日影
第六章 それが最善の救済手段 Was_It_Worth_It?
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行間二:未来への布石

 アーサーを追うアレックス達にも変化が起きていた。

 サラの嗅覚は漂う硝煙のせいで使えず、シルフィーの人探しの魔術は時間がかかるためそもそも手段として数えていない。

 ともすれば歩いて探すしかないのだが、無作為に歩いたのでは『リブラ王国』は広すぎる。そんな訳で追いつくと息まいてた割に本格的に困っていたのだが……。


「アナタとは初めましてになるのかな、アレックス」

「……誰だテメェ」

「アーサーの友人の情報屋……かな」


 アレックス達の前に現れたのはクロネコだった。

 今回を含めてアーサーが度々世話になっている相手だが、実はアーサーはクロネコの事をアレックス達には話していない。そのせいかアレックスは剣を引き抜き、警戒心を露わにしてクロネコを見据える。


「……アーサーにはテメェみたいな友人がいるなんて聞いてねえ」

「ワタシが言わないようにしてるからね。でも今の問題はそこじゃない。アレックス達はアーサーに追いついて止めたいんでしょ?」

「……テメェの目的は?」

「簡単だよ」


 アレックスからはフードに隠れたクロネコの表情は伺えない。そのせいか余計に警戒を強めてしまう。しかしクロネコの方はそれでも構わないのか、口調のトーンも態度も変えないまま続ける。


「ワタシとしてもアーサーを止めて欲しい。そのためにアレックス、アナタがワタシにアーサーに追いつくための手段を訊いて」

「?」

「そういう力なの。アレックスが質問してくれたら、ワタシはそれの答えを知れる。だからお願い」


 アレックスはクロネコの真意を測りかねていた。

 たとえば今のアレックスの立場にアーサーがいれば、ここでの行動も変わっていただろう。アーサーならばリスクを覚悟しても、とりあえず情報を得る為に言われた通り訊いていたはずだ。

 しかし、アレックスは違う。

 彼はリスクを無視できない。目的も所在も定かではない相手の言う事を素直に聞くほどお人好しでも甘ちゃんでも無い。


「……俺が訊いたらその答えが分かるんだよな?」

「うん、そうだよ」

「だったらなんでアーサーの居場所を訊けって言わねえ。そう訊かれたらなんか不都合な事でもあんのか?」

「それはアーサーへの裏切りになる。ワタシの気持ちとアーサーの信念は別物だよ。ワタシの勝手な願いで、アーサーの想いを裏切りたくない」

「……」


 表情こそ分からないが、その声音からは嘘でない気配は伝わってくる。

 しかし、それが相手を信用できる根拠に繋がる訳でもなかった。


(さてどうしたもんか……)


 懸念を払拭するためにした質問だったが、余計に懸念が増える結果となってしまった。

 剣を握る手に不自然な力が加わっていく。

 そうして次の行動について考えていると、それよりも先に彼の隣で銀髪の少女が動いた。


「どうやったらアーサーに追いつけるの?」

「なっ!? おいサラ!!」

「訊くだけなら構わないでしょ? それだけならリスクも無いんだし」

「いえ、リスクはありましたよ」


 おどけた調子で言うサラに水を差したのはシルフィーだった。


「もしも呪い(カース)系の魔術の発動条件なら、今のでアウトでした。ただサラさんに変化が見られないとなると、それも杞憂だったみたいですが」

「ほら、大丈夫じゃない」

「結果論ですよ、サラさん。今後は気を付けて下さい」

「あー……そろそろ良いかな?」


 シルフィーの説教が終わるのを待ってから、クロネコは遠慮がちに口を挟んだ。それから知った情報を伝えるために口を開く。


「アナタ達だけじゃアーサーは見つけられない。先にこの国にいるピーター・ストーンという少年を探して。こっちの少年の居場所なら教えられるし、彼の能力なら全てを片付けられる」

「……そんなに凄いヤツなのか、そいつ?」

「能力の制限は多いけど、発動中はほぼ無敵だよ。彼の力ならアーサーを止める事も、アーサーがしようとしてる事もおそらく成し遂げられる」


 クロネコの声はそれを本当に喜んでいるようだった。クロネコにとっての一縷の望みが叶った、そんな印象を受けた。

 しかし、そう断言したクロネコの言葉に、アレックスは浮かない表情を浮かべるだけだった。

 そして。


「で、テメェが言いたい事はそれだけか?」


 持っていた剣の切っ先を真っ直ぐクロネコに向けた。その行動にクロネコは僅かに息を吐いて、


「……ピーター・ストーンを探す気は無いんだね」

「当たり前だ。まず第一にテメェを信用できねえ。第二にその情報源はどこだ? 他者が聞いた事が分かるなんて、そんな都合の良い魔術を俺は知らねえ。あまりにも強力過ぎる」

「……人は自分が理解できないモノを恐れるからね。ま、良いよ。ワタシのこれはあくまで助言であって強制じゃない。選ぶか選ばないかはアレックス次第だから」


 クロネコは剣を向けられている事を意にも介さず、話は終わりだと言わんばかりに踵を返して歩いて行く。

 その最後。クロネコは少し残念そうな声音でこう呟いた。


「……でもきっと、アーサーは失敗する事になるよ」


 奇妙なほど鮮明に耳に届いてきたその言葉に、アレックスは反論しなかった。

 本当にアーサーが失敗すると思っていなければ、反論する必要もないはずだったから。

ありがとうございます。

次回は急転直下、第六章が終わりへと向かって行きます。

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