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村人Aでも勇者を超えられる。  作者: 日向日影
第六章 それが最善の救済手段 Was_It_Worth_It?
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110 虎穴に入らずんば虎子を得ず

 事態の深刻さに、アーサーとデスストーカーはすぐに行動に移った。アーサーの構えるラウンドシールド隠れながら、二人は車両の裏から駆け出す。


「っ、デスストーカーだ! いたぞ!!」


 その声と共に彼らの持つアサルトライフルから嵐のように銃弾が放たれる。爆破跡の建物を見に来ていた野次馬が、突如鳴り響いた銃声で混乱に陥る。

 再び建物と建物の間の道に入り込むが、『レオ帝国』の特殊部隊も後を付いて来る。背中側に盾を構えて銃弾を防ぎながら次の大通りに出る。そこにも当然、何も知らない一般人がいた。


「くっ、デスストーカー! どこか広い建物に入ろう!!」

「正気か!? 袋小路に自ら飛び込む事になるぞ!!」

「でもここだと一般人への被害が大きい! それだけは避けたい!!」


 デスストーカーは軽く舌打ちをしながら、アーサーの提案を聞き受けた。ぐるりと辺りを見渡して少しでもリスクの少ない建物を探す。


「無難なのは研究所関連だ。危険物があるから、重火器の使用を制限できる。ただし外よりは少ないとはいえ最低限の人はいる。俺は指名手配されてるだろうし、不法侵入で捕まる可能性も捨てきれない」

「じゃあ他には!?」


 アーサーが銃弾が盾に当たる音にかき消されないように大声で叫ぶと、もはや定期的と言っても過言ではない建物の爆破が起きた。今度は入居者がいるような建物ではなく、広い敷地を持つ博物館だった。

 それを見たデスストーカーは僅かに目を細めて言う。


「あそこが良いかもしれないな。爆破した後なら一般人はいないだろうし、警備会社や消防隊が来るまでの約一五分でヤツらを巻けば何とかなる」

「ならそれで!!」


 決断は迷わなかった。

 中から避難のために出てくる人達とは逆走する形で、避難誘導する警備員の目を盗んで中へと入る。どうやら今の情勢が不安定な『リブラ王国』には観光客はほとんどおらず、被害に遭った人はそれほどいないようだった。


「一直線に外に出るとすぐに足が着く。少し中を回ってヤツらの目を掻い潜ろう。とりあえず二階に上がれ」


 デスストーカーの指示には一切の迷いが無かった。まるでそうするのが正しいと知っているように。

 変な言い方だが、こういう追われる状況でデスストーカーの力が発揮されている。伊達に一〇年間も逃げ続けていないという事だろう。


「それでどうやって撒くんだ!? 視界に収まってる限りヤツらは追って来るぞ!!」

「口より足を動かせ!!」


 自ら首を突っ込んだ事とはいえ、一向に好転しない現状に歯噛みする。

 そして廊下を走り続け、建物の一番角の道を曲がった時だった。

 アーサーは視界の端で、窓の外にある眼下の道路で何かを捉えた。二度見するように、今度はしっかりその違和感の正体を探るように見ると、その正体はすぐに明らかとなった。

 アーサーが捉えたモノは、『レオ帝国』の特殊車両がその上に付いている迫撃砲の照準を斜め上に合わせ、今まさにそれをこちらに撃ち込もうとしている瞬間だった。


「っ!? デスストーカー!!」


 アーサーは少し前を走っているデスストーカーの名を叫びながら、手に持っているラウンドシールドに体を隠すように構えて、


「伏せろォォォおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 アーサーが叫んだその直後。

 ボンッ!! という音と共に迫撃砲が射出され、弾はアーサーに向かって飛んで来た。それはアーサーが盾で受け止めた瞬間に爆風を撒き散らし、盾を構えていたアーサーの体と、その後ろで伏せていたデスストーカーの体を一緒に吹き飛ばした。

 今日三度目の慣れない浮遊感が体を襲う。

 幸い動けなくなるほどの大きな怪我は無かったが、鼓膜が傷ついたのか嫌な耳鳴りがずっと続いていた。


「おい、動けるか?」


 続いている耳鳴りとは別に、男の声が飛び込んできた。

 アーサーは軽く頭を振りながら、その声のした方を向いて、


「……なんだデスストーカー。もう疲れたのか?」

「減らず口を叩けるくらいの元気はあるようだな。それなら早く立て」


 言われた通り、アーサーは呻き声を漏らしながら立ち上がる。それから自分達を守ってくれたラウンドシールドを拾う。さすがユーティリウム製と言ったところか、迫撃砲の直撃を受けたはずの盾には傷が全く付いていなかった。


「それで、これからどうする?」

「迫撃砲のおかげと言って良いのかは分からないが、追手が来る道は消えた。今の内に外に出よう」


 アーサーはデスストーカーの提案に承諾し、追手が消えた道を進み出す。ただしまたいつ『レオ帝国』の特殊部隊と遭遇してもおかしくない状況は続いている。特に角を曲がる時は慎重に確認してから進む。

 順調すぎるくらいに進軍が続くと、なぜか反比例して不安が募っていく。悲しい事に、彼は今まで順調に事が進むという経験が少ないので、それが原因かもしれない。


「……おかしいな」


 その不安と同調するように、デスストーカーは呟いた。


「いくらなんでも静かすぎる。足音はともかく、装備や服の擦れる音くらいは聞こえて良いはずなんだが……」

「……それって」


 アーサーが何かを言おうとした時だった。

 ザザッ、と壁の隅にあるスピーカーから嫌なノイズが聞こえて来た。


「ああ、絶対ダメなヤツじゃん、これ……」


 諦めたように呟いたアーサーの言葉がスピーカーの向こうに聞こえているはずもなく、その声は簡単に、そして無慈悲に告げる。


『ジョセフ・グラッドストーン、およびその協力者。この建物内にいるのは分かっている。何の罪も無い少女を助けたいなら、今すぐ玄関ホールに来い』


 二人がしばらく無言の空気に包み込まれた後で、最初に言葉を発したのはデスストーカーだった。


「やられたな」

「……」

「俺の本名を言ったという事は、『レオ帝国』は俺の一通りの事情は知っているのだろう。ある意味、お前と同じような戦法を取られた」

「……回りくどいな。つまり何が言いたい」

「お前はまた助けに行くんだろうが、今度の危険度は先程の比じゃない。なにせ次は隙を伺うのではなく、ご丁寧にも敵が待ち構えているんだからな。ただでさえ寄り道をしているのに、ここで捕まったら本当に間に合わなくなるぞ」


 デスストーカーの言う通り、これはそもそも本題ではない。たった一人を助けるために寄り道をして、もし細菌兵器の起動に間に合わなければ、今助けようとしている少女も含めて『ゾディアック』中の人達が死んでしまうのだから。

 その前提条件を改めて突き付けられたうえでアーサーは、


「それならデスストーカー、アンタは先に進め。俺は捕まってる女の子を助けてから後を追う」


 それを聞いたデスストーカーは少なからず驚いた表情をして、


「正気か? ここには『レオ帝国』の特殊部隊だけじゃなく、じきに『リブラ王国』の部隊だって現着する。その状況でたった一人で少女を救えるとでも?」

「やりようはある。……まあ可能性は低いけど、どっちみちここで二手に分かれないと両方を救えないからな。後は頼んだぞ」


 そう言って、アーサーは本当にデスストーカーを置き去りにして玄関ホールに向かい始める。

 それを無言で見送ったデスストーカーの心中を察しようともしないまま。

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