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村人Aでも勇者を超えられる。  作者: 日向日影
第六章 それが最善の救済手段 Was_It_Worth_It?
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行間一:次元を超える少年

今回はまったく違う場面の話です。

 アーサーとデスストーカーが『ゾディアック』を滅ぼしうる極大の事件に関わっている時、同じ『リブラ王国』内において全く別の事件がいくつも起きていた。

 上げればキリが無いが、例えばアーサー達も遭遇した建物の急な爆発。デスストーカーを追っている『レオ帝国』の特殊部隊による行き過ぎた捜査。それから銀行強盗、殺人事件、誘拐事件や拉致監禁などなど。


 そして、当然のように事件の数だけそれに関わる人達がいる。

 それは事件を起こす悪党だけでなく、それを止めようとする正義の味方も含めて。


「またやってるよ。ほんと飽きないなあ」


 呆れた口調で呟いたのは、見た目で言うと一五、六歳の少年。

 彼の名前はピーター・ストーン。自称するまでもなく、アーサー以上のどこにでもいるごく普通の少年。

 ただし普通の少年でも、今の『リブラ王国』では事件に遭遇する機会が多いのが現状だ。彼はただ銀行にお金を下ろすために来たのであって、警官隊と銀号強盗が銃を振り回してドンパチやり合う様を見たくてきた訳ではないのだ。


「別に帰っても良いんだけど、お金を下ろさないと夕飯の具材を買えないしなあ……」


 同じ系列の銀行なら他にもある。ただしそこは徒歩で数十分は離れている。

 彼は少し悩む。潔く諦めて別の銀行に行くか、それとも目の前の銀行へと正面突破を仕掛けるのか。

 絶え間なく響く発砲音を聞きながらしばらく考えた末、彼が下した結論は……。


「よし、さっさと金を下ろして買い物して帰ろう。思い返せばこの後見たい番組があったんだった」


 決めた直後、ピーターの体が青白くスパークする。それはアレックスが『纏雷(てんらい)』を使う時の現象によく似ていた。

 彼の体の輪郭がブレ、その場から消え失せる。警官隊と強盗達が銃撃戦を繰り広げる中を、何度か銃弾に当たりそうになりながらも現出とスパークを繰り返して移動する。そして何度目かの現出の後、彼が到着した場所は銀行内のATMの前だった。


「あーもう。能力を使いながらだとATMは動かせないのが欠点だな。我ながらもうちょっと融通が利いても良いと思うんだけど」

「おいお前! 今どこから現れた!?」


 ピーターが呑気にお金を下ろしていると、背中から怒声が鳴り響いた。突然現れたピーターの存在に驚いているのか、その声は上擦っていた。


「あっ、ちょっと待って。すぐに下ろし終わるから」

「なっ……!?」


 絶句する銀行強盗の一人を適当にあしらいながら、ピーターはATMから出てきた現金を財布にしまう。

 それから改めてこちらに拳銃を向けている銀行強盗と正面から立ち会う。よく見ると目の前の男だけではなく、捕まっている人質達も困惑の表情を向けて来ていた。まあ突然現れて銃を向けられているのに呑気にお金を下ろしていたらそういう表情を向けられても無理はないと思うが。


「で、何だっけ? 僕の用事は済んだし、もう帰っていい?」

「ふざけるのも大概にしろ!!」


 ピーターのふざけた態度で、遂に男の怒りが沸点を超えた。そして怒りのまま向け直した銃の引き金を引こうとするが、


「おっと」


 再び青白いスパークを発したピーターが消え失せ、次の瞬間には男の持っていた銃がカウンターの上に、それもマガジンを抜かれて弾丸も全て抜き出した状態で並べられた。


「危ないなあ。当たったら死んじゃうだろ。僕は速く動くのが得意なだけで、他は常人と変わらないんだから」

「お、お前は一体何なんだ……?」

「見て分からないの? お金を下ろしに来ただけのただの一般人ですおわかり?」


 適当な調子で言ってから、彼は改めて店内を見渡す。ピーターの登場で困惑が見られるが、人質達の中には怪我をしている者もいる。おそらく強盗に暴力を振るわれたのだろう。


「ふむ……」


 そして、ピーター・ストーンはそれを見て何も感じないほど薄情な人間ではなかった。


「予定変更。ムカつくからやっぱりお前らを拘束する」


 その宣言の直後、ピーターの体が青白くスパークし、彼はあらゆる人間から知覚されない領域に踏み込む。

 ピーターの『無』の魔術は、超スピードで動いている訳でも時間を止めている訳でもない。彼の力は『次元跳躍』。早く動いているように見えるのは、今いる場所と同じようで違う次元に飛び、そちらで行ったアクションがこちら次元にも影響を及ぼしているからだ。


「我ながら面倒くさい魔術だとは思うよ。まあ早く動いてるのと何ら変わらないから僕自身、認識はかなり曖昧だけど。というかこの認識で本当に合ってるのかも疑問だし」


 自分以外は何も動かない世界で、ピーターは銃を奪われて間抜け面を晒している男の正面で言う。当然、その言葉に返事は無い。傍から見れば(誰にも見えないが)大きな独り言を喋っているようにしか見えない。


「さーて、さっさと終わらせよう。正直言って面倒だし早く帰りたい」


 人質達から見た限りでは、全てはあっという間に終わった。

 ピーターが消え、現れる度に強盗達が一人ずつ一か所に縄で縛られて転がされる。しかも全員ご丁寧に身包みを剥がされてパンツ一丁になっていた。

 やがて外で銃撃戦をしていた警備隊が銀行内に突入して来て、捕まっていた人達は病院へと搬送される。

 そしてそれを起こした張本人、ピーター・ストーンは何処かへと消えていた。

ありがとうございます。

今回は登場したピーターは、また別の機会に登場させたいと思っています。

例によって、彼のような面倒くさい能力には重要な意味があります。それもまた別の機会にということで。

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