007
国王と王妃、今日の主役のブランシュが居る舞台には、
招待された喜びを伝える為の挨拶の為に、並ぶ列が連なる。
ダンスフロアでは、
緩やかに流れるトラディショナルなバンド演奏に合わせて、
男女一組となり、ゆったりと踊っている。
アンブルとセイブルは、想定外に囲まれる事無く、
挨拶を終え、そこから外れた立食用の席に立ち寄り、
ダンスに参加していない女性達に、
何故か包囲されているノワールを遠くから眺めていた。
ノワールは、国王の許可を得てなのだろうか?
仮面を帽子の様に被り、普段、見せていない素顔を晒し、
タキシードを着て、招待客達を笑顔で接客している。
仮面の存在が今、
ノワールが「ノワール」である事を証明していた。
女性から、男性に直接話し掛ける事が御法度とされる儀礼のある場所。
そんなノワールは、ダンスフロアへ、エスコートして貰う為の、
格好の獲物となっている御様子。
壁の花となっている女性達が、大っぴらに話す噂話に寄ると、
アンブルが社交界に出る年齢になってから、
給仕として舞踏会に参加するノワールにエスコートして貰った女性は、
そのダンスの後必ず、複数の男性にダンスに誘われ、
男性を選ぶ側になれると言う眉唾もののジンクスがあるらしい。
これが本当なら、ノワールと踊るだけで、
ノワールと踊った女性は、自尊心をも満たす名誉が手に入る事になる。
一度に誘って来た男の数を自慢する女性も少なくない世界で、
ダンスフロアに出れば、必ず複数の人に誘われ、
親との交渉、親の干渉無しに、ダンスに誘ってくれた相手の中から、
一番気に入った人とダンスができるのだ。
「このチャンスをモノにしたい」と、願う女性は多い。
ノワールに話し掛けたがる女性の列は、
ノワールが申し出を断り続けても、途絶える事は無かった。
アンブルの言う通りに謝罪しないとしても、
会話できる程度のは関係を修復したいと思っていたセイブルは、
ノワールを囲む娘達に阻まれ、
自分の周りに寄って来る娘を推薦したい父親や、
嫁入り前の姉妹を持つ兄弟に邪魔され、
ノワールに話し掛ける以前に、近付く事もできない。
仕方なく今回、セイブルは、ノワールとの関係修復を諦めて、
グレンデルの王と、アンブルを通じて王妃が薦める。
ノワールと仲の良いらしい。ノワールの姉で、アンブルの妹。
ブランシュを紹介される事を受け入れ、ダンスをする運びとなった。
セイブルは礼儀正しく、ブランシュをダンスに誘い。
ダンスフロアに出て、踊りながら、
社交辞令で、暇な時の時間の潰し方を訊ねる。
すると、ブランシュが、
『妹のノワールと、一緒に出かける事が多いですわ』と言うので、
セイブルは、積極的に会話を続け、詳しく訊き出し、
『今度、アンブルも誘って、4人で出かけませんか?』と言い。
約束を取り付けた。
それだけで満足してしまったセイブルは、浮かれた気分で、
何にも知らないブランシュの頬に軽くキスしてから、
ブランシュをダンスに誘う男達の中に、ブランシュだけを残し、
『では、約束の事を忘れないで下さいね』と、立ち去って行く。
残されたブランシュは、頬を染めてセイブルを見送り、
セイブルが立ち去ると同時に寄って来た紳士達、
ダンスに誘って来てくれているブランシュ的に平凡な男達の中から、
事前に母親が選んでいたリストの中の優先順位の高い、
綺麗な男を選び出して、その男とダンスをしながら、
セイブルとの約束に、心を躍らせていた。
ブランシュとのダンスを終え、
直ぐに、セイブルがアンブルを伴って、舞踏会の会場から、
姿を消してしまた後の事。
ノワールは、ブランシュとは違って、沈んだ気持ちで、
溜息を吐いていた。
接客の為、笑うのに疲れたのもある…の、だが……。
両親に愛され、綺麗なドレスを当たり前の様に着こなし、
自分が拒絶された相手、セイブルと楽し気にダンスをする姿。
幸せそうなブランシュに対して、羨んで、湧き上がる嫉妬心。
セイブルを見て思い出し、発生するトラウマとで、
ノワールの心が痛み、暗く深く沈んで行く。
『立場を弁えている心積もりだったんですけどね……。』と、
ノワールが呟くと、周囲にいた女性陣が呟きに気付き、
質問をしてくる。
ノワールは溜息を吐き『聞こえてしまいましたか……。』と苦笑いし、
『実は私、今年、まだ、15歳なんです。
本来なら、この場に存在しない筈の年齢なのですが、
素敵な女性ばかりに、ダンスを誘われてしまうもので、
不躾ながら、女性をエスコートして、踊りたくなってしまいました。』
そう言って誤魔化す。
上手にノワールの本心は隠せたのだが、
ある意味で、誤魔化し方が悪く、周囲の女性達が騒ぎ出した。
結果、国王の眉間に深く皺を刻んでしまう。
騒ぎが大きくなってしまい。
ノワールが後で折檻される事を覚悟していると、
ダンス途中だったブランシュが、ダンスの相手の手を離し、
音楽を一度、停止させて、ドラムを一度、大きく叩かせる。
轟いたドラムの音、音の驚き、女達は言葉を忘れ、
ブランシュの『何事ですの?』と言う一声で黙り込んだ。
ノワールが直ぐ様、
『申し訳ありません。私の失態です。』と頭を下げると、
騒ぎに参加していたであろう年長の女性が、人事の様に、
『ノワール様が悪いのではありませんわ!
ダンスに誘って貰えない娘達が、
「ノワール様と一緒に踊る」と言うジンクスに肖りたくて、
騒いでいただけですの』と、ノワールを擁護してくれる。
皆が皆、頷いて、
それぞれが「ノワールと踊る事」=「恋の御呪い」と言い出した。
ブランシュが、何かを思い付いた様に手をパンッと叩いた。
『ノワール!アナタは先ず、ワタクシと踊りなさい!
その後、皆さんの「恋の御呪い」が成就する様に、
御相手をしなさい!良いですね?』と、
ノワールをダンスフロアに引き摺り出し、演奏を再開させる。
その後、ノワールは自らの体力と精神力を魔法で強化し、
『御願できますか?』と寄ってくる女性を順番に受け入れ、
一緒に踊る女性の魅力を強化して、女性の魅力で連れた男達に、
女性を託して回った。
一般的に、10時頃で閉会する筈の舞踏会が、
12時の鐘が鳴り響いた後も尚、活気を落とさず、続いている。
ノワールの魔力と精神力に限界が近付いてきた。そんな頃。
ノワールの事を心配した使用人達から話を聞き付け、
アンブルが、ノワールを救出にダンスフロアに姿を現す。
交替しながら演奏していた者達も、汗だく疲労困憊な様子で、
アンブル王子に、視線で助けを求めていた。
国王と王妃は、御礼や感謝の言葉を受け続け、
遅い時間、何か変なテンションに入ってしまったらしく、
活気が収まらないダンスフロアの雰囲気にも流されて、
閉会の時間を告げられないでいる。
アンブルは指揮者に、
音楽をゆっくりフェードアウトさせる様に支持し、
ブランシュが使ったのと同じ方法で、周囲の注目を集め、
舞踏会の閉会を告げた。