006
国内外問わず。
大なり、小なりの金か権力。又は、両方を有する者達が集う。
16歳になった「ブランシュ・トゥインクー・グレンデル」の、
社交界デビューを祝した舞踏会が、とある日の午後に開催される。
その舞踏会に、自国の「金髪イケメン系王子」のアンブルと、
他国の「黒髪美人系の王子」のセイブル。
2カ国の「若い未婚の王子様達の参加」の噂が取り沙汰され、
未婚の女性陣と、その保護者達が浮足立っていた。
そんな雑多な会場の警備に、
ノワールは、休日を返上させられ、参加する事になる。
警備に配置される筈だった娘を持つ、爵位のある親達が、
急に休暇を申し出た為、人員不足に陥ったのだ。
ノワールは嘗て、帰る必要性を感じなくなってしまった。
帰らなくなって、何年も経過する王宮に、嫌々入城し、
直接、今日の仕事場に行く気がしなくて、寄り道をする。
そこは、神殿の王宮職員達が集う。王宮薬剤師達の働く薬科塔。
今日は、ダンスや、飲み過ぎ、食べ過ぎ、その他の理由で、
数多く出るであろう。「怪我人・酔っ払い・急病人」の対処の為、
普段、王宮の外で働いている神殿の薬剤師のメンバーも、
こちらに駆り出されているのを知っていて、遊びに来たのだ。
ノワールが、仮面をずらし、頭に斜めに乗せて、薬科塔に顔を出すと、
ノワールの身元引受人で、ノワールの衣食住を管理する御高齢の老人。
仙人の様な出で立ちの神殿最高位の神官「ファルマ」が、
一番に、ノワールに気付き、
マスクをしたまま『ノアちゃん!』と大喜びしてノワールを呼び、
『ちょうどえぇ~所に!ワシの仕事、手伝ってけや』と手招きし、
その場にいた皆の手で、あっ言う間に、空いていた長椅子の上には、
薬研と、調剤前の薬草やキノコ、小枝が、
使い勝手の良い様に準備されてしまった。
ノワールは、その迅速さに苦笑いし、部屋に入る前に、服の埃を払い。
薬に髪が入らない様に髪を整え、手を洗ってから、マスクをする。
それから、部屋に入る時に見習い薬剤師に手渡された白衣を着ながら、
準備されている材料を真剣に眺める。
『これはオケラとオモダカ、マツホドかな?に、チョレイマイタケ、
カシアの若枝ですよね?』と、ノワールが回答を求めると、
孫の成長を見守る祖父の様に、ファルマの目尻が下がる。
神殿に所属する薬剤師の皆が、その光景を微笑ましく見守る中、
ノワールが、『吐き気止めですか?』と、
少し大きな声で周囲に声を掛ける。
すると、その場にいる全員が、
ノワールの力量を知っている為に頷き、四方八方から、
『よろしく!』と返される。ノワールは、その返事を訊いてから
長椅子に跨り、薬の調合に取り掛かった。
暫くして、「吐き気止め」と、
手持無沙汰になり、次に手を出した「湿布薬」用の塗り薬が、
それなりの量で完成した頃。
国王直属の近衛兵達が、ノワールを捜して、薬科塔にやって来た。
ノワールの所属する城下の下町の警備隊の制服とは違う。
制服の質の高級感が半端ない近衛兵達は、偉そうに堂々と
管轄外の場所に入って来て、咳払いをする。
そこにいる衛兵以外の全員が、一斉に苛立ち紛れの溜息を吐いた。
そして、借り物の白衣を着こみ。仮面をヘアバンド代わりにして、
前髪を上げていた。ノワールを見つけるや否や、近衛兵の1人が、
『ノワール殿!捜しましたぞ!』と大声を上げた。
ノワールが振り返り、近衛兵を見て、
『あぁ~ぁ、怒られてしまいますよ!』と、
近衛兵に向かって、残念そうに言う。
ファルマが、空気の読めない近衛兵に冷静に対処しようとして、
『取敢えず!薬科塔に、そんな服装で入らないで頂きたい。
御客様の為の薬に、雑菌が入ったら、どうしてくれるねん?
ワシはマジで正直、アカン事した奴は、
陸上で水死体にしたろうかな?て、思うで?ホンマに!
堂々と入って来くさってからに、三途の川、渉らせたろかな?』等、
台詞の途中から素で、本音を駄々漏れさせている。
近衛兵の1人が一瞬、老人に向かって、
小馬鹿にした態度を取ろうとして、黙り込んだ。
他の近衛兵達も、勿論、血の気が引く思いをして黙り込む。
その老人は腐っても、神殿最高位の神官「ファルマ様」。
アンデット系を普通に一瞬で滅ぼす聖水の水球を周囲に浮かべ、
水の魔法攻撃の体制に入っていた。
近衛兵達が、そぉ~っと、埃を立てぬ様、部屋の外へ出て行き、
遠く離れて『ノワール殿~!ブランシュ姫が御呼びですよぉ~』と、
威厳を迷子にして、用件を伝えて来てくれる。
ノワールは、薬科塔にいる人間全員に対し、
行き成り、媚び諂い始めた近衛兵達を目の当たりにし、
「魔法使いが1人で攻めて来ても、陥落間違い無しですねぇ~……。
アンブル王子の側近の方に、将来の、もしもの時の事を考えて
弱点に関する注意喚起を促しておかなくては」と、心の中で思う。
それからノワールは、再び溜息を吐いて、
『ここを片付けたら行きます。何処に行けばいいですか?』と訊ね、
近衛兵達に『ここで待ってます』と言われてしまい。
「ウザ面倒臭いですね」と思いながら、器具を片付け、
自分で作った薬を少しだけ、小瓶に小分けして貰ってから、
仮面を被り直し、ブランシュの元へと向かった。
向かった先は、「ブランシュ用の衣装部屋」と言う名前の塔。
ノワールは、塔を守る兵士に促され、1人で入るように言われ、
入ってから後悔する。
その場には、ブランシュだけでは無く、アンブルとブランシュの母親、
日頃からノワールに対して、嫌がらせをしてくる王妃様が居たのだ。
王妃様は何かを思い付いた御様子で満面の笑みを浮かべている。
こうして、今日のノワールの仕事は、警備では無くなり、
王妃様の指示で、給仕係の仕事をする事になった。
どうやら、王妃様は、ノワールの使用人色をもっと色濃く、
自分以外の地位のある者達に、印象付けたかった御様子だ。
ノワールは、王妃の意図に気付きつつ、王妃の命令に、
不快感すら感じなかったので大人しく。舞踏会の席で、
自分好みの女の子を侍らせ、給仕をしながらハーレムを作る事にした。
ぶっちゃけてしまうと、ノワールは、
男と戯れるより、女の子達に「ちやほやされる」その状況の方が、
非常に好ましく、「癒されますねぇ~」等と、思っていた。
一方、ノワールが参加しているとは、知らなかった。
その事を聞かされていなかった。この国の王子のアンブルと、
舞踏会に招待客として参加した他国の王子セイブルは、
会場で驚き、立ち尽くす。
特にセイブルにとって、ノワールは初恋の相手。
男より女の子を愛でる方が好きな、
そんなタイプに育ったノワールを目の当りにして、
「自分の所為で、
こんな風になってしまったのではないだろうか?」と、
勝手に思い込んでしまう。
実際の所は、セイブルが感じ、思った事は、的外れ。
ノワールは、父親や、兄姉達に出会う前の「幼き頃」から、
「御姫様」と言うカテゴリが好きな女の子で、
「なりたい」と願うのではなく、「愛護欲」を所持する人。
例えるなら……。
動物好きな人が、「動物になりたい」とは思っていなくて、
でも、「大好き!」と、言う事なのだが、御理解頂けるだろうか?
因みに、そこに「性欲が存在しない」事も知っていて欲しい。
ノワールは、「御姫様」と言うカテゴリーが好きだけど、
「同性愛者」と言う訳ではありません。
但し、そんな事を知らないセイブルは、彼女に対し、
『僕が好きになった女の子は、君みたいな子じゃない!』と、
拒絶した過去に連なる、今のノワールの心情と誤解をし、
自分勝手に、後悔する事となっていた。