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005

ノワールとセイブルの2人は、

「相互不理解」と言う言葉通りの関係で、理解し合えない。

分り合う事が出来ない間柄に辿り着いていた。


そこへ来て、時が流れは止まる事無く流れ続け、

時の流れで生じる更に新しい状態、新しい関係の中で、

昔の設定は同じでいられない。


それ以前に、離れていた時間が組み上げてしまった。

本当の相手を超越した。相手への自分勝手なイメージ。

相手に対して、一方的に思い浮かべてしまった理想。


自己中心的に自分達の中で、設定してしまった関係。

それは、甘い空想。自分勝手な、酷い妄想。

既に、「本当の事が何処にあるのか?」

それが、「本当に組み込まれているのか?」も、分からない。

非現実的過ぎる幻想。


そんな、「幻想と現実のズレ」で生じた不一致に困惑し、

同じ日・同じ時間・同じ場所で共有した似て非なる記憶の果て……。


ノワールは、精神的に成長する道を探して、曲りなりにも発見し、

4年前のセイブルとの再会で、

「諦める事」・「期待し過ぎない事」と言う方法を追加で得て、

自らが、強くいられる道を進んでいる。


一方、4年前の現実に幻滅したセイブルは、

4年前にノワールを拒絶してから、

ノワールとの距離を大きく取る事を選んで、日々後悔し、

ノワールの事を思い出す度に、眠れない夜を過ごしている。


会う事が叶わなかった5年間より、

会いに行こうと思えば会える4年間を無駄に過ごし、

会う事が叶わなかった時より、辛い気持ちに苛まれ続けている。


ヤハウェルの国内では、黒髪の次に多い焦げ茶色の髪。

金髪の多いグレンデルの国民の中では、一際目立つ、焦げ茶色の髪。

髪色は違うが、同級生で親友のアンブルと同じ、

茶色い琥珀色の瞳を持った親友の妹、ノワールの顔。

会わなくても、面影を追えるモノを見掛ける度に、何故か、

不意に思い浮かべてしまう。


「きっと、最後に見た。ノワールの顔が、

泣き出しそうな、凄く悲しげな表情だったからなんだろうな」

セイブルはそう思いながら、相手の事を無駄に悩み、

時折、「もう少し、違う言い方ができなかったのだろうか?」と、

気持ちを迷走させ続けてしまっていた。


後悔を含んだセイブルの気持ちを時間は、解決してくれなかった。

セイブルは、ノワールとの関係に生じた大きな溝を更に、

大きく作り上げてから、ふと、気付く。


現在のグレンデルの王は、自分の子供は、

『嫡男アンブル・グロウと、長女ブランシュ・トゥインクーの、

2人のみである』と、言っている。


グレンデルの先王様が、国王であった時代。

アンブルとブランシュの2人と一緒に紹介された。

「時期王の次女、ノワール」は、

本当は、何者で、どう言う素性の娘だったのだろうか?


でも、それは、知る人ぞ知る。小さな御家騒動の結果。

セイブルの住む隣国のヤハウェルでは、誰も詳しく説明できず。

そもそも、ノワールの存在を知る者がいない。


22歳になったセイブルは、

知っていて、教えてくれそうな相手を思い出す。


士官学校の同級生だった親友の「アンブル・グロウ・グレンデル」。

『彼なら、何か知っているかもしれない』

セイブルは、「直接会って、訊ねたい事がある」と、書状を送り、

返事を待って、隣国まで、直接、会いに行った。


そこで初めて、セイブルは、ノワールの素性を知る事が出来た。


「ノワールの生まれ」に付いては、

当時、7歳だったアンブルが知る事、話せる事は、少ながったが、

アンブルは、先王様と、先王に近しい神官達から、

ノワールの詳しい事情を最初から、聴かされ、知っていた。

更に、10年前の事は、アンブルにとって衝撃的な事だったので、

はっきり覚えている。


アンブルは、セイブルを試す様に、包み隠さず。

本当の事をセイブルに話して聞かせる事にする。


セイブルが、ノワールとキスして別れた後。

ノワールは「公衆の面前で、キスした罪」で、

「父親によって、次の国王としての権限で、投獄されたんだ。」と、

アンブルは、暗い表情でセイブルに告げる。


『そんな事になるとも、なっていたとも知らなかった。』と、

セイブルは驚き、『ノワールに、謝罪しなくては』と、立ち上がる。

アンブルは、セイブルの腕を掴み、『話は終わっていない』と、

その場に留まらせた。


アンブル曰く……。

当時の国王様、今の先王様には、

ノワールへの折檻が、内緒の仕打ちだったと言う事だ。

その為、先王様が気付いた時点で、「ノワールは救出された」との事。


救出されたノワールは、半日、父親に鞭で打たれて続けて、

背中全体に大怪我を負って、1週間程、死の淵を彷徨った。と、

アンブルはセイブルに伝える。


セイブルの顔色が一気に、青褪めて行く。

アンブルは、安心させる様に、セイブルの肩を優しく叩き、

『回復は意外にも早くて、1年程で完治して、それ以降は、

後遺症も無く、元気にしていた。』と、作り笑顔を浮かべた。


そして、ショックを受け過ぎて、放心気味のセイブルに、

アンブルが、ゆっくりと語り掛ける。


『ノワールは、警戒心の強い娘で、人前で薄着をする事も、

背中が見える服を着る事も無い。だから、俺も見た事は無いのだけど、

背中に、その当時の傷跡くらい、残っているかもしれない。

自分の気持ちを軽くする為だけに、ノワールに謝罪するのなら、

黙って国へ帰って欲しい。

お前の気持ちは、折を見て、俺がノワールに伝えておく。

それに、実質、ノワールが鞭で打たれたのは、お前の所為じゃない。

親父が末っ子を痛めつけるチャンスを待っていて、

たまたま、お前が、そのチャンスを与えてしまっただけだ。

ノワールは、その事を爺さんに諭されて、理解している。

今更、お前に謝れても、古傷を穿り返すだけに為るだろう。』


重たい話をしたアンブルは、大きく息を吸い、溜息を吐いた。


4年程前から、ノワールは、

更に、柔和な部分が欠落して、人工的な微笑しか浮かべない。

営業スマイルでしかないそれが、周囲の人間に受けて、

褒め称えられてはいるが、

アンブルには、それが、ノワールにとって、精神的に、

「大きな負担になっているのではないか?」と、心配になっている。


そう、だから、きっと、セイブルが今、謝罪すれば、

ノワールは、どんなに憤りを感じていても、何を思っていても、

表面上は、笑顔で受け入れ、

謝罪に対し、セイブルに対して、お礼を言うであろう……。


但し、その後、その場を作るきっかけを作った。アンブルに対しても、

ノワールが、心を閉ざしてしまうのは、間違いない。

今までの「ノワールの他者への対応」が、それを物語っている。


アンブルには、

「ノワールからの信頼を勝ち取れているのは、もう、今では、

俺くらいしかいない。」と言う。自信と確証がある。


セイブルと同い年ながらに、

セイブルの事を弟の様に思っているアンブルは、

「純粋で、子供染みたセイブルの事も一緒に、

救ってやれる。そんな、方法があれば良いんだけどなぁ~」と、

自分の金髪を掻き上げてから、

思い出した様に、セイブルの黒髪をグシャグシャに掻き雑ぜ、

セイブルの気を紛らわせる為に、

丁度、数日後に行われる王宮でのイベントの話を持ち出した。

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