002
剣と魔法が主役の世界でも、魔王が出たり、魔物が頻繁に出没したり、
盗賊・山賊・海賊とかが、賊人生を謳歌していたり、
国家同士が戦争していなければ、冒険者や傭兵の仕事は無く。
英雄伝説の様な、戦えれば仕事があって、金が手に入る。
例えば、ドラゴンを倒せば報奨金が出る的な、
そんな、気軽な一獲千金!儲け話は、ガチで夢で幻になった時代。
普通に地道に働かねば、食べていけない御時世に生まれた。
衣食住完備の仕事をしていて、
でも、給金プライスレスな主人公15歳。
国から支給された。黒服に黒い仮面、
首元と髪の長さを隠す黒いショール、黒い革靴に黒い革手袋と、
ロゴ入りで売る事も出来ない実用的な武器を帯剣した。
露出度の極めて低い、黒尽くめの格好をした娘。
先王様公認、現在の王様で、実の父親にとって、非公認な姫君。
「ノワール・M・グレンデル」は、何時も占拠している部屋の、
作り付けのカウンター席に一人、居座っている。
ノワールはそこで、本を読むのに邪魔にしかならない仮面を外し、
ヒポクラテス医学の薬学書や、マテリア・メディカを紐解きながら、
将来の自分の為に、内緒で、自主的に勉強をしていた。
王立図書館にある。その部屋は静か過ぎて、
本を捲る度に、微かに発せっられる紙の音ですら、響いてしまう。
落ち着いた雰囲気漂う、静寂の中。ノワールが一人、真剣に、
2冊の重たい本を見比べ、調べ物をしていると、
不意に何故か、名前を呼ばれた様な気がする。
ノワールは最初、それを無視をしようとは思ったのだが、
気になって、本から顔を上げ、窓の外を見ると、
必然的に、こちらに向かって走ってくる兵士を発見してしまった。
ノワールは、この時、嫌な予感しかしなくて、
「もしかして、上司からの呼び出しですか?
家出する為に必要な知識を得て、家出の為の資金を稼ぎたいから、
大した用事が無いのなら、呼び出さないで欲しいのだけど」と、
心底、「その兵士が、自分と無関係である事」を本気で願う。
そんな、天気の良い、今日、この頃……。
ノワールが勝手に塒にしている。神殿横の王立図書館へと、
呼んでもいない。来て貰っても嬉しくない。
不作法な来客が、嫌がらせの如くに、ノワールを捜してやって来た。
綺麗な音がする筈のドアベルが、乱暴に扉を開かれ、
酷く甲高い音を出す。
『ノワール殿は、こちらに御出でか?』
怒鳴る様な兵士の大声は、静かな図書館内全体に反響する。
ノワールが本を読んでいる。2階の個室仕様の閲覧室にまでも、
それは響き、
静寂を破壊する勢いで、今も怒鳴り声が届けられ続けている。
今頃、1階に居る筈の神殿所属の司書は、神官である上司から、
ノワールが来ている事を口止めされているが故に、
大声と脅しに困惑し、半泣きで、兵士に対応している事であろう。
ノワールは溜息を吐きながら本を閉じ、
カウンター席の隣の返却棚に、2冊の本を置いてから、仮面を被って、
目の前の窓から外に出て、下へと飛び降りる。
その一瞬の間に、唯一、自らが使う事が出来る魔法で、
足元に存在する空気の抵抗を強化して、
ノワールは危なげ無く、蝶が花に降り立つ様にふわりと着地し、
身支度を軽く整えてから、図書館の扉を外から開けた。
普通にゆっくり扉を開けたので、
ドアベルが、落ち着いた澄んだ音色を奏でてくれる。
扉を開けた先、図書館の中、1階のフロアでは、
抜き身の剣で司書を脅す兵士と、
恐怖に彩られた司書の顔が、ノワールを御出迎えしてくれた。
ノワールは、本気で残念に思いながら、
口元に拳を持って行き、一つ咳払いをして、
『剣を使って脅さなくても、司書の方は、とても親切に、
貴方の欲しい本の場所を教えてくれる。と、思いますよ?』と伝え。
何か言いたげな兵士を魔法で強化した気迫で黙らせる。
そして、司書を解放させ、兵士に剣を鞘に収めさせてから、
ノワールは、『で?何を捜していたのですか?』と、
先程、名を呼んでいたのが聞こえていて、
誰を捜しているか知っている上で、兵士に質問し、
捜していた理由、司書を脅さねばならなかった事情を聞き出した。
『そうですか……。それにしても、残念です。
それでは、刃物を持ち出す理由に、なっていませんよね?
ではまず、取敢えず。
貴方は、此方の司書の方に、非礼を詫びて下さい。
後日、菓子折りでも持って、
貴方の上司に、御詫びに来て貰う手配も忘れない様にして下さいね。
此処は、私が何時も御世話になっている。王立の図書館です。
貴方が掛けた迷惑は、私にとっても、誰にとっても傍迷惑な事です。
わかりますよね?』と、魔法で強化した脅しを掛け、
ノワールは、兵士に八つ当たり交じりの意地悪をしてから、
兵士の指示に従ってやった。
ノワールに呼び出しを掛けて来ていたのは、
ノワールの母親違いの姉で、実の父親が愛してやまない美しい姫君。
ノワールより1つ年上の「ブランシュ・トゥインクー・グレンデル」。
ノワールが苦手とする人物であった。
ノワールが、この相手に逆らえば、
国王がしゃしゃり出て来て、物凄く面倒臭い事になるし、
相手が相手だけに、目の前の偉そうな兵士を脅して、
身代りを立てて貰い、その人に、代わりに行って貰う事も出来ない。
ノワールは、諦めて、
ブランシュに呼び出された場所へと向かう事にした。
ノワールが向かった先、呼び出された場所である。城の正門の前では、
ブランシュが衛兵や、馬に乗った騎兵を従え、
パラソル付きの白いカフェテーブルで、優雅に御茶を飲みながら、
ノワールの事を待っていた。
ブランシュは、ノワールを発見し、ノワールの仮面を見るなり、
立ち上がって、ゆるふわな亜麻色の髪を靡かせて、ノワールに歩み寄り、
『ワタクシに会うのに、仮面を取ってないだなんて!』と激怒し、
明るい茶色の瞳を煌めかせ、ノワールの仮面を強引に剥ぎ取った。
更に「とうぜんでしょ?」と言わんばかりに、
『アナタには、お友達もいなくて、休日なんて暇なだけよね?』と、
ノワールの1週間振りの休日を取り上げ、
『喜びなさい!
ワタクシが、楽しい休日をプレゼントしてあげますわ!』と言って、
公爵家専用の保養地の花畑に行く事をノワールに強要するのだった。
だが、何にしても、保養地までの道程は凄く遠い。
乗馬が得意な人が、普通に馬を走らせて行っても、
時間が掛かり、往復で1日が終了してしまうモノである。
使用人にお弁当を作らせて、此処で待っていた。ブランシュの要望は、
ノワールが魔法を使い、馬を強化して速く走らせてやっと、
「叶えられるか、どうか?」の無理難題であった。




