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014

アシエが自分の妻子を安全圏に逃がしていた頃、

セイブルが堪り兼ねて、ノワールとアンブルの腕を掴み、

性質の悪い魔法を放つ。


すると、周囲に黒い靄が出現し、音も無く、

生き物の様に暴徒達に絡み付いて、暴徒達を一人づつ包み。

包まれた者達が次々と、糸が切れた操り人形の様に、

床の上に、崩れ落ちるかの如く倒れてゆく。


少し離れた場所にいた者達は、それを目の当たりにして、

恐怖心から声も出せず。腰を抜かし、へたり込む者達が続出する。


それは、グレンデルの国民が見知っている。

グレンデルの神官フォルマの水を出現させる様な魔法とは、

明らかに毛色の違う魔法であった。


その魔法は、暴徒から、

アンブルとセイブルを守っていたエルステを巻き込みつつも、

すぐさま暴徒達を制圧した。


セイブル的には、

「エルステ先輩なら、自分の魔法に巻き込んでも大丈夫ですよね」と、

それなりに確信あっての選択だったのだが、

何も知らなかったノワールは、驚き呆然とし、暴徒が倒れ伏した後、

魔法に巻き込まれ、倒れたエルステを見て、

『兄さん』と叫び、自分の背中の古傷を隠す心の余裕もなく、

青褪めた顔で、エルステに駆け寄って行く。


複雑そうな表情でアンブルが、その光景を見守る。

エルステとノワールの関係を知らなかったセイブルは戸惑い。

アンブルに声を掛け、ノワールが、半分、血の繋がった兄より、

一緒に育った血の繋がりの無い兄を本物の兄よりも、もっと、

兄として扱っている事をアンブルの言葉から知る事となった。


「エルステは大丈夫だから」と伝えようと、

セイブルがノワールに近付くと

『ホンマ、アンタ、ムカつくわ!こっちこんといて!』と、

ノワールは無造作に、エルステの携帯していた剣を鞘から引き抜き、

抜き身の刃をセイブルへと向ける。


そこでやっと、誰かが悲鳴を上げた。その悲鳴を聞きつけて、

遅ればせながら、外から、夜会の会場に警備兵が入って来た。


夜会の会場の床には、折り重なる様に人が倒れており、

その中心では、賓客に対して、抜き身の刃を向けるノワールの姿。

外から来た者にとって、見るからにノワールは悪者でしかなかった。


賓客であるセイブルの隣に、自国の王子アンブルが居るのも、

そう見える要因の一つだったかもしれない。

そんな時に、ブランシュがノワールを指し、

『その娘を捕らえなさい!』と、大声を上げて命令する。


ブランシュは、「自分が恋した相手が、ノワールに殺されてしまう」

そう思って、悪気無く命令したのだが、

その命令は、床に人が倒れた夜会の会場に、災厄な事態を齎した。


夜会の会場の外に配備されていた。まだ、実績の無い部隊長は、

背中に赤黒い炎の様な模様を持つ、セクシーなドレス姿の女が、

グレンデル国内で、その名を知らない者はいない、

まだ15歳でありながらも、

「最強クラスの魔導剣士」と目されるノワールである事に、

気付きもしない。


更に状況から、人が床に倒れているのはその女の所為と決め付け、

捉える相手が魔法を使う相手である事だけは推察し、

自国の王子であるアンブルの制止の声に耳を貸さず、

ノワールを捕らえる為、ノワールに向けて次々と矢を放たせる。


ノワールは、足元に落ちていた扇子を拾い。その扇子で、

魔法で強化した空気に気流を作り、

自分と、エルステとアンブルだけを守る様に、

空中の子虫を払う様な仕草で、放たれた矢の軌道を変更して、

故意にではないが、床に倒れた人間の上に、矢の雨を降り注がせた。


セイブルは焦り、その場から退避し。

国王と王妃は、舌打ちをして、

眉間に皺を寄せながら、無言で、その光景を見守っている。


ノワールの安全を案じていた筈のアンブルが、安堵する事無く、

最悪の事態に絶句し、エルステを保護しながら、

『ノール!止めてくれ』と、ノワールに向かって叫ぶ。


セイブルの魔法で動けなくなった者達が、

警備兵が放った矢を受け、呻き声を上げた為、

セイブルも『駄目だ!弓は、止めて下さい!』と叫んだが、

その願いは聞き入れて貰えず、矢は空中に放たれ続け、人に刺さり、

身動きが取れない人達の中からまた、

大きく悲鳴が上がり、セイブルは、兵士達に向けて魔法を使った。


射られる矢の雨の為、魔法の有効範囲まで相手に近付けず、

セイブルが止められるのは前列の数人だけ、

倒れた者は救護班が回収して、新しい者が出てくるので、

あまり効果は無かった。


制止の声。神に祈る声。助けを求める声。

外から入って来る警備兵達からの悲鳴や怒号も、そこに追加される。

後、自分の命令で酷い事になって焦り、

混乱して、攻撃を止めさせない事を選んだ実績の無い部隊長の声も、

華やかだった筈の会場に響き渡る。


そんな怒声をも飛び交う中、

一番最初に命令を下したブランシュは、口元を両手で押さえ、

恐怖し、涙目になって、立ち尽くす事しかできないでいた。


取り返しのつかない悲惨な状況になってから、

意識を一時的に失っていただけのエルステが、目を覚ます。


その時、丁度、アシエも戻って来きて、事態を大間かに把握し、

裏側から、攻撃を仕掛けてくる兵士達を止める為に、数人送り出し、

『『矢を射るな!剣を収めろ!!殺されるぞ!』』と、

エルステとアシエがその場から同時に叫ぶ事になった。


ノワールは、と言うと……。戻って来たアシエの足音を聞き付け、

攻撃を仕掛けてくる者達の方に突撃している所だった。


暴走した部隊長の下で、部隊長に逆らわず戦った者は、

『アンタ等、ウザイわ』と、笑顔のノワールに切り捨てられ、

数を減らして行った。


この事態の終結は、国王の命令で、

最後まで暴れていた元部隊長だった男の首をアシエが取るまで続いた。


その後の後処理については・・・

ブランシュは、「無関係」と、判断される。


途中、妻子を安全圏に逃がす為、

その場に居なかったアシエの意見は、『居なかったのだから』と、

無効になり。


同じく途中、意識を失っていたエルステの意見も、無効となった。


自国の王子であるアンブルと、他国の王子であるセイブルの方は、

『今回の夜会には、海外の方が多く参加していました。

今、貴方達が、王子として、今回の責任を取れば、

今回の事で、死んだ者の祖国の数だけ、

国を揺るがす問題を抱える事になってしまいますよ?

責任を取った後に発生する「国家の立場の揺らぎ」を修正する術が、

貴方達にありますか?無いでしょう?

貴方達は、将来、国民を守護する「国王」となる立場にあります。

交代要員は存在しないのですよ?多少の犠牲は止むを得ず、

受け入れるべきです』等、王妃の口車と言う口添えに乗る事となる。


結果、責任を取るのは、ノワール1人の仕事となった。


ノワールは、エルステを目に見えない人質に取られ、

溜息を吐きながら慣れた様子で、自ら地下牢に投獄される。

ブランシュは、ノワールの投獄期間中、悪夢を見続ける。

自分が命じなければ、誰も死ななかったかもしれないのだ。

罪悪感の為に、自室に引き籠る。


そして投獄されたノワールの元には、沢山の面会希望者が集まったが、

誰一人として、それが叶う者はおらず。

引き籠るブランシュの元には、母親以外、誰も面会に来なかった。


孤独に打ち拉がれるブランシュに

『気にする事はありません!

劣り腹が産んだ娘が、貴方の代わりに責任を取ってくれています。

そもそも、元を正せば、あの娘が悪いのだから、これは必然です』と、

母親である王妃が繰り返し、ヒステリックに熱弁し語りかける。


ブランシュはその言葉に洗脳されて救われ、少しづつ笑顔を取り戻し、

普段の公務に戻った頃には、

「妹が責任を取るのが、当たり前だ」と思うようになっていた。

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