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プロローグ(2✖✖✖年編)

時は中世、国は日本。

いわゆる戦国乱世と呼ばれる時代。


鳥のさえずりや木々の枝葉が風に擦れる音以外が聞こえない静寂が支配する。

見渡す限り緑の山々で、目に留まるような高層建築物は見える範囲のどこにも存在しない。

手付かずの自然が世界のほぼ全てであり、人の手が入ることを拒むような大自然の山。


人の往来が多少ある程度の場所には獣道のように草木が生えない細い道ができている。

そんな細い道を行く一行がいた。

甲冑を身にまとい、凛々しくもやや疲れた表情を見せる一人の男を中心とした一行。

馬に乗るものは決して少なくはなく、周りを守るように固めている。

その前後をさらに槍を手に持った男達が挟むようにして隊列を組んでいる。


中世の戦国時代によくある光景の一つだ。

名のある武将を守る家臣と兵士。

その一行が目的地に向かって山道を進んでいる。

鳥のさえずりや木々の枝葉の擦れる音は相変わらず聞こえる。

大勢でありながらも息をひそめるように、その一行は山道を目的地に向かって進んでいた。


山道を目的地に向かって進む一向にパッと見た目の統一性はない。

馬に乗る家臣団はその周囲を徒歩で固める兵士達と比べて上等な甲冑を身に着けており、さらにその中央で守られている一行の中心人物は乗っている馬や甲冑の装飾も一層艶やか。

しかし細部にまで目を凝らせばそれは違ってくる。


鎧兜に優劣はあり、乗馬か徒歩かの違いもある。

しかし着用されている鎧兜に加えて刀や馬の鐙など、細かいところには統一された模様が入っていた。

外郭が五つある木瓜の紋様、いわゆる五瓜木瓜紋と呼ばれるもの。

源平の合戦の時代、士族たちが自らの独立性や独自性を表現するために家名と合わせてもう一つ用いたものであり、これは先々にまで続く家紋の起こりである。

そして今、山を抜けていく一行が身に着けているものにある五瓜木瓜紋はある士族の家紋として用いられており、その家紋を用いたもっとも有名な士族の名を持ち、後に『織田木瓜紋』などと呼ばれるようになる。


織田木瓜紋が甲冑に入っている、それはつまりここにいる一行は戦国時代の織田家に仕える家臣達の中でも特に主君が信頼を置いている一団であるという証である。

その集団に守られている中心人物こそ、戦国時代以降最も有名な歴史上の人物として名を馳せる織田信長である。

しかしそれはまだこれからはるか先の話。

そしてそれは織田信長と言う一人の人間が偉業を成し遂げた歴史の先でしか起こり得ないこと。

そしてその未来がやってくるかどうかは、まだ誰にもわかりはしない。


ズダーンッ!


静かな山中に一発の銃声が響き渡る。

先ほどまで聞こえていた鳥のさえずりは一瞬で逃げるための羽ばたきに代わり、木々の枝葉が擦れ合う音は銃声のせいでどこか遠くの景色のように音が届かなくなった。


「殿っ!」


銃声が響き渡って間もなく、一向に守られていた中心人物である織田信長が馬の上で体勢を崩す。

着用している甲冑の胸部からは血が流れており、鉄砲による狙撃を受けたことは明らかだ。


「狙われています!

 馬廻り集は急ぎ殿が治療できる安全な場所へ!

 他のものは潜んでいる敵兵を探し出してください!」


甲冑を身にまとった男達の中に一人、甲冑こそ身にまとってはいるが周囲よりは軽装で小柄な人物が即座に配下に指示を出す。

その人物の声は低かったり野太かったりする男の声ではなく、どこか甲高い女性の声であった。

その声に応じるように配下の者達は素早く動き出す。

馬に乗る馬廻り集と呼ばれる主君を警護する武士の一団は、主君である織田信長が馬から落ちないように隣で支えつつ、彼が乗る馬の手綱を引いて先を急ぐ。

小柄な女性の声を発した物もそれに続く。

馬に乗らない者達は即座にその場で散開し、織田信長を狙撃した人物を探し出そうと捜索に乗り出す。


(敵の伏兵が置かれる前に最短距離の千草峠を通り抜ける策は失策だったのでしょうか

 ここで『また』殿の命が失われてしまえば・・・

 次はいつの時代からどのように始めればいいのでしょうか?)


狙撃されて血を流し、馬廻り集に引き連れられて先を急ぐ織田信長の後方。

男装した甲冑姿の一人の女性。

彼女の頭の中は織田信長の安全よりも先に、どこで自分が失策をしたのかという検証作業にあった。


(例え何があっても・・・私は絶対にやり遂げて見せます

 この歴史の彼を見捨てることになってでも・・・)


負傷した主君の後を追う女性。

彼女はこの後、主君の死を受けて織田家中の支配体制の崩壊とともに、人知れずこの歴史から姿を消すのだった。

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