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からあげどん

 世の中知らないことはいっぱいあるけれど、本当に知らないことは知りたくないこと。

 知り合いの女学生と話していて出てきた結論でございます。私も昔は若かった。


 いえいえ。人間というのは何時もどこでも若いつもりでいるものでございます。


 ただ歳甲斐を考えない愚かさもある。だから人間は面白い。


 年頃の彼女が言うには今までヒステリーなど起こしたことがないって言うのだから立派なものです。


 いつもどこでも冷静に。


 そして心配事や辛いことはを表に出さず、漏らしたとしても二番三番目の心配事。


 人の気持ちを大事にする。立派ですな。素敵ですな。


 でもね。あなた。


 ヒステリーを一切起こさないって言うのも周りから見てハラハラする。


 察して助けてあげれればいいですが、人間には背中に目があったりしないのです。

 たまにはどーんとね。彼氏にでもぶつけて泣いてバカやって、後で仲直りでもすりゃいい。


 パンパン。

 パンパン。

 パンパンパンパン。


 おい。そこのあんた。

 さっきから拍手して呼んでいるじゃないか。

 座布団はないのかい。脚が寒くてたまんないよ。


 そりゃその時は恥ずかしいですが、ほら、その。あれです。


 そんなのは大事な人に頼りにならないって言われているようなものじゃないですか。


 弱みを見せたっていいんじゃないですか。だって人間ですから。


 支えてあげたいじゃないですか。だって愛し合っているのでしょう。


 いやまた恥ずかしい。若いっていいですな。


 からあげどん ~ 猫って空を飛べるらしい ~



 さて。美琴さんだって本来は普通の女子高生だったわけです。


 それが何の因果か凄腕の恒星観測員。

 今は飛ぶ鳥も落とす勢いで宇宙を駆け巡っているわけですが、彼女だって乙女ですからな。


 悩みもすればヒステリーだって起こすわけです。

 ましてワケのわからんことに遭遇したらムキになってキレる。

 それでいいじゃないですか。それが許されるのが若さなんです。


 俺の若い頃はって気取っているオジサンオバサンは総じて自分の若い頃に我慢してくれたおじさんおばさんを忘れているものですからな。


 その日はほら。腫れでした。ビンタで。

 もとい晴れておりまして空にふわふわと、ほら。


 でっかいでっかい円盤が浮いていたってわけです。


 それがあなた、ひとつふたつの騒ぎじゃない。


 みつよっつむっつ……よん? なくらいある。


「ありゃなんだ」

「鳥だ」

「超人だ!」

「UFOだ!」


 あっちこっちの国の上に浮かんでは洗濯物を乾かすのを邪魔する不届きなUFOにみなさんカンカンでございます。


 日が陰っているのにカンカンとはこれいかに。

 それどころじゃないよ。湿った作業服であんた、鉄粉浴びたら痒いよ。ホント。


 そんなでっかいでっかい円盤からふわふわと広がる鉄粉もどきはなんでしょう。


 数が尋常じゃありません。

 広がってるんじゃないよ。あんた。

 あれは集まっているんだよ。


「みゅ~」

「こら。ふぁるこ。てめえぶっとばすぞ」


「ニャー」「ミャー」「ふぎゃー」「アイヤー」

「よん? ぴーと?」


 黒い鉄粉と思ったら世界中の猫がぐんぐん円盤に吸い込まれて行くわけです。

 これは世界の一大事。

 だって猫ですよ。猫がこの地球からいなくなるんです。

 猫が日を嗅げ(陰)ってこれはまたお先真っ暗。



 こんな異常事態に靴紐結んでアイス食って、Amazonで来月の新刊をポチして歩く女子高生たち。いやはやなんとも強い。この中のおひとりが美琴さんでございます。


「なんか、ポチが飛んでる」


 ぼけーっと空を眺めてアイスのしずくを舐める彼女。

 その様子を横で笑う級友たち。猫が飛ぶわけないじゃい。跳ぶのよ。


「うん。でもいまパタパタってうちのポチが飛んで行った」


 可愛いキジトラ猫が空中で脚をはためかせて飛ぶ姿はそれなりに絵になります。

 惜しむらくは彼女に画才がないこと。あるのはシャッターチャンスだけ。


 その様子を『視野』でさっと撮影して再生。共有許可認定。


「ほら。とんでる」

「チョーウケる」


 白い雲と青い空。近場の製菓工場から漂うチョコレートの匂いの元で彼女たちは空を仰ぎ見ます。


「なんかいる」

「だね」


 頭の上にふーわふわ。

 でっかいでっかい円盤を見上げて彼女たちは唖然呆然。

 その円盤に吸い込まれていく猫ねこねこねこ。


「もきゅ。ぴーと」

「ぼくはねこじゃねー。ぶっとばすぞ。ふぁるこ」


 なんか変な子供たちも飛んで行きますがそれどころじゃないですよ。


「ポチ―。夕ご飯まで帰って来るんだよ」

「違うから。絶対アレおかしい?!」


 手を振る美琴さん。級友に呆れられスタートダッシュで走りますがさすがに空に舞うことはない。

 美琴さんが歯噛みする前にポチが空で爪をとぐ。シャー。


『人類よ。人類よ』


 突如脳裏に浮かぶ言葉の羅列に頭を抑える地球人類。

 これが人間が遭遇する異星の知的生命というわけですな。


『貴様らが猫と呼ぶ古代宇宙神の末裔の破片は我が宇宙海賊・キャプテンカーコックが連れて行く』


 この声を聴いて激怒したのはほかならぬ某国首脳陣。

 なんせかの国は世界一飼い猫が多い。次に多いのが日本でございます。

 その数、犬には劣るものの6,000万頭でございます。


 一方、日本列島も負けておりません。この狭い島の間に974万頭。

 にゃんという猫好きでしょう。日本は猫好き大国ですがアメリカには負けます。


「猫を奪回する」


 次々と飛び立つ戦闘機。まさに独立記念日。


 しかしアレです。

 空に浮かぶ円盤には核兵器を叩き込んでもなんかふわふわと消されてしまうのです。

 暖簾に腕押し、糠に釘。書くに落選というものでございますな。


「効かない?!」

「もっとだ!」


 地球上のミサイルがみーんな消えてなくなるころには、猫はぜーんぶ円盤の中。


「みゅ。ぴーと。たいへんだねえ」

「おまえ、緊張感ない」


 なんか変な子供たちも円盤の中に紛れ込んで、猫と遊んでいる間も外では戦闘機がバンバン攻撃して、もう面倒だと郵便セスナまでもが空から煉瓦をなげたりしてもいるんだが効きはしない。


「うはははっは!!! その程度か野蛮な人種どもめ!」


「おのれ! 猫は返してもらう」

「ついでにお前らの超技術ももらって我が国が」


そんな阿呆な人間の思惑、あんた。猫たちは知らないわけで、毛づくろいしたり寝たりしているわけです。円盤の中で。



「あのね。あのね。にぼしもってきたのの」

「しかたないな食べてやるか」


 子供たちが持っていたおやつの煮干し。

 こいつを子供たちが食べだすと、あんた。


 世界中の猫の視線が交差しあうわけです。煮干し食いたいと。



 さて。(パパン!)


 煮干しの材料は青魚。


 不飽和脂肪酸を多く含み製造から流通、保存に至る管理が大事で脂肪の酸化による低品質化が避けられない。


 大きな魚は煮干しになりにくいし鮮度が低いとまた臭い。


 背中側が盛り上がって『く』の字に曲がっているものが鮮度の良いものを加工したもので、腹側が盛り上がって腹が割れているのはダメ。


 しかしです。しかしです。


 よほど酸化が進まない限り変色しないため、色で酸化度合いを見極めるのは専門家でも困難なのでございます。


 そして煮干しって言うのは塩分が濃い。

 猫に塩分と糖分は当分禁止でございます。


 それを食いたいって言うのだから具合が悪い。


 そもそも猫は凝縮した尿を出すので結石を作りやすいのです。

 マグネシウムやリンが含まれる食べ物は具合が悪いのです。


 カツオブシ、煮干しには猫に有害レベルでミネラルが多すぎます。

 マグネシウム、カルシウム、アンモニアに尿酸、シュウ酸が尿に多くなると猫のガラスの腎臓に悪い。


 しかしながら二人の子供たち。

 

 方や兄を気遣いながら、方や文句を言いながらも弟の無事を喜びつつ仲良く食ってるわけです。麗しい兄弟愛ですな。


 そしてとてもうまそうに食べるんですからたまりません。

 たまりかねた猫が猫パンチを次々繰り出しますが、兄のほうも負けていません。


「にゃー!」

「ぴーと。あげたら?」


「健康にわるいんだぞー。猫にはダメなんだぞ~」


 しかし、旨そうなものを目の前で食われて腹が立つのは人間だって猫だってお互い様。ヒステリーも起こせば逆ギレもするわけです。


 ましてそれが旨そうな食い物ならば恨み骨髄。


 人の気持ちを考え過ぎて、たいせつなことも相談できないならなんのための家族でしょうか。恋人の嘆きはいかほどでしょうか。


 そんなこと関係ないぜと食い物を食い漁られたらそりゃ猫だってキレます。


 猫の視線は強く交差しあい。兄弟からさっと煮干しを奪いました。


 猫たちの視線の波長がそろい、血液中の酸素とマグネシウムが結合。


 強烈なエネルギーが発生し、光を収束するその目玉によってその視線は集束し、高出力レーザー砲となって円盤内を焼き払って事件が解決したのは後日のお話でございます。


 え? かの海賊ですか?


 ええ。今は円盤ともども、橋の下で生活しておいででございます。


 宇宙を股にかけてあとは端。因果なものです。

 こういう時に泣き叫んで受け止めてくれる相手がいればさぞ楽でしょうな。


「よしよし。ポチ偉い」

「なんでこーなるの~~?!」


 女の子がヒステリー起こしちゃ悪いわけ?

 そんなわけないですよね。

 そりゃ彼氏も大変だが頼られているわけです。


 よって猫が目からビーム出したら悪いって法律なんてない。

 え? オチがない? 山もない? あ。はははは……。

 話考える暇がなかったろうって?! いやいやそんなことは。


 こ、こここ、今宵はこれにて。

 さてさて。足元が暗いので私もちょいと光を……ぎゃあ!???


(ビーム!!)

チェコスロバキア:ビーム! ビーム! ビーム! 窓! 窓! 窓!

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