気づいたら乙女ゲームのライバルキャラになっていたのですが彼との逢瀬を邪魔しないでください
お久しぶりです、iyoでございます。
前回の作品には多くの方に御閲覧いただき、評価、感想等もらいまして、本当に嬉しい限りです。
続編を楽しみにしていただいていた皆様には半年以上もお待たせしまして、誠に申し訳ありませんでした。
………………期待はせずに読んでください( ̄▽ ̄;)
みなさん、こんにちは。張間千尋です。
私はある日気がつくと、乙女ゲーム『DOLCE〜あなたとの甘い学園生活〜』と同じ世界に、藤ノ森朱称ルートのライバルキャラとして生まれ変わっていた。
藤ノ森はヒロインの逆ハーの立派な一員だし、ヒロインも数多の男どもに囲まれてご満悦なようだし、私も素敵な彼氏がいるのでなんとも平和な日々が過ぎて…と言いたいところだけど、どうやらそうは問屋が卸さないようだ。
「だからなんで!アンタは!私を!いたぶらないのよ!!」
はい、何やらすごいこと言われた。
放課後、永川先輩のところに行こうとして、転生ヒロインに捕まった。
人気のない非常階段の方に連れてこられた結果…
この人、ヒロインだけど…ドMかね?
私ドSじゃないよ。ノーマルだよ??
「アンタに手を出されないから、朱弥くんとのイベントが起きないじゃないのー!!」
ぁー………納得。
藤ノ森ルートにおいて重要なイベントの一つ―張間千尋に排除されかけたところを彼に助けてもらう♡が起きないから癇癪を起こしてんのね。
逆ハーをするにはイベントを通して全攻略キャラの好感度を同じぐらいに上げないといけない。
他のキャラはほぼゲーム通りに好感度が上がってるんだろうけど、おそらくイレギュラーな私がいることで藤ノ森の好感度があまり良いものじゃないんだろう。
でーもーさー?私はもう藤ノ森と偽装恋人もやめたし、そもそも藤ノ森が好きなわけでもないし、わざわざ怒りを買うこともしたくないし、何より愛しの永川先輩に誤解されるような行動はしたくないんだ。
「あの…いたぶってって…被虐趣味なの…?(笑)それに朱弥とのイベントって訳わからない。こんな人に夢中になるなんて朱称の趣味って変なのね。別れて正解だった。…じゃあ話は終わりだよね?さようなら」
最高の愛想笑いをして、くるりと踵を返す。
ヒロイン、間抜け顔だったなぁ。
「何かあった?」
頭上から先輩の美声が降ってくる。
私は今、座り込んだ先輩の足の間に座って後ろから抱きしめられている。
最近はずっとこの体勢で、たわいない話をしたり、じゃれ合ったりしてる。
先輩の暖かい温度が背中から伝わってきて、私はこの体勢が大好きだったりする。
「んー…大したことではないんですけどね。…でも、のちのち面倒くさいことが起こりそうです…」
困ったと言う感じに苦笑すると、永川先輩は私のおでこにちゅっとキスを落として、ふわりと微笑んだ。
「何かあったら、何でも俺に言ってくれ。力になるから…」
その目が真剣に私を見ているから、大事にされてるんだと実感する。
「…私は、幸せ者ですね。」
***********************
そんな先輩との長閑な時間は、ある日、嵐のような訪問者に邪魔された。
「張間千尋!こんなとこで男を誑かしてるなんて、相変わらずの悪女ね!」
…転生ヒロインである。
「ほら、朱弥くん…やっぱりこの女は悪だわ。貴方が見向きもしなくなれば、ほかに乗り換える尻軽なのよ!」
おい、と思わず突っ込みたくなる。
正直言ってアンタにだけは言われたくない。
何しろこのヒロイン、私と先輩の逢引現場に逆ハーメンツ総出で乱入してきているのである。
誰が尻軽だ。私は永川先輩一筋だし、逆ハー築いてウハウハなアンタにだけは言われたくない。
だがここで気になったことがある。
後ろに控える逆ハーメンツが何も言わないのはわかるけど、当事者の藤ノ森と邪魔された永川先輩は何かしら言うもんじゃないのだろうか。
ドキドキと心臓が嫌なくらい大きな音を立て始めた。
もしかして、主人公補正で先輩がヒロインに好意を持ってしまったのでは?だからヒロインに見蕩れて何も言わないのでは?
ギュッと先輩のシャツの裾を掴む。
ちらりと視線を向けられた気がした。
だけど、私の意識はヒロインに向かっていた。
ヒロインは私から目線を外し、その隣に目を向けた。
その口元が緩く弧を描く。
イイ男発見、そう顔面に書いてある。
反吐が出そうだ。あんなにもイケメンたちに囲まれてなお、まだ男を求めるのか。
嫌悪感で眉間に皺がよる。
でもそれ以上に焦燥感があった。
先輩を奪われてしまうのでは。
奪われたら…私は正気じゃいられない。
藤ノ森の時とは違う。
私は本当に…本当に…―――
「ねぇ、貴方もこの女に誑かされたのでしょう?可哀想…私が助けてあげる」
ヒロインが先輩に手を差し延べる。
先輩の体がヒロインの方に傾いた。
縋るように先輩のシャツを握る手を強める。
が、それも緩く払われた。
「せん…ぱ…い………?」
景色に色がなくなっていく感覚がする。
先輩が遠くに行ってしまう。
先輩の手がヒロインの手に伸びる。
ヒロインが勝利を確信したような笑みを浮かべた。
嫌だ…嫌だよ……先輩………
これ以上見ていられなくて目を閉じる。
次の瞬間、パシンッと乾いた音がした。
思わず目を開ける。
クリアになる視界。
その中で驚いた顔で手を抑えるヒロインと、顔を歪めた先輩がいた。
あの乾いた音は先輩がヒロインの手を弾いた音らしい。
ほっと安心感が広がっていく。
「お前、気持ち悪ぃ…」
嫌悪感でいっぱいって顔をして、先輩はヒロインを睨みつけていた。
「お前!愛華に何すんだよ!!」
逆ハーメンツが殺気立つ。
それをギロりとひと睨みして先輩は黙らせた。
あれ、逆ハーメンツの中には不良くんもいる筈なんだけどな……先輩強い。
「なぁ、千尋を尻軽だって言ったよな…。じゃあよ、そんなに男を侍らせてるお前は、いったい何だっていうんだよ?」
先輩の言葉に逆ハーメンツは固まり、今まで何の反応も示さなかった藤ノ森がピクリと動いた。
その動きを先輩は見逃さなかったらしい。
「藤ノ森…朱弥…だっけ?お前は分かってたんじゃないのか?この女が虚構でできてるって…お前の望むものを、本当にこの女は与えてくれたのか?」
藤ノ森の瞳が揺らぐ。
何かを言おうと口を動かすけど、言葉が出てこないようだった。
「な、何なのよ、貴方!…ぁあ、なるほど…貴方、張間千尋に何か吹き込まれたのね?私は貴方の味方よ。この女に騙されてるのよ。さ、貴方も私の手を取って?」
にこりと可愛らしい笑顔を浮かべながら、ヒロインは先輩に近付こうとする。
私は躊躇い無く先輩の腕を私の方に引き、その体を抱きしめた。
「…先輩は…貴女の方にはいかないわ。だって…私は先輩のもの、先輩は私のものでしょう?」
私の言葉に先輩は優しげな微笑を浮かべた。
肯定してくれることが嬉しかった。
「お前みたいな女のところに行ったところで、俺は決して満たされない。」
そうきっぱり言うと、先輩は私の髪に口付けた。
「俺が欲しいのは、千尋だけ」
あぁ、やっぱり、私は永川先輩が大好きだ。
この気持ちが伝わればいいなと思って、さらにギュッと抱き着く。
きっと今、私の顔はだらしなく緩んでる。
でも目の前にある先輩の顔も幸せそうだからいいや、そう思うことにした。
「…な、なんで…私は皆から愛されるべき存在なのよ!張間千尋より、私の方が断然いいに決まってる!!何でなの!?私が主人公じゃない!ただのキャラの癖になんで思い通りにならないの!?」
ヒステリー気味に叫ぶヒロインの顔は、正直百年の恋も冷めるレベルで歪んでいる。
というか、主人公とかキャラとか言っちゃダメな単語連発じゃないか。
「あ、愛華、落ち着いて…」
そう言って主人公を宥める逆ハーメンツ…
…………うん、すっごくどうでもいい。
だから私はヒロイン達から目をそらし、先輩の方を見て………………ぁーうん、ご愁傷様、としか思えなかった。
誰にって…もちろんヒロイン達に。
そう言えば、言ってなかったけどね…
永川先輩はDOLCEファンの間でこう呼ばれている。
『帝王様』
学園の影の支配者であるのも起因しているんだけど、一番はその性格…『気に入らない奴は容赦しない』
ゲームでは永川先輩の好感度がある一定を超えるとモブのライバルキャラが登場し、千尋に対し かなーりヤバめな いじめというかリンチというか…をしてくる奴が出てくるんだけど、その子に対する永川先輩の仕打ちはちょっと怖かった…
そう言えば、私、先輩と付き合い出してるのに、一向にそのモブ現れないな…ま、いっか。
とりあえず、今、永川先輩はそのモブに向けていたような真っ黒い笑顔をしているのだ。
ちょっと冷や汗が…
その後、しばらくして逆ハーメンツがヒロインを引っ張って帰っていった。
だけど、藤ノ森だけは残って…
「…千尋、お前は…その人が好きか?」
何を今更と思ったけど、藤ノ森からすれば自分がふってからそう時間がかからないうちに別の男と付き合ってるんだから変に思うよな、と思い直し…
でもやっぱり、『私』として答えるなら…
「確かに昔の私は朱弥が好きだった……でもね、私の一番は永川先輩。これは一生変わらないって確信してるよ」
にっこり笑ってそう言えば、藤ノ森は少し寂しそな顔をして…お幸せに、そう呟いて屋上から出て行った。
翌日、ヒロイン達は理事長からお呼び出しされた。
その次の日からヒロインは学校から姿を消し、逆ハーメンツも役職を辞任したり、停学をくらったり、転校していった人もいる。
大変だなぁとは思うけど、あくまで他人事だから…どうでもいいというか…
いや、この一連の出来事に私の自慢の彼氏様が関わってるのはわかってるけども、仕事が早いですね!としか言いようがない…
それより気になることがあるので、現在私は3年生のクラスがある階にいる。
だってモブさんが出てこないんだもの!
条件を満たしてないほど先輩の好感度が低いわけないし…というか低かったら私が困る!
なんて考え事をしていれば誰かとぶつかり…
「すいませ…「ひぃっ!!」…ん…?」
何故か悲鳴を上げて逃げられた。
…あれって確か、私の探してたモブさんだよな…
「千尋、どうしたんだ」
後ろから声をかけられ振り向けば永川先輩。
そういえば校内なのに、先輩モサ男姿じゃないんだな。
やっぱ現実はゲームと違うところが多いのかもしれない。
「さっき人とぶつかってしまって…謝ろうとしたら、何故か悲鳴を上げて逃げられてしまったんです。…私、何かしましたかね?」
あまりの出来事に思わず口が滑った。
いやホント、まだ面識ないのに…逃げられるて…
「…あぁ、彼女か…」
先輩はうんと一つ頷いて、にこりと笑った。
「それなら、何かしたのは千尋じゃなくて俺だな」
そう言った先輩の顔は、やっぱり真っ黒い笑顔をしていた。
あれー?じゃぁ、私気付かないうちに手を出されてたのかな〜と考えていた私は、その後ぼそりと呟かれた先輩の、割と重要っぽい言葉を聞き逃していたのだった。
「千尋がアイツにひどい目に遭わされるの知っててほっとくほど、俺はシナリオに忠実じゃないからな」
お読みくださいましてありがとうございました。
なんか当初私が考えていたものとは変わってしまいました(笑)
が、このシリーズの本編的なのはこれでおしまいです。
(というかもう続きかける自信がないです)
近いうちに藤ノ森視点を投稿したいと思います。
(これは短めのお話になるかと…)
皆様お付き合いくださいましてありがとうございました<(_ _)>