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6月

6月上旬


田んぼに水が張られる季節。我が家では、新品の扇風機が回り始めている。

4月に新入社員として入社し様々な研修を受けてきたけれど、ついに配属が決まってしまった。これから本格的に働き始めることになる。


私が勤める会社は、日本人なら大体名前は知っている、某輸送機器メーカーの子会社だ。

私は文系ではあるけれど、総務になるか、技術職に近いところになるかはまだ、決まっていなかった。私は、芸術系の大学を出ているので、3Dグラフィックを作ったことがあった。面接のときにも、技術職が書いた図面を3Dにするような仕事に興味があるか聞かれてはいた。設計補助と言う名前らしい。

私は設計補助として、解析部門に配属されることになったのだ。

以前、ガチムチと普通の体系は見慣れていると思ったのは、デッサンのモデルさんがガチムチだったのと、これまでにお付き合いがあった男性のことだったりする。




「それで、配属して初めての名刺がこれなんだね。」


そう言ってふわり、と微笑むのは窓の向こう側の泰隆やすたかさん。彼をふわふわした雰囲気にしているのはきっと彼の黒髪なんだと思う。ショートだけど、毛先をパーマでふわふわさせてる感じ。彼の手には、先ほど私が渡した名刺がある。そうそう、名刺を渡すとき、あなたの指も観察させていただきましたよ! やっぱり指毛も薄かった! 全体的に毛が薄いに違いない。あと、あなた女爪ですね! 指が長く見えるのか実際長いのかわからないけど!


名刺を配られて一番最初の休日。

冷たい紅茶を飲みながら、これからの仕事に夢を膨らませて、新しい名刺を貰ったことを泰隆さんに話すと、いつの間にか名刺を渡すことになっていた。そういえば、会社の話をするのは初めてだ。

私は泰隆さんの個人情報をほとんど知らない。この窓で向かい合っている時間以外は何をしているのか、どこの会社に勤めているのか、どんな趣味があるのか、どんな家族構成なのか、どんな人生を歩んできたのか…これから話すことがあるのかもしれないし、ないかもしれない。


「解析? 紗希さきちゃんは技術系だったの?」


彼が名刺を見ながら呟いたのを聞いて、私はぶんぶんと横に首を振った。南窓の近くに置いてある扇風機みたいに。


「違うんです! 部署はそうなんですけど!」


私が否定して仕事内容の説明をすると、そんなに必死になって訴えなくてもいいのに、と彼は笑った。

彼と茶飲み友達になって2カ月。もしかしたら、会社の同期よりも馴染んでいるかもしれない。食べ物の話ばかりしている気がするけど。でも、最近は食べ物だけじゃなくて、テレビ番組の話とか、好きな音楽の話もするようになってきたんだから、会話の幅が広がってるよね。


「でもまさか、紗希ちゃんが競合他社の新入社員だとは思わなかったよ。」


泰隆さんは楽しそうに言って、名刺持ってくるからちょっと待っててね、と言い残し他の部屋に行ってしまった。きょうごうたしゃって、どういうこと? とっさに頭の中で漢字変換できず、少し考える。競合、他社…


「お待たせ。これが俺の名刺だよ。はい、どうぞ。」


私が頭の中で競合他社を漢字変換している間に、彼はその答えを持ってきた。

そこにあったのは、全世界で有名な某輸送機器メーカーの名前だった。その、設計開発部門。泰隆さんは理系だったのか。


「俺は、2年目社員のときここに住み始めたんだよ。今は4年目社員。だけど院卒だから紗希ちゃんよりも5つ年上だね。仕事の話はあまりしないほうが良いかもしれないけど、職場の人間関係の愚痴くらいなら聞けるから、いつでも言ってね。」

「人間関係の愚痴が出るの前提で話進めないでくださいよ。」


配属先で仕事を始めるのは来週から。

頑張ってね、という彼の言葉に私はしっかりと頷いた。

その後は会社の話なんてなかったかのように、いつものくだらない話をしていた。毎回思うんだけど、会話のネタって尽きないもんだね。


泰隆さんって、天然で、中性的な美人で、優しい雰囲気なんだけど、押しが強いのかもしれない。いつの間にか押し切られていることがあるような気がする。もしかして、私が流されやすい? それとも、気のせい?


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