5月
5月中旬
私と泰隆さんが茶飲み友達になって早1カ月。週1のペースで泰隆さんが入れるコーヒーだったり紅茶だったりを楽しんでいる。
とは言っても先週はゴールデンウィークで、どちらの都合もつかなかったので久しぶりのお茶会だ。
今日も良い天気で、ベランダから見える近所のこいのぼりたちが本当に青い空を泳いでいるように見える。風は強めかな。
西の窓を開けると、泰隆さんが湯飲みと小皿を2つずつのせたおぼんをもってきたところだった。うーん、やっぱり美人さんだ。何をやっても絵になるんだろうな。
泰隆さんはいつも無地で目に優しい色合いのシャツを着ている。気温が上がってきたから4月より薄手の服になっているけど、服の色合いは変わらない。上裸だと目のやり場に困った(決して私が彼の肢体を嘗め回すように見てしまうのがばれないようにするのが大変ということではない)けど、これまでロンTで隠れていた上腕二頭筋とか、腕を動かしたときにちらりと見える上腕三頭筋とかが…すごく、イイです。
私がそんなことを考えていると知ってか知らずか、
「久しぶりだね。ちょうどお茶ができたところだよ。はい、どうぞ。」
と言いながら、1セット分を窓の淵におろして、残りの1セットが乗ったおぼんごと、私に差し出した。チラリズムな上腕三頭筋いただきました!
お茶のお礼を言いながら受け取り、窓の淵にそれを置くと、彼がにこにこしながら私を見ていた。
なんだ!? 今日の破壊力ぱねぇ!! 笑顔の安売りしやがって!
なんて考えながらも表情には出さず、彼が勧めてきたお茶を一口飲んだ。お茶自体の香りは普通だったと思う。口の中に入った時の味も普通のお茶。でも、後味が…
「ゴーヤ…?」
「そう!ゴーヤ茶。でも、苦くはないでしょ?」
嬉しそうに正解を言う彼に、うん、と頷くも、なんか釈然としない。先に言えよと言いたい。まずくはない。まずくはなく苦くもないんだけど、ほうじ茶的な味を期待して飲んだので、がっかり感が半端ない。恨みがましく見ていた湯飲みから視線を外し、小皿を見る。そこには紅イモタルトがのっていた。
あれ?
「もしかして、沖縄に行ってたんですか?」
茶飲み友達になってから少しずつ打ち解けてきたけど、私はまだ、丁寧語で話しかけている。たまに違うけど。十中八九年上であろう美人さんにタメ口聞くなんて、恐れ多すぎる。
「うん。ちょっと用事があってね。」
彼は若干遠い目をしていた。あんまり行きたくなかったのかな?でも、聞いて大丈夫かな? 私が聞こうか聞くまいか悩んでいると、黙り込んだ私に気を使ってくれたのだろう泰隆さんが、話を振ってくれた。
「紗希ちゃんは? ゴールデンウィークは楽しめたかな?」
なんだろう。泰隆さんが私の名前を呼ぶと、他の人に名前を呼ばれた時と違う。なんだか優しい気持ちになる気がする。この人が優しい雰囲気だからだろうか。人の心さえ、名前を呼ぶだけで変えてしまうなんて、天然美人、恐ろしい子っ!
まあ、そんなことは置いといて、ええと、私のゴールデンウィークは…
「私は実家に帰って、祖父母にお菓子を買ってあいさつに行ったのと、両親とディナーを食べに行きました。あと、地元の友人と遊んだり…ですかね。どちらかというと、親孝行に努めた感じでした。」
「もしかして、初任給で親孝行? やるね。」
「まあ、そんな感じです。実家に帰るのも長期休暇の時くらいになりそうなので、出来るときに親孝行したいんです。」
そんなに珍しいことではないと思う。でも、祖父母は泣いて喜んでくれた。立派になったと褒められた。自然に笑みが浮かんでくる。
「家族に喜んで貰えたので良かったです。私、もともと実家から遠いところに就職するの、反対されてたんです。でも、今回のゴールデンウィークで、とりあえずは認めてもらえたような気がします。」
紅イモタルトを開けて一口齧る。優しい甘さが口の中に広がっていく。じんわりと温かいお茶で流し込むと、胸のあたりがぽかぽかと温まっていく気がした。