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和装の皇さま  作者: 狼花
参部
74/94

22 挙兵とその弊害

 二日後、真澄たちは天狼砦に到着した。玖暁側の入り口から堂々と入城した二皇と騎士団長の姿に、砦中が歓声を上げた。涙を流す者もいた。やっと始まるのだ。祖国を取り戻す解放の戦いが、ようやく。


「兄皇陛下、弟皇陛下! ああ、よくぞご無事で!」


 天狼砦の駐在指揮官が感涙にむせびながら出迎えた。もう中年は通り過ぎている男の涙はむさ苦しいな、とは巴愛の心中に留めておいた。真澄は爽やかに笑って見せる。


「必ず戻ると言ったろう。お前は信じていなかったのか、狭川(さがわ)?」

「いいえ、まさか! この狭川哲治(てつじ)、一時たりとも陛下の言葉に疑心を抱いたことなど!」

「はは、そうか。……お前の信頼に応えられて良かったよ」


 真澄がそう言って、自分に敬礼している狭川部隊長の肩を叩く。


「さあ、始めよう。玖暁を取り戻す戦いを」

「はッ!」


 狭川は威勢よく応えた。そのやり取りを砦の中から見ていた多くの騎士たちが、窓から身を乗り出して気合いのこもった大歓声を響かせた。


 知尋がすっと後ろに下がる。


「お客人たちを部屋に通してきますね」

「ああ、頼む」


 お客人というのは奈織らのことだ。客という言い方もおかしいが、他にいい言葉は思いつかない。知尋は騎士の戦いに詳しくない。へたに口を挟んでも的外れなことを言いかねないので、雑務を引き受けることにした。


 真澄は瑛士と狭川を付き従えて、大股で砦内に入る。廊下を歩きながら、背後の狭川に尋ねた。


「諸侯の私兵団は、どの程度合流した?」

「天狼砦周辺の七つの都市から、合わせて二万五〇〇〇ほどです」

「直接目で見て使い物になりそうな者だけ、瑛士と狭川でリストアップしろ。必要なら鍛えてやってもいい、諸侯が何を言っても私が許す。私はその間に、残っている各都市へ檄を飛ばす。具体的な策はそれからだ」


 諸侯たちが率いる私兵団の中で、本当に戦力となるのは一部だけだ。それを知っている真澄ならではの辛口の指示である。瑛士が苦笑しつつ頷く。


 そうして、瑛士と狭川によって一握りの私兵が戦力とみなされ、それ以外の者には玖暁騎士団の厳しい鍛錬が待っていた。それでも実力が上がらないようなら、後方支援に回すことになる。諸侯は「うちの私兵団にはうちのやり方が」と言いかけたが、そこは真澄の名を出さずとも瑛士の一睨みで事足りた。あの旅の中で忘れかけていたが、瑛士には「騎士団長」として被ってきた威厳という名の仮面があるのである。狭川も一回り年若い騎士団長に感服していたようだ。


 真澄の檄は玖暁各地に発せられた。勿論、青嵐が占領している皇都、照日乃にもだ。「天狼砦で祖国奪還のため挙兵、玖暁の騎士であらんとする者は集え」といった内容だったが、それを受け取った青嵐側はどうするか。真澄たち玖暁軍が大きくなる前に潰そうとするか、皇都に隠れてただじっとしているか。おそらく後者だろう。佳寿がいればともかく、指揮官を失った軍隊は軍隊として成り立たない。あれだけ強力な王冠だったのなら尚更、その力に依存して部下が何もできない可能性がある。


 これは好機だ。玖暁を取り戻すためにまたとない絶好のチャンス。――が、心のどこかでは「そんなことをしている場合か」と思うところもある。佳寿の目的は和泉のように玖暁を滅ぼすこと。今こうしている間にも、その準備を着々と進めている。佳寿を止められなければ、玖暁を取り戻したところで結局みな死ぬことになるのだ。それでは意味がないのではないだろうか。


 ――真澄も何度かそう思った。だが、玖暁を奪還すること自体に意味がある。青嵐軍に占領された皇都の民は、不安な生活を送っているだろう。そしてこの上、佳寿が世界を滅ぼそうとしているなどと知れれば、途端にパニックだ。せめてそれを少しでも抑えられたら。そのためには、玖暁の大地に正統な玖暁の皇族がいることが大切ではなかろうか。玖暁の皇ふたりがいて、強力な騎士団に守られて、それでも滅びを迎えるしかないのなら――少しは心も休まるのではないか。


 佳寿は玖暁のどこかにいる。それを探すために玖暁の大地を歩くには、青嵐を追い返さねばならない。どうせだったら自由に歩けるほうがいいに決まっている。他の仲間の見解も、「ここに来てあの男は不意打ちなどしない。ヒントを与え、真澄たちが自分の元に来るのを、どこかで待ち構えているだろう」ということだった。なら焦ることはない。準備を整えて挑めばいい。佳寿が神核実験をして故郷を滅ぼした玖暁、ひいては指示を出した前皇、その息子である真澄と知尋を恨んでいるのなら、自分の手で殺そうとするはず。真澄はそのことから逃げるつもりはない。


 だから、先に玖暁と青嵐の戦いを終わらせる。それが真澄の決定だ。






★☆






 天狼砦に到着して数日。


 この数日で、どっと人が砦に集結しつつあった。栖漸砦からの彩鈴の増援も深夜に到着した。真澄の挙兵の報で、これだけの戦士が集まるなんてすごいことだ。活気と熱気にあふれ、人ごみが苦手な巴愛は部屋から出たくない状態である。


 とはいえ、一度も部屋から出ないというのは無理な話である。初めて真澄たちと出会った際に使わせてもらったあの部屋を、今もまた使わせてもらっているが、食事や風呂のときは移動しなければならないし、巴愛はあまりじっとしていられない性格である。真澄も知尋も瑛士も昴流も忙しくあまり会えないので、同じく暇を持て余しているはずの奈織たちの部屋を訪れようと思ったのだ。


 巴愛の部屋から奈織と蛍の部屋まで、直線距離でほんの五十メートルほどだったのだが、巴愛は部屋を出た瞬間に厄介な人間に捕まってしまった。


「ねえ君、そこの綺麗なお姉さん!」


 自分が綺麗なお姉さんであるとは思っていなかったが、この廊下に自分以外の女性がいないので、仕方なく巴愛は振り返った。そこには、二十歳前後の若い青年が立っていた。高い身長と綺麗な金髪と碧玉の瞳、着物であろうと見事に着こなし、張り付く笑顔は完璧。現代ならモデルとしても十分活躍できそうなイケメンだったが、生憎と巴愛はこの手の軽い男が苦手である。


「……あたしのこと、ですか?」

「そうそう、君だよ。君以外に綺麗なお姉さんなんて、ここには存在しないじゃないか」


 巴愛はふいっと顔を背ける。いつだったか、昴流が言ったことを思い出す。「この砦に女性は巴愛さんしかいない、くれぐれも男に気をつけろ」――と。あれは玖暁騎士が酒に酔った状態だったから昴流がそう忠告したのであって、素面の彼らはまずそんなことをしない。だが外部の者は別である。例えばいま目の前にいる彼のように、どこかの貴族の私兵とか。


「僕は日向って街の大滝伯が抱える私兵団の一人で、城戸(きど)瑠偉(るい)っていうんだ」


 誇らしげに彼は名乗ったが、巴愛にはピンとこない。おそらく日向という街も大滝伯という人も有名なのだろうが、残念ながらすごさが分からなかった。


「そ、そうですか……それで、城戸さん? あたしに何かご用でしょうか?」

「いやだなあ、城戸さんだなんて。名前で呼んでよ、瑠偉ってさ」


 そう言われても頑として言い直さずにいると、城戸瑠偉も諦めたらしく次の話題になる。


「このあと時間ある? 僕の街においでよ、すぐ傍なんだ。すごく美味しいお茶の店があるから、そこで一緒にお喋りしない?」


 ああ、これが俗にいうナンパか。生まれて初めての経験である。騎士としての実力があるのかも怪しい、肩書きが格好いいからと騎士になっただけのような男だ。


「いえ、あたしちょっと用事があるんで――」


 そう言って踵を返そうとした瞬間、腕を掴まれた。振り払おうとしたが、さすがにその力は強く振りほどけない。いとも簡単にくるりと向きを変えられ、巴愛は壁に背を押し付けられた。すぐそばに城戸の顔が寄せられる。


「つれないこと言わないで……こんな殺伐としたところ、君には似合わないんだ。僕が君を助けだしてあげる。だから一緒に行こう、ね?」

「……っ、初対面の男とふたりでお茶できるほど、あたし悪趣味じゃないんです。誘うなら、他の人を誘ってください!」

「ふふ……そうやって君が嫌がれば嫌がるほど、君を僕のものにしたくなるよ」


 城戸の手が巴愛の頬に添えられた。その手がゆっくりと首筋に降りていく。ぞわっと巴愛の背筋を悪寒が奔る。


「い……いや、やめてッ」


 巴愛が悲鳴を上げる。それでも城戸の手は下降をやめず、巴愛の着物の胸元の襟を掴む。


 その瞬間、ぽんと城戸の肩に誰かが手を置いた。壁に向かっていた城戸は当然その存在に気付かず、城戸の身体で視界が遮られていた巴愛も気づかなかった。だがそれ以上に、現れたその人間は気配を消して近づいてきたのだ。


「何やってるの、こんなところで」


 穏やかな口調だが、その中には微量の怒りが込められている。声を聞いて相手を悟った巴愛は、一瞬の隙を突いて城戸を押しのけ、助けに来てくれたその相手にしがみつく。


 城戸が表情を一変させた。巴愛に「よしよし」と声をかけている男性を睨み付ける。


「誰、あんた? 僕の邪魔しないでくれないかな」

「俺はこの子を助けただけであって、君の邪魔をしたつもりはないよ」


 城戸を見やったその青年は、桐生奏多である。しかも見事に前半の質問を無視している。


 城戸は腕を組み、挑発的に奏多を見やった。


「僕は日向を統べる大滝伯の私兵騎士だ」

「……ふうん。確か大滝伯爵っていう人は、領地を持つ貴族の中じゃ一番権力のある人だったね」

「そうだ。だから僕に手を出すと、あとで痛い目を見るよ」

「その言葉をお返しするよ。相手は選んだほうがいい」


 奏多はいまだに自分にしがみついて顔をあげない巴愛にちらりと視線を送る。


「この子はね、君の主である大滝伯が唯一膝を屈しなければならない存在が、それはそれは大切にしている子だよ。ただの私兵騎士が、おいそれと触れていい子じゃない」


 伯爵が唯一膝を屈しなければならない存在、という言葉で、城戸は皇という名が閃いたようだ。さっと顔色を失う。下手をすれば、城戸の首が飛ぶのだ。


「そのことを抜きにしても、解放の戦いが始まろうとしている今、砦を抜け出して遊びに行くなんてどういう了見かな?」


 奏多の声はやはり穏やかだが、目線にはいつもとは比べ物にならない鋭さがある。仮にも奏多も一部隊を率いた身だ。部下を叱責することはあっただろう。今は、そういう目だ。


「す、……すいませんでしたッ!」


 城戸は勢いよく頭を下げ、かなりの俊足で逃げていった。それを見送った奏多が微笑む。


「やれやれ。あの子、今までナンパに失敗したことないんだろうね」


 奏多がそう思った理由は、奏多が声をかけたときの城戸の態度だ。邪魔をされたという苛立ちはあったが、「もう少しでうまくいきそうだったのに」という苛立ちはなかった。むしろあったのは「戸惑い」。おそらく城戸瑠偉という人間は、外見と笑顔だけで女性たちを落としてきたのだろう。もしそれで成功しなくても、ああやって顔を近づけて触れてやれば、みな彼の虜になった。しかし巴愛にはどちらも通じず、拒絶された。そのことに戸惑っていたのだ。


「さて……巴愛、俺を頼りにしてくれたのは嬉しいんだけど、そろそろ離れたほうがいいよ。誤解されちゃう」


 巴愛ははっとして奏多から離れた。奏多に抱き着いていたので、傍からはいい関係に見えただろう。


「ご、ごめんなさい! 有難うございます、奏多さん……」

「どういたいしまして」


 奏多がにっこりと微笑む。


「どこに行くところだったの? 良ければ送るよ」

「特に用はなかったんですけど……奈織と蛍の部屋に行こうかと」

「ああ……奈織は砦設備で聞きたいことがあるとかで、御堂さんが連れて行ったよ。蛍のほうは、今朝宙が勉強に付き合ってもらうって言っていたからまだ勉強中だと思う」

「あ、そうでしたか」

「……俺も暇だったし、ちょっと歩く?」


 断る理由がないので、巴愛は頷いた。ふたりで棟から出て庭を歩きつつ、巴愛が奏多を見上げる。


「奏多さん、さっき格好良かったですね。本当に騎士なんだって思いました」

「そうかな? 騎士らしくない騎士だって言われていたけど」


 奏多が苦笑する。無論、そう言われていたのは青嵐にいたときである。


「まあ、ああいう時くらいは上から出ないとね。俺のほうが年上だし」


 そういえば奏多は二十五歳だか二十六歳だかだといっていた。瑛士や黎とそう変わらないのだ。なんだかとてもそうは見えない。


「……ああ、あたし、また助けられちゃったんだ」


 巴愛がポツリとつぶやく。その呟きが聞こえた奏多は苦笑を若干変化させた。足を止め、巴愛と向きなおる。


「巴愛。男の勝手な言い分を聞いてくれる?」

「え、あ、はい。なんでしょう」

「男にとって大切な人を守るって言うのは何より重要なことで、その力があるって言うことはとても誇らしいことなんだ。そのせいで危険な目に遭って大切な人に『馬鹿』だの『私の気持ちも考えて』だの言われても、決して曲げない誇りだ」

「は、はあ……」

「だから、たとえそれが権力の象徴であっても、兄皇陛下は自分の名前を出すことで巴愛を守れることを、すごく嬉しいと思っていると思うよ」


 巴愛が沈黙する。


「黙って守られろ、という意味じゃないよ。でもたまには『守ってください』って言ってあげたほうが、兄皇陛下ももっと喜ぶよ」


 ……そんなふたりから少し離れたところに、真澄と瑛士と奈織がいた。瑛士は真澄に報告に来たのだが、奈織は完全な成り行きである。


「連城の自警団はやはり合流の兆しがありません。他の自警団は集結しつつありますが」

「ふむ……やはり、あそこを青嵐側も重く見ているのか。まあ、それならそれでいい。こちらから出向いて叩き潰すまでだ」


 真澄はそう瑛士に告げたが、ふとその瑛士の後ろに小さな人影が見えた。じっと見てみると、それは巴愛と奏多である。なにやらふたりで話をしているようだ。


 それを見た瞬間、なんだか妙な気分が真澄を襲った。これはなんだろう、ともやもやすること数秒、ついに真澄はその正体を悟る。


 ――ああ、そうか。巴愛が男とふたりきりでいることが面白くないのだ。


 これを嫉妬と呼ぶのだろう。最低だな、私は、と真澄が息を吐き出す。大切な仲間であるはずの奏多に妬くなんて。


「どうしたのー、真澄?」


 奈織が問いかける。我に返った真澄が首を振る。


「いや、なんでもない……そういえば奈織、城壁の砲撃台の類の修理はどうだ?」

「うん、順調順調! 知尋が派手にやってくれたけど、もう何台かは使えるようになったよ」


 天狼砦を奪還する際に、知尋が砲撃台をすべて壊したのだ。奈織はその修理をしてくれていた。


「そうか、さすがだな。有難う」

「なんのなんの。あたしはこういうことでしか役に立てないからねえ」

「それは謙遜だと思うぞ?」


 真澄が苦笑する。


 真澄が奈織と話している姿は、巴愛のほうからも確認できた。見た場面が悪く、それは真澄と奈織が楽しげに話をしているところだ。巴愛はそれでむっとする。それから自己嫌悪に陥った。奈織は大事な友達なのに、奈織と真澄が話すのはごく自然なことなのに、なんだが嫌な感じになる。心が狭くなってしまって、すごく不安なのだ。


「行こうか」


 奏多が主語を抜かした。巴愛が「どこへ」と問い返そうとした瞬間には、奏多が巴愛の背を押して歩かせていた。向かう場所は、真澄たちのところ。


「えっ、ちょっと!?」

「さっき俺に抱き着いたでしょ。駄目だよー、軽々しくそんなことしちゃ。上書きしてもらっておいで」

「か、奏多さん!」


 李生が以前手紙で言っていた。「真澄と巴愛の背をどうやって押してやったらいいか分からない」と。こうすればいいんだよ、と奏多は呟きつつ本当の意味で巴愛の背を押すのだ。


 当然のこと、こちらに歩み寄ってくる巴愛と奏多の姿は真澄たちにも見えた。真澄が目を見張る。


「巴愛、どうした……?」


 真澄が声をかけると、奏多が最後にどんと巴愛の背を押す。つんのめりかけてなんとか踏みとどまった巴愛は、顔を真っ赤にしていた。彼女は何も言わずおずおずと真澄の傍に歩み寄り、やはり何も言わず正面から真澄に抱き着いた。


「!」


 その展開に瑛士が奈織の襟首を掴んで素早く退散する。奏多もさりげなく姿を消した。真澄が巴愛を抱きしめたことはあっても、巴愛から抱き着いてきたことはなかったのだ。


 真澄も戸惑いつつ、しかし巴愛の細い身体が震えていることに気付く。それは羞恥の震えだったが、真澄には分からない。


「何かあったのか? 震えているぞ……?」


 その優しい声に、巴愛は俯く。


「さっき、変な人に絡まれて。奏多さんが助けてくれたんですけど」


 途端に真澄が険しい顔になる。


「すごく、……怖かったです」


 ナイフを持った男より、時としてああいう男のほうが恐ろしく思う。その一言が、真澄から険しさを奪った。巴愛にそんな思いをさせた男に怒りを感じるより先に、震える巴愛を守ってやりたいと思ったのだ。


「……すまない。その時、傍にいてやれなくて」


 そう言うと、巴愛は首を振った。そして顔を上げる。


「あたしのこと……その、守って……くれます、か?」


 皇なんて関係ない。あたしは真澄さまの傍にいたい。それが巴愛の本心。それでもいつも、それを隠してきた。そんなことを言ったらきっと迷惑だから。


 だからこの質問で答えが出る。真澄がどう思ってくれているか。皇という責務を放り出しても、巴愛を大切に思ってくれているのか。


 真澄が微笑む。そっと巴愛の頬に手を添えた。それはあの城戸という男と同じ動作だが、比べものにならないほど優しい。


「――当たり前だ。私の命にかけても、必ず」


 世の中に、こんなに大切にしてくれる男性がいるだろうか?


 あたしはきっと、とても幸せだ。

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