4 捕虜解放
真澄に指示された非常口から難なく中に忍び込むことに成功する。非常口に錠があっては意味がないので、当然のこと扉は開いていたのだ。
静まり返っている廊下を素早く移動する。角まで来て、宙が足を止めた。ちょっと待っていて、と口の動きだけで蛍に告げ、ばっと飛び出す。すぐ戻ってきた宙は、同い年くらいの王冠の少年を引きずっていた。
「きっ、桐生……!?」
王冠が宙を呼んだが、宙は無視した。王冠を壁に押し付け、首元に刀の切っ先をあてがう。
「喋るな。俺の質問にだけ答えろ」
旧友との再会をしたというのに、宙はぴくりとも表情を動かさなかった。
「所属を言え」
王冠はすぐさま身分を名乗った。それを聞いた宙が刀を下ろしたので王冠がほっとしたのも束の間、すぐさま宙の拳が鳩尾に叩き込まれた。宙は王冠の制服である暗い赤の着物を剥ぎ取り、今着ている着物の上からそれらを着る。
気絶した王冠を目立たないよう物陰に横たえ、宙は小声で呟く。
「……悪い。お前の服と名前、借りるからな」
ボソッと呟いた宙に、蛍が視線を向ける。
「……損な役回り、引き受けちゃったね」
「誰にも憎まれずに事を成そうなんて、はなから思ってないよ」
宙はそう言って笑みを見せ、懐に収まっていた手錠を取り出す。
「あんたを連行するって名目で地下牢に行く。しばらく辛抱してくれな。勿論、いざって時のために本当に錠はかけないから、振りだけだ」
蛍は頷き、後ろに手を回す。宙はその手に手錠をかけたが、ひっかけただけでやめる。そして蛍の手を掴むことで、手錠が閉まっていないことを隠した。
「王冠って、手錠まで常備してるんだね」
「ん、まあ王冠って本来は警護主体の組織だからな。国王警護の近衛部隊と、神都見回りの治安部隊。俺は治安部隊のほうだったけど、手錠常備は義務だったよ」
「手錠かけたこと、ある?」
「ああ、あるぜ。人の目の前で万引きしようとした奴とか、昼間から酒飲んで泥酔して街で暴れた奴とか」
「……宙って、案外ちゃんと仕事していたんだね」
「って、まるで俺が年中サボっているみたいに!」
宙はそう項垂れたが、すぐに気を取り直す。
「まあいいや、さっさと行こう」
宙はそう言って、蛍を連行しながら歩き始めた。
真澄に道順を説明されたときは頼りない反応しかしなかったが、実際は宙もきちんと道順は頭に叩き込んでいた。真澄が地面に描いていた平面地図と実際の様子をあてはめながら、それでも迷うことなく進んでいく。
一見、王冠の仕事に関して不真面目な宙だが、実は熱心なほうだったのだ。王冠という組織は嫌っていたが、神都を警護する治安維持の活動には、それなりの誇りを持って仕事に当たっていた。というのに佳寿は玖暁攻めと研究のために、治安維持の王冠の人員を大きく割いた。そのため、仕事を取り上げられた宙は反抗して仕事をさぼったのである。
人気のない廊下を進んでいく。と、騒がしい声が聞こえてきた。真澄たちが派手に戦いを始めたらしい。
「始まったみたいだな」
「うん」
蛍が短く頷く。
「……さっきも思ったんだけど、あんなにすごい術を使えるんだったら弟皇さまひとりだけでも砦を奪還できるんじゃないか?」
宙の疑問に、蛍は一言で答えた。
「できると思う」
「なら……」
「でもそれだと、知尋の身体の負担がかかりすぎる。下手をすれば、知尋の命と引き換えに砦を得ることになるかもしれない」
それを聞いて、宙ははっとそのことに思い当たった。ここまで知尋よりも真澄のほうが調子を崩していたから、知尋の身体のことをすっかり失念していたのだ。
「神核術を使うのは、知尋にとって命を削ることと等しいから」
「死と隣り合わせで、弟皇さまはずっと戦っていたんだな……」
本気を出せば、知尋は誰よりも強いだろう。だが身体のことを考えると本気が出せない。本気ではないと言っても十分すぎる火力なのだが、あの性格で手加減しながら戦うのは辛いだろう。しかも知尋は、自分が玖暁の戦いにおいて要であることを知っている。だから、命と引き換えに、などということすらできないのだ。たとえ敵を倒しても、知尋の治療を待つ騎士は大勢いる。しかも、やはりそこで完全な治癒術をひとりひとりにかけることはできない。
もどかしいだろうな、と宙は思う。
「……そんな弟皇さまを、矢吹は破ったんだよな……」
ぽつっと呟く。
そのとき、曲がり角で王冠と鉢合わせした。一瞬速く気づいていた宙は、蛍を取り押さえたまま片手で敬礼した。しっかり踵を合わせ、その動作はやり慣れたものである。
相手王冠は酷く慌てているようだった。おそらく、真澄らの襲撃に駆り出されたのだろう。明け方だから、宿舎で寝ていたに違いない。
「なんだ、お前は!?」
「はっ。自分は第六大隊所属、牙城小隊長であります」
それが先ほどの王冠の少年の身分である。小隊長というと聞こえがいいが、ひとつの大隊を三十分割ほどした、部下を五人持つという役職のことである。宙と同じように適性検査に合格して王冠になった者の最初の身分なので、実を言うと下っ端だ。ちなみに、宙は小隊長の一つ上の階級に昇進していた。
「巡回の途中、不審な娘を発見したので連行した次第であります」
「そうか、襲撃者どもの仲間に違いない。地下牢にでも放り込んで、尋問をしろ!」
「了解」
宙は難なくその場をやり過ごし、角を曲がってから息を吐き出した。蛍が肩越しに振り返って宙を見る。
「ああ、緊張、緊張。ああいう口調は言い慣れないせいか、ボロがすぐ出るんだよな」
「でも案外、頼りになる」
「また『案外』か」
宙はそう言って肩をすくめた。
地下への階段を見つけたところで、宙は蛍を解放した。一気に地下へ駆け降りる。真澄らの囮はかなり効果的だったようで、人は殆ど出払っていた。
地下牢の看守は数人だけだった。蛍が神速で近づき、一瞬で昏倒させる。見事な技で、宙も見惚れるほどだ。
牢に入れられていた大勢の玖暁騎士がどよめいた。狼雅らの予想した通り、この牢には砦に詰めていた大部分の騎士が押し込められていた。彼らは憔悴してはいたが、みな無傷である。
「な、なんだお前ら……」
騎士が尋ねる。宙は王冠の制服を脱ぎ捨てた。
「上で騒がしいの、分かるだろ。砦に襲撃者が来たんだよ。俺たちはその仲間さ」
「襲撃者……?」
蛍が無言で、真澄から預かった短剣を取り出した。それを見た騎士たちがどよめきの声を大きくした。
「おお、それは陛下の……!」
「兄皇陛下……!」
「陛下はやはりご無事だったんだな……!」
宙は看守から奪った鍵でひとつひとつ牢を開けていく。
「俺たちは兄皇さまに指示されて、みんなを助けに来た。その間兄皇さまたちは囮になってくれている。助けに行くよな、勿論?」
もしかしたら信じないかも、などという危惧は杞憂だった。騎士たちは歓声を上げ、取り上げられていた武器を取り戻して一気に地下牢を駆け上がり始めたのだ。勿論宙は、きちんと場所を指示している。
「いやあ、兄皇さまってほんと人気なんだなあ。少しも疑われなかったぜ?」
宙が空になった牢を見やって呟く。蛍は頷きつつ、宙を見上げる。
「……ありがとう」
「え、何が?」
「私ひとりじゃ、あんなふうに話できなかった」
宙は驚いたように蛍を見たが、それから笑った。
「気にするなって。それに、これで終わりじゃないんだぜ。牢屋はまだまだあるんだから、ふたりで手分けして開けていくしかない。けどもう説明はいらないよ。火はついたんだ。あとは『兄皇陛下が助けに来た、加勢しろ』って言うだけで火は燃え移る」
宙はそう言って鍵の束を蛍に渡す。宙の言った通り、いま解放したのは全騎士の一部だけだ。まだまだ騎士は捕らわれている。彼らを一人残らず解放するのが彼らの役目だ。
騙し討ちで捕虜となった彼らだが真っ向勝負になれば王冠にひけはとらない。まして奇襲だったことで、王冠たちは神核エネルギーの注射ができていない。
宙と蛍は協力しながら牢の解放を急いだ。
★☆
少々どころではなく嫌だったのだが、騒ぎを起こすために仕方なく真澄は神核術で砦の城壁を一部破壊した。その騒ぎに気付いた王冠が湧いて出るかのように真澄らを包囲し、自然と彼らは背中を預け合う。
「なかなか統制のとれた動きをしますね。王冠は個人の能力がある程度突出しているせいか、てんでばらばらに動くことが多いですが」
瑛士が手厳しく言う。確かに、誰も先走らずじりじりと包囲の輪を縮めてきているところは王冠らしくない。必ず誰かひとり飛びかかり、ばらばらと斬りかかってくるのだが。
「一気に飛びかかってこられたら、さすがに対処の仕様がないかもしれませんねえ」
奏多は危機感の欠片もない声で言う。
「とはいえ、こんな指揮ができる王冠は、ひとりしか思い当たらないな……」
真澄は言いながら、隣に立つ知尋に目くばせする。
「仕掛けてこないなら、先手必勝だ。知尋、やるぞ」
「はい」
知尋は頷き、【集中】を始める。
真澄の雷光と知尋の光閃。二つの力が同時に迸り、最前線の王冠がなぎ倒された。
真澄が神核術を本格的に使うのを見るのは、瑛士や知尋も久々だ。今まで緊急用としか使っていなかったのである。ろくな訓練もしていないのにこれほど神核を使いこなせるのは、やはり真澄に合った神核だからか。
その攻撃で王冠の統制もやや崩れた。勢い余って斬りかかる者は、瑛士や黎、奏多が軽々と斬り捨てる。それでも、やはり勢い任せの王冠らしくない慎重さだ。
積極的な攻撃はない。じりじりと包囲の輪を縮めてきている。つまり相手は、真澄らの正体と実力を完全に知っているのだ。束になってかかったところで勝てないと悟っている。だから相手は無理に攻めに転じず、真澄たちの退路を断つつもりなのだ。そこには、部下を無駄死にさせたくないという思いと、真澄らも無傷で捕えたいという思いがあるようだ。
作戦とはいえ、血気盛んな王冠たちをこんな風に制御できる指揮官は、やはり真澄にはひとりしか思い浮かばない。
真澄もできることならあまり殺しはしたくない。しかし、そう悠長なことを言っていられる場合でもなかった。同じ思いだったのだろう、瑛士が真澄に言う。
「真澄さま、打って出ます」
これだけの人数差があって打って出るという選択肢があることが普通は驚きだが、瑛士にはそれだけの実力があるのだから仕方ない。だから真澄も、すぐにそれを許可した。
呼吸を合わせたかのように、瑛士と黎、奏多が飛び出した。戦いにおいて前衛になるのは彼ら三人に真澄を足した四人であると、暗黙の了解がある。だが今回、真澄は宣言通り後衛に徹する。
黎が大きく槍を横に薙いだ。まとめて数人吹き飛ばされ、まるで竜巻の暴風のようだ。彩鈴のような閉鎖的な環境で、よくそこまでの武芸を会得できたと、真澄は心から感心する。時折青嵐と紛争があったとはいえ、黎のように地位の高い人物が自ら出陣するとは思えない。しかし、訓練だけで完成された武芸は実戦では役に立たない。黎は一体どこで実戦経験を積んだのだろうか。
奏多は刀を逆手に持って切り込む。青嵐騎士の戦いは熟知しているつもりだった瑛士らだが、奏多のように変幻自在な剣は初めて見た。彼もまた、多くの戦闘経験を積んでいるはずだ。そしてやはり兄弟そろって、身のこなしが異常に速い。速さでいえば、宙にも蛍にも劣らず、他の追従を許さない。風の塊が敵の傍を駆け抜け、一瞬で急所を切り裂かれる恐怖は相当なものだ。
一瞬たりとも動きを止めず、奏多は最初飛び出したところまで戻ってきてようやく足を止めた。奏多の周りにいた王冠はほぼ片付いていて、奏多はふうっと息をつく。
「まあ、幹部は化け物だけど下っ端はこの程度だなあ」
余裕ぶっていると、別の方向から王冠が飛び出してきた。奏多がそれを迎撃しようと刀を振り上げた瞬間、その手から刀がすっぽ抜けた。
「おや」
危機感の欠片もない奏多の声。まさか武器を自ら失うとは王冠も思っていなかっただろうが、好機と見て飛びかかってくる。
激しい雷撃がその王冠らを一掃した。後ろから真澄が守ったのだ。奏多が振り返って微笑む。
「すみません、陛下」
「いや、構わないから早く前向いてくれ」
切実な真澄の声に、奏多が笑みに苦い要素を加えた。
「俺としても、刀が飛んで行ったのはわざとじゃないんですけど」
「わざとでたまるか!」
ついつい真澄はそう突っ込んだ。奏多はようやく王冠に向き直った。
あまりに奏多が堂々と隙を見せているので、踏み込むに踏み込めなかった王冠たちが刀を構えた。奏多はちらりと自分の手からすっぽ抜けた刀を探す。少し離れたところに刀は落ちていた。だが走って取りに行けばその瞬間に斬られる。
「奏多、私の刀を――」
真澄がそう言いかけたが、奏多は前を向いたまま答える。
「大丈夫ですよ。よくあることなんで」
「……よくあるのか?」
心配で気が気でない真澄だったが、本当にその心配は杞憂だったのだ。
突っ込んできた王冠を、奏多は身を沈めて避けた。右足を軸にして身体を捻り、左足で強力な回し蹴りを叩き込む。間髪入れずに肘を強く後ろに引き、背後に回り込もうとしていた王冠の顔面を打つ。前方から振り下ろされた刀は右手の指二本で受け止め、ほんの少し動かしただけで折り取ってしまう。
常人外れの体術を目にして、真澄が唖然とする。刀を持っていた時よりも余程強かった。
奏多の真骨頂はここからだ。王冠の腕を掴んで引くと、呆気なくその腕の骨が折れたのだ。肩を掴んで力を加えると、関節が外れる。膝を蹴りつけると、骨を砕かれる。一瞬で奏多の周りは悲鳴が連鎖した。
「心配はいらないようですよ、真澄」
知尋に諭され、真澄は頷く。奏多はほんの数秒で王冠の身体に損傷を加えて再起不能に陥れ、余裕で刀を拾っている。
真澄や瑛士とて、もしも刀を失ったときのために体術は習得している。だが、奏多のそれは真澄の「護身術」以上の、極められたものだった。あれだけの動作で骨や関節に衝撃を与えるのは並大抵のことではない。きっとかなり研究して編み出した武術なのだ。
「……そうだな。彼も騎士として戦っている男なのだから、私が口を出すのはおこがましいというものか」
「真澄は自分の心配をしたほうが良いですね。さっきから術の照準がずれていますよ。もう少しずれていたら奏多を直撃していました」
何気なく指摘され、真澄がぎくりとする。
「き、気づいていたか……」
「当り前です。ここ数年、殆ど神核を使っていなかったでしょう? 腕が落ちていますよ」
瑛士や黎は真澄の神核術の腕に感心していたが、知尋に言わせればまだまだなのだ。真澄は咄嗟の反撃用としか実戦で神核を使っていなかったのだから、仕方のないことではある。
「こんなにしっかりと後衛で援護をしたことはなくてな……いまいち、コツが掴めない」
「敵との距離感を見誤らないことです。こういう平坦な場所では難しいことですが、少しでも誤れば味方を攻撃していまいますから。味方の動きを先読みしてください」
敵との距離といっても、知尋の言った通り平坦な場所では読みにくい。真澄より背が低い相手も高い相手も混ざっているので、遠近感が分かりにくいのだ。知尋がいつも控えている城壁からなら、戦場の様子が一度に見られるので、絶好の攻撃場所だった。実際に術を使ってみて、知尋がどれだけ苦労しながら援護してくれていたかがよく分かる。
もっとも、神核を「感覚」で使っている知尋にはあまり関係のないことだろうが。知尋のアドバイスは一般論であって、知尋自身はそれを超えた超的第六感で攻撃しているにすぎない。
「……人間を屈服させるために最も手っ取り早いのは、苦痛を与えること。骨を折られれば痛みで戦意を喪失し、かつ再起には時間を要する……顔に似合わず、なかなか残酷なことをできるのだな」
そう呟いたのは、奏多の戦いぶりを横目で見ていた黎だ。黎の傍で刀を振るう瑛士は、敵をなぎ倒しながら言う。
「奏多はそんなつもりでやっているんじゃないと思うがな。確かに戦意を喪失させる手っ取り早い手だが、伴って命を奪う直接的な原因にはならない。殺したくないって意思の表れじゃないのか?」
瑛士の推測を聞いた黎は僅かに目を見張り、ふっと笑みを浮かべた。
「殺したくない、か……成程、そっちなんだな」
まったく、自分と瑛士はことごとく正反対の考えの持ち主だ。だが、だからこそそれで均衡が取れるのかもしれないが。
真澄はちらりと後方を見やった。そこには高い城壁がある。通常神核術士が詰めている場所だが、そこは知尋が先ほど無力化している。
しかし、真澄は城壁からこちらを狙っている気配に気づいた。
「奈織、城壁に王冠がいる。撃て」
奈織がはっとして振り向き、そして見つける。城壁上からこちらに向け、神核術を放とうとしている王冠だ。気が付いてしまったらしい。
通常、下から上の者を狙撃するのは不利だ。だがこの場合は違う。城壁の王冠は、数多くいる味方に当てないよう、慎重にならざるを得ない。広範囲、高威力の術では味方を巻き込んでしまうが、一人を狙うと避けられやすい。しかしそれ以外に選択肢はない。
対して奈織は、真澄に守ってもらう安全な環境の中、集中してたったひとりの人間を狙うことができるのだ。
奈織が引き金を引く。城壁から顔を出していた王冠が銃弾を浴びて倒れた。相変わらず卓越した狙撃の腕だ。
「また狙われたら撃ち落としてくれ」
「任しといて!」
奈織がしっかりと頷く。
その時、真澄らを囲む王冠の後ろに大勢の人間が現れた。真澄が目を見開く。
先頭に立っていたふたりの騎士が、大声でこう言った。
「兄皇陛下に加勢するぞッ」
「砦を王冠どもから取り返せッ」
宙と蛍が解放した、玖暁騎士たちだ。続々と騎士たちは戦場に参加していき、真澄を追い詰めていた王冠たちは逆に挟撃されることになった。
「狭川、高峰……! やっぱり無事だったか!」
信頼する部下二人の姿を見つけ、瑛士が破顔する。ふたりが十八人の部隊長の内、天狼砦に駐在していた二つの部隊の責任者だ。司令官の狭川、副司令官の高峰。瑛士と彼らが育て上げた玖暁騎士の底力は、やはり凄まじかった。捕虜生活から解放されてすぐ、真澄らのために力を奮える彼らはやはり忠義に篤い。きっと真澄の無事を信じていたのだろう。
「形勢逆転ですね!」
多少疲れのある顔で、瑛士が嬉しそうに言う。知尋が微笑んだ。
「少し違うよ、瑛士。逆転も何も、最初からこっちが優勢だったんだからね」
過大評価のようで、実は正鵠を射ている。
真澄は頷きつつ、目を細めた。
「……さあ、どう出る……?」
玖暁騎士と王冠の戦いが激しくなった。王冠としても、真澄らより騎士のほうを相手にしたほうが分が良いのだろう、殆どの戦力は騎士側に向けられた。玖暁騎士も負けじと押し返した。
拮抗した勝負。これではどちらの犠牲も多くなるだけだ。作戦も何もない、本当にただの殺し合いになる。
瑛士が騎士をまとめようと声を張り上げかけたその時、瑛士の声をも上回る大声が響いた。
「双方、武器を収めろッ」
戦場がしんと静まり返った。
王冠の列が左右に割れる。現れたのは四十代過ぎの王冠の男だった。他の王冠とは明らかに違う、威厳や風格といった類のものを持っている。
その王冠は真澄の前に歩み出た。彼を中心に、王冠たちが円形を作りつつ距離を取っていく。さながら、人の壁でつくられた闘技場のような様相だ。
真澄も前に出て、その男と正対する。真澄の顔には驚愕も恐怖もない。ただ毅然としている。
重苦しい沈黙が、ふたりを包み込んだ。




