日常から 3
「まったく、女の子が簡単に髪を切るなんて言い出すなんて」
呆れたようにハナをみるパレナ。
ここはキフ屋の裏側にあるパレナとニケルの家だ。
キルアに髪がほしいと頼まれ、思わず「はい」と了承したハナ。
本人は、勢いで答えてしまった感じだが、特に嫌だという考えはなかった。しかし、そこに割って入ったのがその場にいたニケルだった。
ニケルは、「いい加減にしろ」と言うとハナの手を取りさっさとキルアの家を出てしまった。
キルアは、ハナに「またあとでね~」という楽しそうの声を二人の後ろ姿に投げかけて引っ込んでしまった。
「しかし、鍛冶屋の倅も倅だね。乙女の子の髪がほしいなんて。しかも、大量にだろ、ほんとにやったらとんでもないことだよ」
「あの、そんなに髪をあげることっていけないことなんですか?私最近ショートにしたいなぁって思ってたんでちょうどいいかとおもって。それに、今の足の状態でキルアさんに歩きまわられたら困りますし」
私はこの世界に来てまだ日が浅い、生活するのに必要な知識は教えてもらっていたがこの世界の風習や伝承などは日々の生活に慣れるのが優先で、知識不足なところもある。
「なんてこと、いいかいハナ。あんたが、遠いところから来たことは知っているよ。そこではずいぶん伝統と違ったことを許しているようだけど、ここじゃぁ違うよ。乙女はみんな髪が長くなきゃいけないんだ。
髪の手入れ以外で髪を切ることは、教会の尼になる時か結婚した時だけさ。それかお守りを作るときだけさ。
いいかい、キルアの言うとおりに髪を渡してみろ、未婚なのに髪が短いなんて罪人か恥ずかしめを受けた証さ、この村で晒しものにでもなるつもりかい。」
「晒しものですか。」
この村は、昔からの風習を大切にしている土地のようだ。パレナさんが言うように私の出身地は風習に縛られない土地であるから、私が髪を短くしたいと考えている、と考えたようだ。
アマン村での私の立ち位置は、ミロナさんの息子の親友の親戚で両親が亡くなり、自分の村名も忘れるほどの傷心の娘。みたいな・・・
どんだけの設定、てかうそ下手じゃね、って突っ込みどころ満載の設定を地で行っている私。
そんなめんどくさい設定の私を何かと心配して、この世界の常識、正確にはこの村の常識を叩き込んでくれるパレナさん。
「そうさ、ハナ。おまえさんは乙女だろ。未婚で髪が短いなんて、この村じゃ恥ずかしいことなんだよ。
まったく、ニケルが止めてなかったら・・・。大体、手入れのときに削いだ髪を剣を作るときに使うだよ。手に入れられないぐらい量が必要なら、手に入るだけの量で作って、自分の腕で剣を鍛えればいいだろ。
腕があれば十分教会に出せるものがつくれるのに!」
「そうなんですか?」
「ああ、そうさ。鍛冶屋の旦那はそれは腕の良い職人で、良質な乙女の髪がひと房あればほかの鍛冶屋が教会に奉納する剣に必要な乙女の髪の量の半分以下で立派な剣を奉納出来てたんだ」
まったく、材料に頼るなんて・・・と言いながらパレナは立ち上がると、ニケルに声を掛けた。
「鍛冶屋の倅を呼んできな。私が根性を叩き直してやるよ!」
今まで私とパレナさんの会話を黙って聞いていたニケルは、少し怖い顔をしながら立ち上がり
「おう」
と一言答えると、外へと向かった。