日常から 5
「やったー!ハナ!!僕やったよ」
キルアさんのテンションが高すぎる声を聞いたのは、いつものように私が診療所でミロナさんの手伝いをしていた時のことだった。
あの髪の毛騒動から二か月。
結局、私が手入れで削いだ髪の毛をキルアさんに渡し、足りない分は近くの村で調達した乙女の髪を。それでも当初キルアが欲しいと言っていた分量には足りないがパレナさんの叱咤激励と、キルアの頑張りによりなんとか形になるものができ、奉納会に参加できた。
それに、キルアさんの足が心配だったけど、ミロナさんも驚くほどの回復力を見せた。
キルアさんの集中力と回復力で出来た剣はどうなったかと思うと・・・
「「「おめでとうキルア」」さん」
結果、奉納会で優秀な剣であると認められたキルアさんの作った剣は、城に奉納されはしなかったが、城がある首都で一番大きい教会に奉納された。
この日は、キルアさんの剣が見事に奉納会で優秀な成績を収めたことを祝ってのささやかの祝宴が開かれた。
城に奉納される剣として作ったから、城ではなく教会と聞いた時はキルアさん残念かと思いきや、まんざらでもないようだった。
教会に奉納することは、地方の教会なら信仰心の一つとして簡単にできるのだが、首都の教会へ奉納することは名のある鍛冶にしかできないことなので、名誉なことで、今後の仕事へも十分影響されると考えられるから。だそうだ。
「しかも、あいつたんまり報奨金もらったからしばらく材料集めには困らないそうだぜ」
「そうなんですか」
パレナさんとキルアさんの大騒ぎをしり目に、ニケルさんと話しているとそんなことを聞いた。
だからかと、キルアさんのテンションの高さに納得してしまった。
「ごちそうさまでした」
「夜遅くまで、つきあわせてごめんよ」
「いえ、パレナさんお手製のごちそうが食べれてよかったです」
「そんなほめても何も出やしないよ」
祝宴で出されたお酒のためか、パレナさんのほほは少し赤かった。
「ニケル、きちんと送って行くんだよ」
「わかってるよ」
夜の星が暗い空を明るくする。
この世界には、私がいた元の世界のように夜空に星がいっぱい輝いてるのではなく昼のように太陽だけが出るように、夜空には月のみが輝いている。
星が出てないことに気がついた当初はびっくりした。ミロナさんに聞いてみたこたがあるけれど昼の星が一つのように、夜の星もひとつなのが普通だと言われたことがある。
「なぁ、ハナ」
「はい」
「ハナはいつも敬語だな、疲れないか」
「えっと、疲れはしませんよ。それにニケルさんは年上じゃないですか?だからですかね」
「う~ん」
不意に足を止め、頭をかくニケルさんを見上げながら私は彼の言葉を待った。
私はこの世界に線引きをしている。それはほかの人には気付かれないようにしている。まずは、年上や同い年の子には敬語。そして・・・
「ハナ、俺のこと嫌いか」
「・・・えっと、嫌いじゃないですけど、わっ!」
「俺のこと好きか?」
ニケルの顔の赤さは夜の星しかない夜道でも、か細い外灯に照らされてもわかるほど真っ赤だった。