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きっとよくある転生のお話  作者: れたす
きっとよくある転生のお話
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 赤秋の月、44日。

 やや冷たい風が、ざあ、とミーナの頬を撫でる。汗でしっとりと湿った肌に、それはとても心地良く感じられた。



「気持ちいいねー」

「ああ」

 ミーナの言葉に、レグルスは愛想なく言って頷く。初めてであれば眉を顰めるような薄い反応も、何度か会っていれば慣れるもので、ミーナも特に何も思わなかった。



 レグルスとミーナの二人は、町の郊外にある小高い丘に来ていた。そこは見晴らしが良く、この町を一望できる場所だった。

 ミーナはレグルスの隣に座って町を眺める。ミーナの住む町は大きな湖に面しているため、彼女の目には太陽の光が湖に反射してきらきらと光るのが見えた。


 前世みたいにビルばかり密集しているわけでもなく、ただ点々と家が並んでいる小さな町。日本と比べればちっぽけな場所だけど、ミーナはそんな光景に目を奪われる。



「あ、あれ私の家! あの赤い屋根!」

 ミーナが指差すのを、レグルスは目で追う。



「あの青い屋根の隣か?」

「そう!」

 レグルスの言葉に、ミーナが彼を見上げ嬉しそうに笑って頷く。レグルスはただじっと、ミーナの家の方を見ていた。


 ごろん。ミーナが唐突に芝生に倒れこみ、ふわあ、とゆっくり息を吐く。ここまで来るのはとても疲れたのだが、疲れただけの価値はあったなあ、と彼女は心から思った。


 体の火照りと、程よく吹いて来る風。そんなとても心地よい感覚に、何だかミーナは寝てしまいたくなった。目を瞑れば、さらさらと草がなびく音が聞こえてくる。ちち、と小鳥が鳴く音が耳を優しく撫でる。



(あー、だめだって……ここで寝たら……)

 本格的に眠くなってきたミーナは、誘惑を振り切って起き上がる。そして、ふるふるとゆるく頭を振った。



(それにしても……レグルスは色んなところ知ってるよね)

 ミーナは隣にいるレグルスを見上げる。そして、初めてレグルスのところに遊びに行った時のことを思い出した。



 初めてレグルスのところに遊びに行ったとき、ミーナは正直どうしようかと思った。彼がとても寡黙なおかげで、話が一分以上続かなかったのだ。自分から一緒に遊ぼうとは言ったものの、ミーナはほとほと困ってしまった。


 そんな微妙な空気の中、レグルスが唐突に提案してきた。この町を一緒に探検しないか、と。

 ミーナはその提案に一も二もなく頷き、彼の案内で町中を探検することにした。


 その日は町の裏道を探検した後、猫がよく集まるという空き地を見に行った。久しぶりに見る猫に、ミーナは大いに癒された。

 ちなみに、この世界には魔物が生息しているが、犬や猫などの愛玩動物、豚や牛などの家畜と言った生き物もちゃんといる。ただし、魔物に襲われることも多くあるため、数が少ないのが現実だ。大規模な畜産業は出来ず、家畜の肉は貴重で平民の口には殆ど入らない。


 そして二度目は、町にある花壇の数々を巡った。綺麗に咲き誇る花たちに、ミーナはとても喜んだ。ミーナはそこで初めて、あの夜、母が魔法で出した白い花が「ティルミーナ」という名前だということを知った。花言葉は「可愛らしい」で、ミーナの名前はこの花からつけられたものだ。


 そして三度目となる今回は、少し遠出してこの丘まで来たのだった。



(レグルスは凄いなあ……)

 ミーナは、自分の住む町のことを、殆ど知らない。

 この八年間必死になってやっていたのは、この世界の言葉を覚え、この世界の知識を蓄え、この世界の魔法を練習することだった。それはそれで大事なことであったけれど、もっと身近なところにも大事なことがある。ミーナはレグルスと遊ぶようになって、それを実感していた。



「……ねえ、レグルス? 今度はどこ行こうか?」

 気が早いと思いながら、ミーナはレグルスに問いかける。



「春になれば、湖畔に花が咲き乱れる場所がある」

「え、そうなの!? 行きたい!」

 ミーナはレグルスの言葉に、がばりと立ち上がる。レグルスはしかし冷静な様子で言う。



「だが、町から少し離れる。獣道を行くから、魔物が出るかもしれない」

「あ……そうなんだ。でも、レグルスは行ったことあるんだよね?」

「一応、身を守るくらいの力はある」

 その言葉に、ミーナはレグルスを上から下まで見る。ミーナより三つ年上とは言え、彼はまだ少年と言える年齢。そんな彼の細い腕を見る限り、そんな力があるとは思えなかった。



「えっと、身を守るって、魔法?」

「魔法と剣術だ」

「へー、そうなんだ! すごいね!」

「……どちらもまだ未熟だ」

 レグルスが魔法を使えるということ自体初耳だったミーナは、純粋にそう驚く。そして剣まで扱えるということに、彼を尊敬した。



「あ、私も魔法が使えるんだよ」

 ミーナは、知っているだろう、と思いながらも一応そう付け加える。前回のあれは、レグルスは見ていないことにしてくれているのだから。

 レグルスは特に大きな反応を見せず、そうか、と言う。



「だから、大丈夫だよ。ね、一緒に行こう?」

「わかった」

 レグルスは、いつものように頷く。



(……あれ?)

 ミーナは目を指で擦る。

 さっきレグルスの浮かべた表情が、とても嬉しそうに見えたのだが。



(気のせいだよね?)

 改めてレグルスを見ても、いつものようにただ無表情なだけ。

 ミーナは気のせいだったのだろうと、そのことを頭から消した。

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