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きっとよくある転生のお話  作者: れたす
きっとよくある学園のお話
31/33

01

3/17 2章連載開始

不定期更新になります。


 1





 緑夏の月、4日。

 ミーナは、学園にある図書室を訪れていた。



「今日はありがとうね、リシエちゃん」

 数冊の本を抱えて持ちながら、隣を歩く亜麻色の髪の少女に小声でお礼を言う。リシエと呼ばれた少女は嬉しそうにはにかんで、小さく首を横に振った。



「ううん、いつも私が勉強教えてもらっているから……今日は、ミーナさんのお役に立てて良かった」

「探したかった本もすぐに見つかったし、本当にどうもありがとうね!」

 ミーナが図書室に行くということをたまたま教室で漏れ聞いたリシエが、いつものお礼も兼ねて彼女の案内役に立候補した、というのが事の顛末だ。

 貸し出しカウンターの前で、にこー、と笑顔を向け合う二人。彼女達の間に流れたほんわかとした空気に、カウンターを挟んだ場所に座っていた司書の女性は、微笑ましげに目尻を下げた。



「えっと、これ、貸し出しお願いします」

 ミーナは抱えていた数冊の本を、カウンターに差し出す。司書は緩んだ口元を、少し俯いて隠すようにしながら、貸し出しの手続きを手早く行った。

 多少の待ち時間の後に手渡された本を、ミーナは嬉しそうに頭を下げながら受け取る。借りた本は、「魔道具製作・入門」「紋章と魔道具」など、魔道具の製作に関係したものばかりだ。



「えっと、私はもう帰るけど、リシエちゃんはどうするの?」

「私は、もうちょっと図書室で勉強して行こうと思います」

「そっか。じゃあ、今日は本当にありがとう! また明日ね!」

「ええ、また明日」

 図書室の前でそう言って二人は別れる。ミーナはリシエが図書室に戻るのを見送ってから、両手で抱き締めるようにして本を抱えて、鼻歌交じりで廊下を歩いていった。



 ***



「ただいま、ルーティさん!」

 寮に帰ったミーナは、女子棟に戻る最中にある管理人室にいた寮母の女性――ルーティに、いつものように挨拶する。ちょうどテーブルで、夏茶と呼ばれるお茶を入れていたルーティは、顔を上げて優しげな表情を浮かべた。



「あらあら、ミーナちゃんお帰りなさい。今日はちょっと遅いのね?」

 ルーティはミーナに挨拶を返した後、ふっと時計を見て、いつもよりミーナの帰る時間が遅いことに気付く。時計から彼女に視線を戻し、不思議そうな表情で問いかけた。ミーナはそれに応えるように頷いてから、とたた、と彼女に駆け寄って、それから手に持っていた数冊の本を、見せるように掲げる。



「今日は、図書室で本を探してたんです」

「あらあら、勉強熱心なのね! 何の本なのかしら?」

「魔道具の本です!」

 応えるミーナに、ルーティは娘や孫に向ける親愛に近い感情を乗せた、柔らかい瞳で彼女を見る。ミーナはその視線が何となくくすぐったくて、照れ隠しに頭を掻いた。



「あら、そうだわ!」

 ルーティがふと思いついたように、近くにあった棚から、掌に乗るくらいの小さな水色の袋包みを取り出す。リボンで可愛くラッピングされた包みに、ミーナは小さく首を傾げた。



「これ、ミーナちゃん持って行って? 今日ね、街で買って来たお菓子なの。これ食べて、お勉強頑張ってね!」

「わ、いいんですか!? ありがとうございます!」

 ミーナはちらりとドアが開けっ放しの後ろを伺ってから、その包みを受け取ってすぐにポケットに入れる。

 ミーナと寮母のルーティは仲が良く、お互いにお菓子を送ったり貰ったり、街に出た休日にはお土産を買って来たりする仲だった。

 ただし、誰かに見られればずるいだとか、贔屓だとかいう声が上がる可能性があったので、一応はこっそりと隠れて交流を行っている。とはいえ、寮母と仲が良いのはミーナだけではなく、上級生にも何人かいるので、公然の秘密扱いだが。



「じゃあ、そろそろ私は部屋に戻りますね」

「あらそう? お勉強、頑張ってね?」

「はい、お菓子本当にありがとうございました!」

 ミーナは軽い足取りで踵を返す。ルーティはそれを目で追ってから、再びお茶を入れる作業に戻るのだった。



 ***



「アリアちゃん、ただいまー」

「あ、ミーナちゃんおっ帰りー!」

 ボウガンの手入れをしながらの出迎えに、ミーナは興味深そうな視線をアリアの手元に向ける。彼女に歩み寄り、分解されてバラバラの部品になったそれを、ミーナは覗き込んだ。



「すごいねー、手入れ中?」

「ふふふー、そのとーりっ! 相棒は大事にしなきゃねー」

「相棒かー」

 自慢げに言いながら間接部分に油を差す彼女に、ミーナも「武器の手入れとかした方がいいのかな」と、部屋の壁に立てかけているモーニングスターを見やる。だが、手入れと言っても、棘を磨いたり、グリップ部分に巻かれた布を巻き直すくらいしか思いつかなかったので、結局今はいいや、と投げることにした。そもそも殆ど使っていない。



「そういえばミーナちゃん、その本どうしたのー?」

「あ、図書室で借りてきたんだ」

「試験で1位だったのに、まだ勉強するの!?」

 大げさに驚くアリアに、ミーナは思わず苦笑する。

 つい先日、月末試験の結果が配られたのだが、ミーナは見事満点で1位を取っていた。ちなみにシオンが11位、レグルスが3位だった。特待生は5位以内の成績に入らなければ授業料免除などの様々な優遇措置は打ち切りなので、ミーナも必然的に気合が入っていた。魔特は成績など関係なく全て免除なので、シオンの順位はそれほど高くない。

 アリアについては、後ろから数えた方が早かった、とだけ言っておこう。



「勉強ってわけじゃないよ。ただちょっと、魔道具が作りたくて」

「魔道具?」

「うん、もうちょっとでシオンの誕生日だから、プレゼントにと思って」

 もうすぐ誕生日を迎えるシオンのために、試験が終わってからあれこれとプレゼントを考えていたミーナ。結局、手作りの魔道具を贈ることにしたらしい。



「えぇ!? シオンちゃんの誕生日っていつなの!?」

「8日だよ?」

「わわ、もうすぐじゃんっ! もうっ、教えてよー!」

 アリアの膨れ面での言葉に、ミーナは今気付いた、という表情を浮かべ、両手を合わせて謝る。



「わ、ごめんごめん! アリアちゃんとは、何だかずっと前からの友達のような気がしてて、教えそびれちゃってた!」

「むむー……まあ、忘れてたのはしょうがないかっ! ねえねえ、それよりもさ、シオンちゃんの誕生日に何かやらない?」

「そうだね、お誕生日会やろっか! ……でも、どこでやる?」

「うーん、レグルスくんも呼ぶなら、この部屋じゃ駄目だもんねー。研究室貸してもらう?」

「お爺ちゃん先生に?」

 シオンが仮所属している研究室の先生は、生徒たちの間で「お爺ちゃん先生」と呼ばれていた。見た目そのままのあだ名である。しかし本人も、「ふぉっふぉ」なんて笑って喜んでいたりする。



「そう、お爺ちゃん先生に! きっと先生ならいつもみたいに笑って、貸してくれるよー!」

「じゃあ、明日にでも頼んでみようか?」

「うん、授業が終わったら一緒に行こう!」

「じゃあ、明日ね!」

 誕生日会の計画がひと段落した時、ミーナはふと思い出して、彼女に問いかける。



「そういえば、アリアちゃんの誕生日はいつなの?」

「……桃春の月1日さー」

「うそっ! もうとっくに過ぎてる! っていうか、すごい年始めなんだね?」

「そうなんだー。だから、新年祭と一緒にされちゃって、ちょっと微妙な気持ちになったりして……」

 新年祭は、年末年始の期間である黒の日に、帝都で行われる催しだ。

 クリスマス近くに誕生日を迎える子供が、クリスマスと合わせて一緒にプレゼントを貰うようなものだろうと、ミーナは前世の記憶に照らし合わせて勝手に解釈する。



「それはちょっと残念だね……」

「でしょー? しかも、学園入ってからも、入寮だったり新学期だったりして、微妙な時期だし……」

「確かに……」

 ミーナが同意すると、アリアはさらにどよんと雰囲気を沈ませる。ミーナはそれを慰めるように、彼女に殊更明るく話しかけた。



「じゃあ、来年はちゃんとプレゼントあげるねっ!」

「本当っ? ミーナちゃんからのプレゼント、すっごい楽しみにしてる! そういえばミーナちゃんと、レグルスくんの誕生日はいつなの?」

「わたしは、赤秋の月32日だよ。レグルスは……いつなんだろう?」

 アリアに問われて、ミーナは彼の誕生日を知らないことに気付いた。元々孤児院出身の彼にそんな話題は出しにくかったし、彼の正体を知った今となっては誕生日があるのかどうかすら疑わしい。



「ミーナちゃんも知らないの?」

「うん、聞いたことなかったから。でも、今度聞いておくね」

「わかったー」

 そこで話題が途切れ、アリアとミーナは雰囲気のままに、それぞれ自分の作業に戻る。アリアはボウガンの手入れを行い、ミーナは机で借りてきた本を読み始めた。



 ***



 魔道具には沢山の種類がある。紋章を書いただけの符だって魔道具の一種だし、使用者の魔力を測る水晶だって魔道具の一種だ。つまり、魔法に関わる道具であれば、全て魔道具に含まれるのだ。

 魔道具は、含有魔力の有無や、その形態によって様々な分類がされるのだが、その用途によっても三つの種類に分けられる。戦闘に使われるもの、生活に使われるもの、儀式に使われるもの、の三つだ。

 そして今回ミーナが作ろうとしているのは、生活に使われるものだった。



(どんな魔法にしようかなあ)

 作る物は、ミサンガに決めていた。前世の中学時代に、飾り糸を束ね編んで作るミサンガが流行ったことがあり、その作り方を覚えていたからだ。簡単に作れるし、材料も糸だけで済む。とはいえ、そこにどうやって魔法を組み込むか、なんてのは全く判らないので、これから勉強する必要があったが。



(やっぱり、性別がばれないようにする魔法とか……うーん、それどういう魔法だろ?)

 『変身』や『女体化』などと考えてみたミーナだったが、どれもしっくり来ない。結局、相応しい魔法が考え付かなかった彼女は、ひとまずその思考を中断させた。



(うん、どんな魔法を込めるにしろ、まずは勉強っと!)

 ミーナは図書室から借りてきた本に、真剣に目を通していく。

 夕食の時間になりアリアに呼ばれるまで、ミーナの集中は続くのだった。

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