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きっとよくある転生のお話  作者: れたす
きっとよくある転生のお話
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 桃春の月、34日。



「ねえ、明日の午後、街を見て回らないかしら?」

 学園での生活や、寮での暮らしにも、そろそろ馴染んで来た頃。いつものように談話室の片隅で雑談していた時、ふと思いついたようにシオンが言う。



「あ、明日は授業が午前だけだもんね」

 シオンの提案に、ミーナは得心がいったように言う。それから、うんいいよ、と頷いた。



「私もさんせーい!」

「俺も構わない」

 アリアとレグルスの二人もそれぞれの言葉で同意し、四人で街に遊びに行くことが決定する。



「街かー! いっつも、寮と学園の往復だったから、楽しみだねー!」

「そうだね。まだあんまり見に行ったこと無かったし」

 学園や寮になれないうちは、到底外に遊びに行くことなど考えられなかったため、これが彼女達の、初めてのお出かけになる。



「じゃあ、明日の授業が終わったら行きましょう」

「明日の最後の授業って言うとー……あ、戦闘学か!」

「なら、早く終わりそうだね」

 ミーナのクラスの担当でもあるサヴェイルは、授業を早く終わってくれることが多い。ミーナたちは明日の街巡りを楽しみにしながら、再び他愛も無い雑談に戻るのだった。



 ***



「えー、武器にはこの様な種類がある。魔法使いは紋章を必要とすることもあって、半分くらいの奴は杖を持ってるが、別の武器を持っていることもままある。ちゃんと対処法を覚えておけ」

(今日に限って……)

 黒板の上に掲げられた時計の針と睨めっこしながら、ミーナは小さく溜息を吐く。今日のサヴェイルは、珍しく定時まで授業をやるつもりらしい。いつもは、大体五分前、早いときで十五分以上早く終わってくれるのだが。

 授業は一コマ一時間で、一年生の内は一日四コマ程度。三学年までは必修科目が多く、授業数は増える一方だが、四学年からは選択授業が多くなるので、全てを学ぼうとしない限りは授業の数は減る。



「それと、魔法使いに武器なんかいらないと思う奴もいるかもしれないが、接近戦になった時や、魔法が使えなくなった時のために、杖で良いから、一つくらいは持っておけよ」

 戦闘学は、文字通り戦いを学ぶための授業だ。武器の種類やその扱い方から、効率よく魔法を運用し魔物を倒す方法、外敵から身を守る方法などを学ぶ。魔法という強大な力を学ぶ以上、避けて通れないものだという。

 貴族にはさして必要のない授業のような気もしたが、暗殺を防いだりと役に立つ場面は意外に多いらしい。それに、貴族と言っても、次男以下だったりで家督を継げない者も多い。そんな者たちは軍を目指すので、結局は必要な授業なのだ。



 サヴェイルの言葉をぼんやりと聞き、ノートに書き写しながら、時間が過ぎるのをじっと待つミーナ。

 やがて鳴り響いたチャイムに、ぱあっと顔を明るくさせる。



「ん、じゃ今日はこの辺で終わりなー。月末の試験に出るから、ちゃんと復習しておくように。以上ー」

 サヴェイルはそれだけ言い残して、いつものようにさっさと講義室から去っていった。



「ふあー、やっと終わったー! もー、つっかれたよー!」

 ミーナの隣で、飽き飽きとした表情を隠さずに浮かべていたアリアが、ノートや教科書をぽいぽいと鞄に放り込んでいく。それから指を組んで、んー、と気持ち良さそうに身体を伸ばした。

 アリア以外の三人も、それぞれノートと教科書を鞄にしまう。



「よしよし、皆、道具はしまったねー!? じゃあじゃあ、街に繰り出そうじゃないかっ!」

 アリアが声高に言う。彼女の心底晴れ晴れとした表情に、ミーナは思わず笑ってしまった。



 **



「今日に限って時間通りなんて」

「ホントだよー。もー、疲れたっ!」

「五分とか、十分の差なんだけどねー。気分が全然変わるよね」

 街の中心へと移動する道すがら。ミーナたちは先程までの戦闘学の授業について、あれやこれやと喋繰りあっていた。

 今までの内容を纏めれば、九割五分は時間通り授業を行った先生への愚痴で、残りは申し訳程度に授業の内容だ。



「あ、そうだ。授業でさ、サヴェイル先生が言ってたよね、自衛出来るように武器を持っておけって」

「そういえばそうね」

「ん? 言ってたっけー?」

 アリアがとぼけるでもなく首を傾げる。ミーナは本気で聞いてなかったらしい彼女の仕草に、思わず苦笑気味に頬を掻いた。



「みんなは、どんな武器にするの? やっぱり杖?」

 ミーナは、他の三人に問う。

 普通の杖というのもつまらないかなあ、なんて思うのだが、未だに刃物が苦手なため、剣の類は使えない。他人の意見を聞いて、参考にしようと目論むミーナだった。



「私は弓かな?」

「思い切り遠距離の武器じゃない?」

 訝しげにシオンが言う。ミーナやレグルスも、口にはしないものの、不思議そうな表情で彼女を窺い見た。

 アリアはそれを受け、そうだね、と笑って同意する。



「でも、武器の中ではやっぱり弓が一番慣れてるし、魔法と組み合わせても面白そうだし!」

「慣れてる?」

「うん、お父さん直伝なのさっ!」

 アリアいわく、彼女の父親がまだ貧乏商人だった時代。

 彼は、弓で魔物を仕留めて飢えを凌いだのだという。また、そうしていく中で必然的に、野生の勘も磨かれていき、そのお陰か今では商人として、そこそこに成功を収めているらしい。



「だから、私たちも成功するようにって、お父さんから弓を教わってるわけ!」

「“たち”?」

「ん? あれ? 言ってなかったっけ? 双子の弟がいるって」

「え、聞いてないよ!?」

 初耳な情報に、ミーナが驚きに目を丸くする。彼女の性格から、一人っ子だと思ってた、とは流石に口にしなかった。



「弟さんは学園に通っているの?」

「んーん。イリアは……あ、弟のことね? イリアは、お父さんのとこで商人修行中。跡取り息子だからねー!」

 そう語るアリアの表情は、緩んでいた。よほど弟であるイリアのことが好ましくて仕方がないらしい。

 ミーナは、双子かあ、と、一度も生では見たことのない存在に思いを馳せる。TV番組なんかでは良く見たけれど、実際に近くにはいなかったのだ。



「まあまあ、私のことはいいじゃないかっ! それで、話は戻すけど、シオンちゃんはどんな武器にするの?」

「私? そうねえ、やっぱり剣かしら。憧れよね、大剣ぶんぶん振り回すのって」

「……そう?」

 そんな憧れ、普通はないと思う。ミーナは内心でこっそり突っ込んだ。



「あ、そういえばレグルスも剣だよね」

「ああ」

「おお、そうなのかい!? さすがレグルスくん、男前!」

「私も剣にするわ」

 どうやらシオンの持ち武器は剣で決まりらしい。あからさまな対抗心から来る選択に、ミーナは小さく吹き出した。

 シオンは彼女の反応に、むう、と頬を膨らませる。ミーナは小さく笑って誤魔化すことにした。



「それで、ミーナはどうするの?」

「んー、私?」

 問われて、さっきからずっと考えていたそれを煮詰めるために、じっくりと考え込む。

 剣なんかの刃物系は、トラウマがあるので無理。弓矢は、今から練習しても使い物になるまで時間が掛かる。杖は何だか面白みに欠ける。じゃあ他には何があるだろう、と授業を思い出しながら考えて、不意にひらめいた。



「……モーニングスター?」

 結局、鈍器だった。

 しかもこころなし、魔法使いが通常持つ杖より、棘がついている分えげつない。



「あ、うん、そうしよう。攻撃力も申し分ないし」

 いくらミーナが幼く、力が無いとは言え、棘のあるそれで何回も滅多打ちにすれば、ちゃんと敵にダメージを与えられるだろう。

 剣に殺傷性は及ばないかもしれないが、あくまで自衛手段だ。



「それに、鈍器なら持ってても恐くないし」

 うんうん、と頷くミーナに、アリアがぽつり。



「むしろ、恐いかなー……?」

「え、何が?」

 ミーナ以外の脳裏には、にこりと笑いながら敵を殴り殺し、血と肉片を飛び散らせる彼女の姿が映し出されていた。



 ***



 ミーナたちの足で歩いて30分ほどで、賑わいがある市場の区画まで辿り着く。まだ市場の中心からは外れているが、その場所には十分活気が満ちており、それだけでミーナはわくわくとした。

 行き交う人を呼び込む声。何ともいい難い薬品の臭い。並べられた色とりどりの雑貨。人が行き交うたびに起こる、頬を撫でる様な風。そして、どこかから漏れ聞こえる女性の嗚咽。



(……え? 泣き声?)

 ミーナはきょとんと目を丸くして、辺りをきょろきょろと見回す。どこからこの声は聞こえるのだろうと耳を澄ましていれば、それは薄暗い路地から聞こえるのだと気付いた。



「どうしたの、ミーナ?」

 ミーナの落ち着かない様子に気付いたシオンが、彼女に問いかける。



「えっと、あっちから泣き声が聞こえてきて……」

 路地の方を指差して、ミーナはふらふらとそちらへと歩き出す。レグルスは特に逡巡した様子も無く、それを追う。シオンとアリアは顔を見合わせてから、一緒にそちらの方へと向かった。


 ミーナがそこに足を踏み入れると、一人のすすり泣く女性がそこには居た。蹲る彼女は、白い羽と薄緑の髪を持つ亜人だった。しかし、身に纏っているのは薄汚れたボロだったし、白の羽は汚れて、所々くすんだ灰色に染まっている。

 ミーナの後ろに居たアリアは、女性の持つ羽に一瞬ぎょっと目を丸くして、落ち着かない様子でそわそわとし出した。



「あの……どうしたんですか?」

 ミーナがさめざめと泣く亜人の女性に、おずおずと声を掛ける。女性はびくりと大きく肩を揺らした後、緩慢な動作で顔を上げた。その目元は、涙で濡れている。



「あ……、や……わた、しは……」

「……大丈夫ですか?」

 女性はびくびくと怯え、唇を震わせる。殴られるとでも思ったのか、庇うように両手で頭を抱えた彼女を、ミーナはしゃがんで覗きこんだ。



「そんなに怯えないでください。泣き声が聞こえたから、何かと思って見に来てしまっただけなので。……迷惑でしたらすぐに去ります、ごめんなさい」

「……あ、……えう……」

 女性の目から、雫が溢れ出す。

 そして、立ち上がろうとしたミーナに縋るように、口を開いた。



「助けて、私の子を、助けて……!」

 その鬼気迫る形相で紡がれた言葉に、ミーナはただただ目を丸くした。

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