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きっとよくある転生のお話  作者: れたす
きっとよくある転生のお話
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 入学式から二日。学園での初めての授業の日がやってきた。



「あーっ、楽しみぃーっ!」

「わくわくするね」

「そうね」

 前日は、学園説明という名の元に長時間の集会を余儀なくされたミーナたちは、憂さを晴らすように、そうやってはしゃぐ。寮の廊下には他にも生徒がいたが、皆同じように浮き足立っていたため、文句を言う様子はない。


 記念すべき初授業は、魔法学園の名に相応しく、魔法実践学Ⅰだ。これは一学年の生徒の必修科目で、全員が出席することになっている。

 理論や魔力操作も何もかも取っ払って一番最初に実践からというのもどうかとミーナは思ったが、長年の伝統だからと聞かされれば、それ以上文句も言えない。



「レグルス、おはよっ!」

「ああ」

 玄関先でレグルスと合流する四人。



「レグルス君、今日も寡黙でかっこいいねー!」

 アリアがからかうようにレグルスに絡む。特に悪感情を持って言っているわけではない事を理解している彼は、微妙に迷惑そうにしながらも、それを黙殺した。


 それから四人は、授業を受けるため、実習場と呼ばれる施設へ向かう。正式名称は第一魔法演習場だ。実習場は校舎から少し離れた野外にあり、ミーナたちは時間に余裕を持って移動する。



「あー、本当に初めての魔法楽しみだなっ!」

 アリアが浮ついた様子で言う。その言葉に、シオンが同意するように続けた。



「私も楽しみだわ。ねえ、ミーナが初めて魔法を使った時、どんな感じだった?」

「あ、それ私も聞きたい聞きたいっ!」

「んー、私?」

 二人に問われて、ミーナは首を傾げて考える。

 初めて魔法を教えて貰った時、色々と問題も湧き出してきて、どうしようなんて思ったけれど。それでも、やっぱり。



「……楽しかった、かな」

 ミーナははにかんで言う。

 漢字に英語にカタカナ。そんな魔法有りなの、なんて何度も思ったけれど。

 それでもやっぱり、魔法は楽しいのだ。


 彼女の柔らかな表情に、シオンとアリアがつられたように笑う。



「あははは、断然楽しみになってきちゃったー! 早く行こうよ、はーやーくー!」

 アリアが唐突に駆け出す。三人も小走りになって彼女を追いかけた。



 ***



 実習場には、既に五~六十人ほどの生徒がいた。ミーナたちはそれに紛れながら、授業の始まりまで雑談を交わす。



「ねえ、ミーナちゃん。一番最初にやる魔法って何だと思う?」

「たぶん『一≪ファースト≫』じゃないかな?」

「わわ、今なんて言ったの!? えっと……ふぇすとぃ? ふぇすぅと? なんか全然違うー……」

 アリアはミーナの言った呪文に驚きながら、真似しようと何度か奮闘する。だが、発音が全然異なるせいで、どうにも上手くいかないようだ。

 シオンもアリアと同じように、呪文の練習を口に出して始める。



「≪ファースト≫」

「ふぁえすと?」

「ふあすっと?」

「違うー。≪ファースト≫」

「むむむ……ふぁすとぅー!」

「ふぁあしと……うーん、違うわね」

「でも段々近くなってきたよ? もうちょっとやれば、言えるようになると思う」

 ミーナは肩を落とす二人をそうやって慰める。アリアは悔しそうにしながら何度も連呼し、シオンはうぅんと首を傾げながら一回を大事にするように言う。

 練習の仕方にも性格の違いが出るんだななんてミーナが考えていると、ふとシオンがくすくすと笑い出した。



「どしたの、シオン?」

「何だか、昔を思い出すわね。私がミーナに発音教えてあげた頃のこと」

「あ、そうだね。あの時もこんな感じだったよね。立場は逆だけど」

 二人で一緒にくすくすと笑う。アリアが不思議そうにしていたので、昔は発音が上手に出来なかったのだと、ミーナが教えた。



「へえ、意外だねー? 今は全然そんなことないし」

「シオンに一年くらいずっと教えてもらってたから」

「ふふ、懐かしいわ」

 シオンは目を細める。あの頃はレグルスも居なくていい時代だった、なんてどこか黒いことを考えているなんて、ミーナたちは露知らず。



「だから、呪文の発音は私が責任もって教えるからね、シオン! あ、アリアちゃんにも勿論!」

「おおー、お願いしますミーナ先生!」

 二人はそんな風にじゃれあうのだった。



「来た」

「え? あ、ホントだ」

 不意をつくレグルスの言葉に、ミーナたちが入り口の方を見る。そこに居たのは、深緑の髪を長く伸ばした男の人だった。優しげな笑顔を浮かべ、男はこちらに近付いてくる。



「こんにちは、皆さん」

 柔らかい声で男が言う。優しそうな人だな、とミーナは思った。



「僕は魔法実技を担当する、オルト・エンティアです。実技は六年間ずっとありますから、皆さん宜しくお願いしますね」

 ほんわかとした自己紹介に、ミーナはほんのりと癒される。周りにはあまりいなかったタイプの人だなあ、と彼女は癒し系の出現をひっそりと喜んだ。



「では、早速ですが始めましょうか。『的≪ターゲット≫』」

 オルトがするりと指を動かして魔法を使うと、5メートルほど先に的が現れる。人型をしたそれは、一定間隔に10個ほど並んでいた。

 ミーナはオルトが使った影紋章魔法に思わず、おお、と感心する。熟練した魔法使いしか使えないと聞いていたので、それだけで彼が能力ある魔法使いだと理解したためだ。



(やっぱり、学園だったら使える人も多いのかな?)

 もし生徒にもいるのであれば、それに混じって気兼ねなく練習できるのだけど。ミーナはぼんやりと考える。



「今日は『一≪ファースト≫』という魔法を練習しましょう。この魔法は、魔力を一つの弾にして打ち出す魔法です」

 オルトが、すい、と指を動かして魔法を発動させる。その魔力弾は的に吸い寄せられるように、真っ直ぐに空中を走る。そして、がこん、と的のど真ん中に命中した。

 魔法を使えないクラスの生徒達からは、感嘆の声を上げる。



(堅実な感じだなー。さすが学園の教師って感じ)

 ミーナもまた、そんな風に感心するのだった。



「紋章は簡単ですから、呪文から練習しましょうね。では、僕のあとに続いて下さい、≪ファースト≫」

 生徒達はオルトの後に続く。ミーナも同じく、呪文を唱えた。とは言っても、彼女は練習する必要もないのだが。



「ふぁーしゅと」

「ふぉーすと」

(惜しい!)

 シオンとアリアの口から出る呪文に、ミーナは思わず内心で指を鳴らす。先程の練習の甲斐あり、段々と正解に近付いているようだ。



「≪ファースト≫」

 レグルスは魔法が使えると言うだけあって、さらりと呪文を口にしていた。とは言っても、彼が魔法を使ったところを、ミーナやシオンは一度も見たことがなかったが。



(……そういえばレグルスって何で魔法使えるんだろう? 剣術は自己流だとしても、魔法は誰かに教えてもらわないと無理だし。孤児院のシスが魔法使いなのかな?)

 ミーナは内心で疑問に思う。今度機会があれば、彼に聞いてみようと思った。



「はい、そこまで。皆さん、随分上達したと思います。では、実際に実践してみましょうか。十列に並んでください」

 オルトの指示に従い、生徒達はぞろぞろと動き出す。ミーナたちも移動し、レグルスとミーナ、アリアとシオンがそれぞれ同じ列につく。後ろから二番目と、一番後ろだ。



「一番前の人には、紋章を描いた札を渡します。自分の番が終わったら、後ろに回してあげてくださいね」

 一番前の生徒達は、それを受け取って、的へと視線を向ける。



「では、始めてください」

 オルトの言葉と共に、一斉に魔法を放つ。十人の内、六人は的まで届き、二人はへろへろとした魔力弾で途中で地面に落ち、二人は不発で終わっていた。魔法が的まで届いた生徒は余裕な笑みを浮かべる。それに相反するように、へろへろながら発動した二人はどこかホッとしたように口元を緩め、不発に終わった二人はしょぼんと肩を落とした。



「出来なかった人は、もう一度呪文を確認してくださいね。≪ファースト≫ですよ。はい、ではもう一度」

 再び、一斉に魔法を放つ。今度は、的まで届かないまでも全員が魔力弾を出すことが出来たようだ。



「はい、良く出来ました。この魔法は基礎の基礎ですから、的に届くよう、しっかりと練習するようにしてくださいね。では次」

 前から順番に、生徒達が魔法を実演していく。一度目で成功する割合は、的に届く届かないを考えなければ、約半分くらいだろうか。自身の中にある魔力を意識しなくとも、一応魔法は発動するはずなので、やはり発音がネックなのだろうな、とそれを見ながらミーナは思った。



「はい、次の方」

 そして暫く他の生徒達の実技を見ていれば、ようやくレグルスとアリアの番がやってきた。ミーナは二人に頑張れ、と小さく手を振って応援する。



「はい、始めてください」

 その言葉と共に、全員が魔法を放つ。どうやら今回は全員優秀らしく、全員が魔力弾を出した。



「アリア、初めてなのに凄いわね」

 シオンが呟く。同意を求めるようにミーナを見たが、しかしその時はレグルスの魔法に目を奪われていて、彼女は応えることが出来なかった。



(すご……)

 初めて見るレグルスの魔法は、とても綺麗だった。威力が変化したわけではないので普通ならばわからないだろうが、魔力操作をいくらか修練しているミーナだからわかる。あれは、かなり魔力操作に長けている者が使う魔法だと。ミーナ自身も魔力操作は得意なほうだが、レグルスには敵わないだろうと思う。


 オルトもそれに気付いたのか、一瞬驚いたように目を瞬かせ、すぐに笑顔でレグルスを見る。彼はその視線を受けても、知らん振りするように表情を変えなかった。



「この組は、とても優秀なようですね」

 そんなオルトの言葉に、生徒達は自慢げに笑う。しかしミーナには、彼が本当に言いたいことが判っていたので、何となく苦笑してしまった。



「では、次、最後ですね」

 ミーナは立ち上がり、レグルスから札を受け取る。



「レグルス、すごいね」

「何のことだ」

 ここまで来てしらばくれるレグルスに、ミーナは肩を竦めてから、所定の位置まで移動する。



「では、始めてください」

 さて、ここで一つ薀蓄を語ろう。


 魔法の威力を上げるためには、二つの方法がある。

 一つは、魔力を効率的に運用すること。

 そしてもう一つは、単純に込める魔力を増やすことだ。

 やり方の違いはあるが、大別すると上記に分けられる。



 では、ここで問題です。

 Q、必要以上過ぎる魔力が込められた魔法はどうなるでしょう。

 A、物凄い威力を持つ。



「……っ!?」

 ミーナは、瞬間的に、ぞわりと背筋に嫌なものを感じた。手を止めてシオンを見ると、そこからは有り得ない威圧感を持つ魔力弾が放たれている。


 本来、『一≪ファースト≫』に必要な魔力量は1だとしよう。この時、シオンが使った魔法に込められた魔力は、1000を超えていた。人の千倍以上の魔力を持つシオンにとって、それも仕方がなかったのかもしれなかったが。



「『守護≪プロテクト≫』!」

 オルトが咄嗟に魔法を放つ。札を使っていたあたりを見ると、どうやらこの展開を予想していたのだろう。光の壁が、生徒達を覆う。


 そして、へろへろと放物線を描いたシオンの魔力弾は地面に着弾し、轟音と共に深く地面を抉った。



「きゃああ!?」

「何だ!?」

「わわっ、何々ー!? 敵襲!?」

 生徒達から漏れる悲鳴。ぱらぱらと降り注ぐ地面の破片。

 幸い、オルトの魔法が生徒達を守ったため怪我人はいないようだが、殆どの人間はパニックに陥る。落ち着いていたのは、ミーナとレグルスとオルトくらいだ。



「……」

 シオンは唖然とした表情で、ぱくぱくと口を仰ぐ。まさか、こんな威力が出るなんて、全く思いも寄らないことで。



「シオン……」

 ミーナは一人不安げに、その横顔を見つめるのだった。

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