【怪談注意】『裏門のルール』
2026年企画作品ホラー音です
よろしくお願いします!
私の高校には奇妙なルールがあった。
〇〇県立✕✕高校。
いわゆる普通の、少し田舎にある高校だ。
偏差値は中の下。
部活動もこれといって、たいした成績があるわけでもない。
校則は少し厳しめ。
『染髪禁止。』
『アルバイトの禁止。』
『不純異性交遊の禁止』
生徒手帳の欄に書かれた内容は、わりとどこにでもありそうな文言で埋まっている。
ただ、最後のだけが、少し変わっている。
『裏門を通る時は声を出してはいけない』
「おはよーカンナ。」
席に着くなり、友人が元気よく挨拶してくる。
「おはよー。」
「ねえねえ知ってる?クミったら、バイト始めたらしいよ。」
「え!?バイト!?」
思わず大きな声が出てしまった。
「しーっ!聞こえたらマズいって!」
しまった。と思ったが、幸いまだ先生は来ていない。
私は声をひそめて言う。
「ご、ごめん。でも、バイトって禁止だよね?」
「ほんとだよね。校則にも載ってるし。バレたらヤバいんじゃない?」
なんのバイトだろう。喫茶店?コンビニ?いずれにしても、こんな田舎じゃあすぐに見つかりそうなものだ。
それよりも怖いのは、見つかったらどうなるのか、だ。
「バレたらどうなるの?退学?」
「さぁ?そこまでは重くないんじゃない?生徒手帳に載ってるかもよ。」
二人は胸の内ポケットから生徒手帳を出すと、いくつかめくり校則の欄を見た。
「あー…そこまでは書いてないか。」
「なんか手帳の中身初めて見たかも。こんなの書いてあったんだ。」
生徒手帳が定期入れを兼ねているので携帯しているが、よほどの暇人でもない限り、こんなもの内容までは目を通さない。
「髪染めんのダメ、バイトもダメ、うへぇ、スカート丈の長さまで書いてあるよ。」
「なにこれ、一番最後。」
二人は顔を一瞬見合わせると、また目を落とし込んで声に出して読んだ。
「裏門を通る時は声を出してはいけない。」
「どゆこと。」
学校の裏門。
たしかに存在は知っている。ただ、ほとんどの生徒は正門を通るし、裏門を通る必要も目的もない。
それに、裏門を使ったらどの道に出るのかもわからない。
「行ったことはないね。」
「鍵閉まってるんじゃね?」
普段は人も通らない薄暗そうな校門を想像すると、少し身震いした。
「あ、ねえねえ、帰りそっちから帰ってみよ?」
「え?やだよー。どこ出るかわかんないじゃん。」
「出て道わかんなきゃ戻ってくればいいって。探検しようよ。」
友人は好奇心に駆られ、眼を輝かせている。
「じゃあ…行くだけだよ。」
「そうこなくちゃ。」
放課後。
私たちは約束通り、裏門があるらしい場所へ向かった。
校舎の裏手へ回ると、普段はあまり人の来ない場所だけあって、急に静かになった。
運動部の掛け声も、吹奏楽部の音も、校舎の向こうに遠ざかっていく。
やがて見えてきたのは、古びた鉄製の門だった。
ところどころ錆びついた金具。
門の脇には雑草が伸び放題になっている。
門の先の暗がりを見ると、その向こうには細い道が続いていた。
「……ここ?」
「たぶん。」
二人で門の前に立つ。
思っていたより、ずっと普通だった。
もっと不気味なものを想像していたせいか、少し拍子抜けしてしまった。
「なんか、普通だね。」
友人が門に手をかける。
ギィィ……。
錆びた蝶番が、嫌な音を立てた。
「うわ、やっぱ古いな。」
「ちょっと、怖いこと言わないでよ。」
「怖がってんの?」
「……少しだけ。」
意を決して、二人で門を通る。
一歩、また一歩進む。
門から外は細い道があり、その両側には、背の高い草が生い茂っている。
けれど、それ以外は何もない。
遠くには住宅街が見えるし、道の先には普通の道路もある。
「ほら、何も起きないじゃん。」
私が言うと、友人はため息混じりに言った。
「だから言ったでしょ。こんなの、ただの変な校則だって。」
「だよね。」
私は笑った。
そのまま門の外側から内側を見た時だった。
「……今、何て言った?」
「え?」
友人が立ち止まっている。
「いや……今の声。」
「私の声でしょ?」
「……違う。」
友人の顔から、さっきまでの笑顔が消えていた。
「じゃあ、誰の声?」
「え……?」
その瞬間。
門の向こう側から、声がした。
「ほら、何も起きないじゃん。」
私の声だった。
紛れもなく、私自身の声。
けれど、声は遠くから、別の場所から喋っているように聞こえる。
友人と顔を見合わせる。
風が草を揺らす音だけが聞こえていた。
「……聞いた?」
友人が小さな声で尋ねる。
……私は答えられなかった。
門の内側。学校の敷地内。
さっきまで誰もいなかったはずの場所に、何かが立っている。
人影。
暗くて、顔までは見えない。
でも、こちらを見ている。
私たちは動けなかった。
すると、その人影が一歩だけ前に出た。
そして、もう一度。
「ほら、何も起きないじゃん。」
同じ声。
同じ言葉。
私の声。
友人が私の腕を掴んだ。
「……喋らないで。」
「え?」
「もう、絶対に喋らないで。」
その瞬間、私は思い出した。
生徒手帳に書かれていた、あの一文。
『裏門を通る時は声を出してはいけない』
ただの変な校則だと思っていた。
でも。
もし、あのルールが校則なんかじゃなかったとしたら。
門の向こうにいる「あれ」は、何なんだ。
私の声を真似しているだけなのか。
それとも――。
人影が、もう一歩近づいた。
その足元には、光がなかった。
まるでそこだけ、夜よりも暗い何かが広がっているようだった。
私は息を殺した。
声を出してはいけない。
絶対に。
そう思った瞬間。
門の鉄格子の隙間から、黒いものがゆっくりとこちらへ滲み出してきた。
闇だった。
ただの暗闇じゃない。
何も見えないのではない。
そこには、何も「ない」。
音も。
光も。
そして――。
私たちの姿さえも。
気がつくと私たちは、門の内側にいた。
友人は私の腕を掴んだまま、動かない。
さっきまで門の外側にいたのに、いつの間にか学校の敷地内に戻っていたのだ。
「あれ、私たち…。」
友人がようやく口を開く。
私も周りを見渡す。
「今の…何だったんだろうね。」
お互いに顔を見渡すと、ぶるっと身体が震えた。
「ね、ねえ!帰ろ!早く!」
「そうしよう!正門から!」
何かいけないことをしてしまった。
私は駆け足で正門まで向かうと、そのまま逃げるように帰宅した。
次の日の朝。
教室に入ると、友人はすでに席に座っていた。
いつもの教室。
いつもの机。
しかし、なにか、昨日までとは違う、得体のしれない何かを感じた。
「おはよ、カンナ。」
「……おはよう。」
「どうしたの?」
「いや……なんでもない。」
昨日の友人と同じ顔。
同じ声。
同じ仕草。
何もおかしくはない。
でも昨日、門の向こうから聞こえた声。
「ほら、何も起きないじゃん。」
あれは確かに、自分の声だった。
友人は私の肩を叩きながら言う。
「ねえ、今日も帰り、裏門行く?」
とんでもない提案。
昨日あれだけのことがあったはずなのに。
「……正門から帰ろうよ。」
友人は少し黙ったまま、表情を変えないままこちらを見つめている。
「どうして?」
「……え?」
「だって私たち、昨日もう裏門を通ったじゃん。」
「……何言ってるの?」
「だって私たち、昨日もう裏門を通ったじゃん。」
「……」
私は友人の顔をじっと見つめた。
昨日。
裏門で闇に飲まれそうになったとき。
友人はずっと、私の腕を掴んでいた。
「……ねえ。」
「なに?」
「昨日、私の腕……いつ離した?」
友人は不思議そうな顔をした。
「え?」
「ずっと掴んでたよね。」
「うん。」
「じゃあ……」
私は自分の腕を見た。
昨日からずっと、何かがおかしい。
門の内側に戻ったあとも。
正門まで走ったときも。
家に帰ってからも。
ずっと、腕に違和感があった。
まるで誰かに強く握られていたような感覚。
「……昨日からずっと、握ってたの?」
「うん。」
友人は笑った。
「怖かったから。」
「……そっか。」
私は自分の腕をさする。
そのとき。
ふと、肌に残った赤い跡が目に入った。
指の跡。
五本の指が、くっきりと残っている。
「……え?」
私は思わず腕を凝視した。
昨日、友人に掴まれていた場所。
確かに五本の指の跡がある。
でも。
おかしい。
指の跡が――
内側から付いている。
「……カンナ?」
友人の声。
「なに?」
振り返る。
友人が、不思議そうな顔で私を見ている。
そして。
「今の声……誰?」
私は何も答えられなかった。
教室の後ろ。
誰もいないはずの場所から
「ほら、何も起きないじゃん。」
私の声がした。
いかがでしたでしょうか
単純な言葉遊びです
門構えに声、いわゆる音をいれてしまった。
あなたは門に何をいれますか




