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【怪談注意】『裏門のルール』

作者: さくらもち
掲載日:2026/08/20

2026年企画作品ホラー音です

よろしくお願いします!

私の高校には奇妙なルールがあった。



〇〇県立✕✕高校。


いわゆる普通の、少し田舎にある高校だ。


偏差値は中の下。


部活動もこれといって、たいした成績があるわけでもない。



校則は少し厳しめ。


『染髪禁止。』


『アルバイトの禁止。』


『不純異性交遊の禁止』



生徒手帳の欄に書かれた内容は、わりとどこにでもありそうな文言で埋まっている。


ただ、最後のだけが、少し変わっている。



『裏門を通る時は声を出してはいけない』





 

「おはよーカンナ。」


席に着くなり、友人が元気よく挨拶してくる。


「おはよー。」


「ねえねえ知ってる?クミったら、バイト始めたらしいよ。」


「え!?バイト!?」


思わず大きな声が出てしまった。


「しーっ!聞こえたらマズいって!」


しまった。と思ったが、幸いまだ先生は来ていない。

私は声をひそめて言う。


「ご、ごめん。でも、バイトって禁止だよね?」


「ほんとだよね。校則にも載ってるし。バレたらヤバいんじゃない?」


なんのバイトだろう。喫茶店?コンビニ?いずれにしても、こんな田舎じゃあすぐに見つかりそうなものだ。

それよりも怖いのは、見つかったらどうなるのか、だ。


「バレたらどうなるの?退学?」


「さぁ?そこまでは重くないんじゃない?生徒手帳に載ってるかもよ。」


二人は胸の内ポケットから生徒手帳を出すと、いくつかめくり校則の欄を見た。


「あー…そこまでは書いてないか。」


「なんか手帳の中身初めて見たかも。こんなの書いてあったんだ。」


生徒手帳が定期入れを兼ねているので携帯しているが、よほどの暇人でもない限り、こんなもの内容までは目を通さない。


「髪染めんのダメ、バイトもダメ、うへぇ、スカート丈の長さまで書いてあるよ。」


「なにこれ、一番最後。」


二人は顔を一瞬見合わせると、また目を落とし込んで声に出して読んだ。


「裏門を通る時は声を出してはいけない。」


「どゆこと。」


学校の裏門。


たしかに存在は知っている。ただ、ほとんどの生徒は正門を通るし、裏門を通る必要も目的もない。

それに、裏門を使ったらどの道に出るのかもわからない。


「行ったことはないね。」


「鍵閉まってるんじゃね?」


普段は人も通らない薄暗そうな校門を想像すると、少し身震いした。


「あ、ねえねえ、帰りそっちから帰ってみよ?」


「え?やだよー。どこ出るかわかんないじゃん。」


「出て道わかんなきゃ戻ってくればいいって。探検しようよ。」


友人は好奇心に駆られ、眼を輝かせている。


「じゃあ…行くだけだよ。」


「そうこなくちゃ。」






放課後。

私たちは約束通り、裏門があるらしい場所へ向かった。


校舎の裏手へ回ると、普段はあまり人の来ない場所だけあって、急に静かになった。


運動部の掛け声も、吹奏楽部の音も、校舎の向こうに遠ざかっていく。


やがて見えてきたのは、古びた鉄製の門だった。


ところどころ錆びついた金具。

門の脇には雑草が伸び放題になっている。


門の先の暗がりを見ると、その向こうには細い道が続いていた。


「……ここ?」


「たぶん。」


二人で門の前に立つ。


思っていたより、ずっと普通だった。

もっと不気味なものを想像していたせいか、少し拍子抜けしてしまった。


「なんか、普通だね。」


友人が門に手をかける。


ギィィ……。


錆びた蝶番が、嫌な音を立てた。


「うわ、やっぱ古いな。」


「ちょっと、怖いこと言わないでよ。」


「怖がってんの?」


「……少しだけ。」


意を決して、二人で門を通る。


一歩、また一歩進む。


門から外は細い道があり、その両側には、背の高い草が生い茂っている。


けれど、それ以外は何もない。


遠くには住宅街が見えるし、道の先には普通の道路もある。


「ほら、何も起きないじゃん。」


私が言うと、友人はため息混じりに言った。


「だから言ったでしょ。こんなの、ただの変な校則だって。」


「だよね。」


私は笑った。


そのまま門の外側から内側を見た時だった。


「……今、何て言った?」


「え?」


友人が立ち止まっている。


「いや……今の声。」


「私の声でしょ?」


「……違う。」


友人の顔から、さっきまでの笑顔が消えていた。


「じゃあ、誰の声?」


「え……?」


その瞬間。


門の向こう側から、声がした。


「ほら、何も起きないじゃん。」


私の声だった。


紛れもなく、私自身の声。


けれど、声は遠くから、別の場所から喋っているように聞こえる。


友人と顔を見合わせる。


風が草を揺らす音だけが聞こえていた。


「……聞いた?」


友人が小さな声で尋ねる。


……私は答えられなかった。


門の内側。学校の敷地内。


さっきまで誰もいなかったはずの場所に、何かが立っている。


人影。


暗くて、顔までは見えない。


でも、こちらを見ている。


私たちは動けなかった。


すると、その人影が一歩だけ前に出た。


そして、もう一度。


「ほら、何も起きないじゃん。」


同じ声。


同じ言葉。


私の声。


友人が私の腕を掴んだ。


「……喋らないで。」


「え?」


「もう、絶対に喋らないで。」


その瞬間、私は思い出した。


生徒手帳に書かれていた、あの一文。




『裏門を通る時は声を出してはいけない』




ただの変な校則だと思っていた。


でも。


もし、あのルールが校則なんかじゃなかったとしたら。


門の向こうにいる「あれ」は、何なんだ。


私の声を真似しているだけなのか。


それとも――。


人影が、もう一歩近づいた。


その足元には、光がなかった。


まるでそこだけ、夜よりも暗い何かが広がっているようだった。


私は息を殺した。


声を出してはいけない。


絶対に。


 

そう思った瞬間。


 

門の鉄格子の隙間から、黒いものがゆっくりとこちらへ滲み出してきた。


闇だった。


ただの暗闇じゃない。


何も見えないのではない。


そこには、何も「ない」。


音も。


光も。


そして――。


私たちの姿さえも。


挿絵(By みてみん)






気がつくと私たちは、門の内側にいた。


友人は私の腕を掴んだまま、動かない。


さっきまで門の外側にいたのに、いつの間にか学校の敷地内に戻っていたのだ。


「あれ、私たち…。」


友人がようやく口を開く。


私も周りを見渡す。


「今の…何だったんだろうね。」


お互いに顔を見渡すと、ぶるっと身体が震えた。


「ね、ねえ!帰ろ!早く!」


「そうしよう!正門から!」


何かいけないことをしてしまった。


私は駆け足で正門まで向かうと、そのまま逃げるように帰宅した。






次の日の朝。


教室に入ると、友人はすでに席に座っていた。


いつもの教室。

いつもの机。


しかし、なにか、昨日までとは違う、得体のしれない何かを感じた。


「おはよ、カンナ。」


「……おはよう。」


「どうしたの?」


「いや……なんでもない。」


昨日の友人と同じ顔。

同じ声。

同じ仕草。


何もおかしくはない。


でも昨日、門の向こうから聞こえた声。


「ほら、何も起きないじゃん。」


あれは確かに、自分の声だった。


友人は私の肩を叩きながら言う。


「ねえ、今日も帰り、裏門行く?」


とんでもない提案。


昨日あれだけのことがあったはずなのに。


「……正門から帰ろうよ。」


友人は少し黙ったまま、表情を変えないままこちらを見つめている。


「どうして?」


「……え?」


「だって私たち、昨日もう裏門を通ったじゃん。」


「……何言ってるの?」


「だって私たち、昨日もう裏門を通ったじゃん。」


「……」


私は友人の顔をじっと見つめた。

昨日。

裏門で闇に飲まれそうになったとき。

友人はずっと、私の腕を掴んでいた。


「……ねえ。」


「なに?」


「昨日、私の腕……いつ離した?」


友人は不思議そうな顔をした。


「え?」


「ずっと掴んでたよね。」


「うん。」


「じゃあ……」


私は自分の腕を見た。

昨日からずっと、何かがおかしい。

 

門の内側に戻ったあとも。

正門まで走ったときも。

家に帰ってからも。

 

ずっと、腕に違和感があった。

まるで誰かに強く握られていたような感覚。


「……昨日からずっと、握ってたの?」


「うん。」


友人は笑った。


「怖かったから。」


「……そっか。」


私は自分の腕をさする。

 

そのとき。

 

ふと、肌に残った赤い跡が目に入った。

 

指の跡。

 

五本の指が、くっきりと残っている。


「……え?」


私は思わず腕を凝視した。

 

昨日、友人に掴まれていた場所。

確かに五本の指の跡がある。

 

でも。

おかしい。

 

指の跡が――

内側から付いている。


「……カンナ?」


友人の声。


「なに?」


振り返る。

友人が、不思議そうな顔で私を見ている。

そして。


「今の声……誰?」


私は何も答えられなかった。

教室の後ろ。

誰もいないはずの場所から


「ほら、何も起きないじゃん。」


私の声がした。



いかがでしたでしょうか


単純な言葉遊びです

門構えに声、いわゆる音をいれてしまった。

あなたは門に何をいれますか



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