表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

凪を乱す声

物語を読む前に、あなたへ。


もし未来が絶望に染まっていたら、あなたは何を選びますか。


逃げるか。


諦めるか。


それとも、抗うか。


これは——


すべてを失いながらも歩みを止めなかった


一人の少年が、絶望の未来を


希望の未来へ塗り替えようとした記録

- 1話「凪を乱す声」 -

薄暗い訓練棟の窓際、神谷伊織は静かに背筋を伸ばして座っていた。

足音、時計の秒針の音、呼吸――それ以外は灰色に吸い込まれる。

周囲の生徒たちも、監視官の目も、彼の意識の外に溶けていった。

その日も、窓の外の小道に少女が立っていた。

「……ねえ、君、大丈夫?」



声が風に乗って届く。

伊織はわずかに目を向ける。

返事はせず、窓の外をぼんやり眺めるだけ。

少女は小さく舌を出して、からかうように笑う。

「ふーん、無視するんだ。面白くないなぁ」



次の日もその次の日も、少女はやってきてはちょっかいを出す。

葉っぱを小道に落として転がしてみたり、石を軽くつつく真似をしたり。

「ねぇ、もっと見せてよ、つまんない顔してないでさ」



窓越しに身を乗り出すこともある。

伊織は動かず、手元の本や椅子に目を落とすだけ。

返事もせず、少女の声だけが灰色の世界に響く。


ある日、少女は窓の外から小さく身を乗り出して、伊織の手元の本をちょっと押す。

「ねぇ、覗かせてよ。ねぇ!」



伊織は肩をすくめ、再び視線をそらす。

返事はなし。

しかし繰り返すうちに、少女は少しずつ伊織のそばで遊ぶようになった。


小道を行き来しながら声をかけ、時折手を振る。

毎日同じ時間、同じ場所に現れることで、自然と伊織の視界に入る。


そして、その日——

少女は窓の外から軽く手を振った後、顔を近づけて笑う。

伊織は、思わず口を開いた。

「……名前は?」



少女は微笑み、短く答える。

「一ノ瀬澪よ」



その瞬間、水にドボンと沈むような感覚が胸を満たした。


灰色だった世界が、音と光と風に溶けて、色彩に満たされていく。


風も、木々も、窓の向こうの小道も——

すべてが、初めて鮮やかに見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ